表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

ビステッカ

第15ハブの酒場は、いつも煙臭い。


外の焚き火では、ハンター達が鍋を囲んでいた。


鉄鍋の中では、何の肉か分からない塊が煮えている。

脂が浮き、濁った汁が泡を立てる。


焦げた匂い。

古い油。

密造酒の酸っぱい香り。


誰も文句は言わない。


ここでは、腹に入ればそれでいい。



その横で、男は肉を取り出した。


デミカウ。


骨付きの赤身。


酒場の連中が眉をひそめる。


「肉?」


「食うのかそれ。」


男は答えない。


ナイフを抜く。


白い刃。


陶器のようで、しかし違う。

光を吸い込むような奇妙な素材。


骨に沿って刃を入れる。


肉が静かに開く。


抵抗がない。


「……そのナイフ。」


誰かが言う。


「何で出来てる。」


男は肩をすくめた。


「昔の物だ。」



通信が繋がる。


スーシェフの声。


「質問:それは食料用途ですか?」


「そうだ。」


「訂正:デミカウは工業資源です。」


「今日は食材だ。」


男は肉を厚く切り出した。


骨付き。


指二本分以上の厚さ。


焚き火の前に薪を組み直す。


火を整える。


炎が落ち着くまで待つ。


男は腰の袋を開いた。


乾いた葉。


指で砕く。


香りが広がる。


スーシェフの声。


「未知物質検出。」


「草だ。」


「旧時代アーカイブ検索。

タイム。ローズマリー。

または近縁種。」


ハンターが顔をしかめる。


「草なんか食うのか?」


男は笑った。


「火にくべるんだ。」



肉に塩を振る。


それだけ。


焚き火の上へ置く。


次の瞬間。


ジュッ。


脂が落ちる。


炎が上がる。


男は香草を火へ投げた。


煙が立つ。


匂いが変わる。


香ばしい肉。

焼けた脂。

そして、爽やかな草の香り。


酒場の空気が止まる。


鍋をかき混ぜていた男の手が止まった。



スーシェフが言う。


「質問:同一火源で調理している。」

「しかし周囲料理との品質差が予測される。」


男は肉を返す。


焼き色がついている。


「火が料理を決めるんじゃない。」


煙が揺れる。


「火の扱い方が料理だ。」



肉を火から外す。


木板に置く。

ランプが明滅する。


「質問:調理終了?」


「まだだ。」


「意味不明。」


男は肉を休ませる。


数十秒。


そしてナイフを入れる。


肉が割れる。


赤い断面。


肉汁が溢れる。


スーシェフが沈黙する。


「……解析不能。」


「味覚センサー値、既存モデルと一致しない。」



男は一口食べた。


静かに頷く。


「成功だ。」


後ろで誰かが言う。


「……ちょっと寄越せ。」


最初に手を出したのは、あのギルド職員だった。


肉を噛む。


沈黙。


もう一口。


「……なんだこれ。」


周囲が集まる。


肉が消えていく。



職員は腕を組んだ。


「さっきの件だが。」


男を見る。


「納得はしてない。」


しかし端末を差し出す。


電子クレジットが追加される。


「……だがまあ。

いい狩りだった。」


男は端末を受け取った。


背中のライフルを見る。


焼けたコンデンサ。


「問題はこっちだ。」


スーシェフ。


「質問:武器修理ですか?」


男は笑う。


「いや。」


酒場の外を見た。


「料理道具の修理だ。」


荒野の風が吹く。


次の街へ向かう理由が、また一つ出来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ