ビステッカ
第15ハブの酒場は、いつも煙臭い。
外の焚き火では、ハンター達が鍋を囲んでいた。
鉄鍋の中では、何の肉か分からない塊が煮えている。
脂が浮き、濁った汁が泡を立てる。
焦げた匂い。
古い油。
密造酒の酸っぱい香り。
誰も文句は言わない。
ここでは、腹に入ればそれでいい。
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その横で、男は肉を取り出した。
デミカウ。
骨付きの赤身。
酒場の連中が眉をひそめる。
「肉?」
「食うのかそれ。」
男は答えない。
ナイフを抜く。
白い刃。
陶器のようで、しかし違う。
光を吸い込むような奇妙な素材。
骨に沿って刃を入れる。
肉が静かに開く。
抵抗がない。
「……そのナイフ。」
誰かが言う。
「何で出来てる。」
男は肩をすくめた。
「昔の物だ。」
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通信が繋がる。
スーシェフの声。
「質問:それは食料用途ですか?」
「そうだ。」
「訂正:デミカウは工業資源です。」
「今日は食材だ。」
男は肉を厚く切り出した。
骨付き。
指二本分以上の厚さ。
焚き火の前に薪を組み直す。
火を整える。
炎が落ち着くまで待つ。
男は腰の袋を開いた。
乾いた葉。
指で砕く。
香りが広がる。
スーシェフの声。
「未知物質検出。」
「草だ。」
「旧時代アーカイブ検索。
タイム。ローズマリー。
または近縁種。」
ハンターが顔をしかめる。
「草なんか食うのか?」
男は笑った。
「火にくべるんだ。」
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肉に塩を振る。
それだけ。
焚き火の上へ置く。
次の瞬間。
ジュッ。
脂が落ちる。
炎が上がる。
男は香草を火へ投げた。
煙が立つ。
匂いが変わる。
香ばしい肉。
焼けた脂。
そして、爽やかな草の香り。
酒場の空気が止まる。
鍋をかき混ぜていた男の手が止まった。
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スーシェフが言う。
「質問:同一火源で調理している。」
「しかし周囲料理との品質差が予測される。」
男は肉を返す。
焼き色がついている。
「火が料理を決めるんじゃない。」
煙が揺れる。
「火の扱い方が料理だ。」
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肉を火から外す。
木板に置く。
ランプが明滅する。
「質問:調理終了?」
「まだだ。」
「意味不明。」
男は肉を休ませる。
数十秒。
そしてナイフを入れる。
肉が割れる。
赤い断面。
肉汁が溢れる。
スーシェフが沈黙する。
「……解析不能。」
「味覚センサー値、既存モデルと一致しない。」
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男は一口食べた。
静かに頷く。
「成功だ。」
後ろで誰かが言う。
「……ちょっと寄越せ。」
最初に手を出したのは、あのギルド職員だった。
肉を噛む。
沈黙。
もう一口。
「……なんだこれ。」
周囲が集まる。
肉が消えていく。
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職員は腕を組んだ。
「さっきの件だが。」
男を見る。
「納得はしてない。」
しかし端末を差し出す。
電子クレジットが追加される。
「……だがまあ。
いい狩りだった。」
男は端末を受け取った。
背中のライフルを見る。
焼けたコンデンサ。
「問題はこっちだ。」
スーシェフ。
「質問:武器修理ですか?」
男は笑う。
「いや。」
酒場の外を見た。
「料理道具の修理だ。」
荒野の風が吹く。
次の街へ向かう理由が、また一つ出来た。




