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第1話: 高みを目指し、光を掴め

俺は、キラ。元人気YouTuber。

かつては激辛チャレンジ動画で億万長者も夢じゃない、なんて浮かれていた時代もあった。

画面の向こうから聞こえる「キラさん、かっけー!」の声。スーパーで買い物をすれば、握手を求められる。サインを求められる。

あの頃の俺は、まさに光り輝いていた。


……過去形だ。


今は、過去の栄光にしがみつくだけの、落ちぶれたYouTuber。

チャンネル登録者数は激減。再生回数も伸び悩み、毎日胃がキリキリと痛む。

サムネイルは過激さを増し、タイトルは釣りまみれ。それでも数字は上がらない。


「くそっ、また再生回数伸びてねえ……」


俺はパソコンを睨みつけ、舌打ちした。

画面に映る自分の顔は、やつれて、目の下に隈ができている。

かつてのキラキラした俺の姿はどこにもない。


「こんなはずじゃなかった……」


俺は呟いた。人気絶頂の頃、俺は動画でこう豪語していた。


「俺は、このYouTubeの世界で頂点に立つ男になる!」


現実とは残酷だ。俺は頂点どころか、底辺を這いずり回っている。


「何か……何か方法はないのか……」


そんな時、俺はあるアンティークショップを訪れた。

何冊か古本を漁っていると、明らかに年季の入り方が違う本があった。


「なんだこれ……?」


表紙には何も書かれていない。

恐る恐るページをめくると、一枚の栞が挟まっていた。

栞には、こう書かれていた。


「この本に記された詩を体現すれば、あなたは誰もが羨む人生を手に入れる」


胡散臭い。怪しい占い師の勧誘文句みたいだ。

しかし、藁にもすがる思いだった俺は、その本をさらにめくってみた。


最初のページには、何も書かれていない。

が、次の瞬間、ページの上部に文字が浮かび上がった。


「高みを目指し、光を掴め」


まるで、魔法のようだ。

俺は、この奇妙な現象に戸惑いながらも、その言葉に何かを感じた。

高み……光……?

もしかして、これは俺に与えられたチャンスなのかもしれない。


俺はその本をレジを持っていって店主に聞いた。


「この本だけ妙にボロいけど、何の本なんだ?」


店主はにこやかに答えた。


「今の君には必要な本かもしれないね。半額にしとくから買っていくといいよ」


俺はさっきの魔法みたいな現象に取り憑かれていたこともあって半額とはいえそれなりの額を払って本を買った。


「本に書いてあった高みってのは……高い場所ってことか?」


俺は、近所にそびえ立つ電波塔を思い浮かべた。

あの頂上に登れば、まさに高みに到達したと言えるだろう。

そして、頂上で自撮り動画を撮影すれば……


「よし、決めた!電波塔に登るぞ!」


俺は興奮気味に立ち上がり、準備を始めた。

リュックサックにカメラと三脚を詰め込み、スマホの充電を確認する。


「どこ行くの?」


母親が声をかけてきた。


「ちょっと出かけてくる」


「また動画の撮影?危ないことしないでよ」


母親は心配そうに言った。

以前、激辛チャレンジで病院に運ばれたことがあるからだ。


「大丈夫だって。心配するな」


俺は適当にあしらって、家を飛び出した。


電波塔の麓に着くと、フェンスに「立ち入り禁止」の看板が掲げられていた。


「ちっ、面倒くせえ」


しかし、そんなものは俺の決意を揺るがすことはできない。

俺はフェンスを乗り越え、電波塔へと足を踏み入れた。


「高みを目指し、光を掴むんだ……」


俺は自分に言い聞かせ、塔を登り始めた。

心臓はバクバクと音を立て、手足は震えていた。

しかし、頂上に辿り着いた時の光景を想像すると、恐怖よりも興奮の方が勝っていた。


「もうすぐだ……」


息を切らしながら、俺は頂上へと近づいていく。

そして、ついに頂上に到達した。

眼下に広がるのは、街の絶景。

まさに、高みからの眺めだ。


「よっしゃー!やったぜ!」


俺は歓喜の声を上げた。

そして、カメラをセットし、自撮り動画の撮影を開始した。


「みんな、見てるかー!俺は今、電波塔の頂上にいるぜ!」


俺はカメラに向かって叫んだ。

この動画がバズること間違いなしだ。

俺は再び、光り輝く存在になれる。


そんな確信めいた予感が、俺の胸を満たしていた。

しかし、この時、俺はまだ知らなかった。

この「運命の書」との出会いが、俺の人生を大きく狂わせていくことを。

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