第4話:運命の書の導きの果て(完)
ドアを開けると、そこに立っていたのは、アンティークショップの店主だった。
薄暗い店内で、「運命の書」を売ってくれた、あの老人だ。
「やあ、キラ君。久しぶりだね」
店主は、にこやかな笑みを浮かべて言った。
まるで、旧友に再会したかのような、親しげな口調だった。
しかし、俺は、この老人に、底知れぬ不気味さを感じていた。
「お前……一体、何が目的だ?」
俺は、低い声で尋ねた。
店主は、肩をすくめて言った。
「目的?そんな大げさなものではないよ。ただ、君がどうなったか気になってね」
「俺が……どうなったか?」
「ああ。運命の書を手に入れてから、君の人生は大きく変わっただろう?」
店主の言葉に、俺は言葉を失った。
この老人は、すべてを知っているかのようだ。
「あの本は……一体、何なんだ?」
俺は、震える声で尋ねた。
店主は、静かに答えた。
「ただの、古い詩集さ」
「詩集……だと?」
「ああ。栞に書かれた言葉は、私がいたずらで書いた冗談だ。本に浮かび上がる言葉は、君の心の中にある願望が投影されたものさ」
店主の言葉に、俺は衝撃を受けた。
すべては、俺の勘違いだったのか?
「運命の書」は、ただの詩集で、そこに書かれた言葉は、俺自身の心の投影だった?
「そんな……バカな……」
俺は、現実を受け入れられなかった。
今まで、俺は「運命の書」の指示に従ってきた。
その結果、俺はすべてを失った。
友人、家族、社会的地位、そして、自分自身を。
「なぜ……なぜこんなことをしたんだ!」
俺は、店主に向かって叫んだ。
店主は、落ち着いた様子で言った。
「私はただ、君に少し刺激を与えたかっただけさ。人間は、時に、刺激が必要なんだよ。特に、君のように、満たされない何かを抱えている人間はね」
「刺激だと?ふざけるな!俺の人生は、お前のせいでめちゃくちゃになったんだ!」
俺は、怒りを抑えきれなかった。
しかし、店主は、涼しい顔で言った。
「それは、君自身の責任だよ。君は、自分の欲望に負けた。それだけのことさ」
店主の言葉は、鋭いナイフのように、俺の心に突き刺さった。
確かに、店主は何も強制していない。
俺は、自分の意志で、「運命の書」の指示に従ったのだ。
すべては、俺の責任だった。
「俺は……」
俺は、言葉を詰まらせた。
何も言い返すことができなかった。
店主は、静かに言った。
「さあ、キラ君。もう、お別れだ。君の人生は、これからどうなるかは分からない。しかし、一つだけ言えることがある。それは、君自身の力で、未来を切り開いていくしかないということだ」
そう言うと、店主は、マンションの部屋を出て行った。
俺は、一人、部屋に取り残された。
窓の外には、夜明けが近づいていた。
しかし、俺の心には、夜よりも深い闇が広がっていた。
俺は、床に崩れ落ち、絶望に打ちひしがれた。
信者たちは、暴徒と化し、逮捕された。
ネット上には、俺を嘲笑うコメントが溢れかえっていた。
俺は、人気も、財産も、何もかも失った。
そして、誰からも見向きもされない存在となった。
俺は、静かに、この街から姿を消した。
まるで、最初から存在しなかったかのように。