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ビステッカ part A

荒野の谷間を、我々の群れが進む。

どの生物にも分け隔てなく必要なその身を潤す源を、オアシスを求めて我々は進む。大きい者から小さい者、この群れの始まりとなった者、ついこの間、()()()()()()()、その全ての我々はこの乾いた地で寄り添う家族として、一族として生きていく。

大地から恵みが乏しくなって久しいが、我々は今もこの地で一族を繁栄させていく事が出来ている。季節と共に決まった地を移動し決まった物を食し決まった休みを取る。

まだ芳醇な恵みがあった頃から変わらぬ我々の営みの姿。


ただ、ただ一点、その群れの足並みが、歩幅が、順列が、一糸の乱れも無く、機械的に進むようになった事を除いて、我々の群れは進む。


----------------------


荒野砂漠の広がる無慮な地平線。熱風が砂塵を巻き上げ、焼けつくような日差しで大地を焼き尽くす。その中、孤立した牛のようなシルエットの異形が荒野の中心にひっそりと佇んでいた。皮膚のない肉が金属の骨格に覆われ、白い陶器のような殻を持ち、その異形は静かに水を求めているようだった。背中には小さな水槽が設置され、その中には希少な水資源がわずかに残されている。


荒野の隅にひそむ男は、ボロを被った姿でライフルを構えていた。

人が持つ設計でない(何かの片腕のような)ライフルは、長年の戦闘と無理な改造により、壊れる寸前の状態だった。それでも彼の意志は強く、不確かな状況でも最後の一撃を放つ覚悟でいた。彼の眼光は鋭く、熱風にも負けずに牛のようなシルエットの異形を見据えていた。


息を止め、狙いを定める。一瞬の沈黙の後、ふと弱い何かの力が異形の意識に浸透する。首だと思われる部分を持ち上げた異形は、水を求める欲求とは別の何かに引き寄せられるように、ゆっくりと動き出した。


男はライフルのトリガーを引き絞り、目を見開いた。()()()()()()()()異形に、跳ねた心臓の鼓動が耳に響き、砂塵の中でかすかに狙いが震える。しかし、彼の狙いは確かだった。彼の指は瞬時に反応し、ライフルから一発の弾丸が放たれる。その瞬間、異形が地面に倒れ、熱風によって砂が舞い上がる。


消えた音が帰ってきた。いつぶりかの息を吸うと、男は満足げな笑みを浮かべ、ライフルを下ろす。だが、その笑みも一瞬で消え、ライフルのコンデンサから煙が立ち上るのを見て、思わず溜め息をつく。やはりこれが最後の一撃だった。彼は周囲を見回し、倒れた異形を見定め、バックパックを背負った。


荒野の中に再び静寂が広がる。日差しは依然として容赦なく照りつけ、熱風が荒野を包み込む。牛のようなシルエットの異形は静かに地面に倒れ、その姿は孤独な荒野にさらされていた。


----------------------


人類生存権限界層の旧機械A統治地区に位置する第15ハブ。その中心に狩りから帰還した彼が立っていた。破損したライフルを持つのもそろそろつらい。彼の顔には疲労と緊張が交錯し、不穏な空気が漂っていた。目の前には当該地区を管理する人類代表、第15ハブ管理者が立っており、彼らの間で狩りの方法についての揉め事が勃発していた。


「獲物の外傷がコアへの1撃だけだったのは、積み重ねた技術の結果だ。特段、変わったことはないだろ。」

手に持ったライフルをカウンターに立てかけると、長椅子に座り、歩き通しで悲鳴を上げる脚を投げ出した。


それを聞いたハブ管理者は怒りを隠そうともせず机を叩いた。

「変わったことはない?弾丸を検知し避けるデミカウを?一撃必殺で始末して?どうやって当てたのか、ったく明快な答えをしてくれよ!」


叫び声に反応するかの様に、呼び出しを知らせる様な機械音が鳴り、くすんだランプが点灯した。

「複数のヒューマンの心拍、血圧の上昇を確認。ログを参照。揉め事は解決すべきだ。質問:スナイパー、狩りの方法について詳細を明示せよ」


当該地区を管理するAIの介入。ハブ管理者の言葉を聞き流していた彼も、これは不利になったと感じ、髪を掻きむしると、顔を顰めた。

「だから説明してんだろ…。話にならねぇ。管理AI、お前、中央にアクセスしろ。スーシェフを呼べ。」


彼が要求すると、少しの間の後、管理AIは権限がないと拒否した。


「スーシェフを呼べ。いいから呼んでみろ。呼べば分かる!」

再度の要求にも、管理AIは少しの間の後、権限がないと拒否をした。


机を叩き、彼が立ちあがろうとした時、壊れたラジオの様な音と共に、何かが混線し、ランプの色が赤へと変わった。

「ログを参照。失礼しました、シェフ。この様な辺境では私のテーブルコーディネートも至らず。質問:お待たせ致しましたが、今日のご注文は?」


生きている間に(しんだときいがい)聞くことのないとされる中央管理AIの登場にハブ管理者が驚く中、彼は深くため息をつき、状況を説明した。


「俺が獲物を撃つ方法について疑問が生じている。彼らは詳細を知りたがっているが、俺は特に変わったことはない、()()()()()()()()()()()()()()()()()。疑われているよ、俺は。」


「回答を理解。なるほど、これはまさしく調理工程の行き違い。フライパンを用いた調理とオーブンの調理。どちらも素晴らしいが、どちらも食したお客様からは簡単には分からない。ハブ管理者様、質問:どうやって調理したか(どうやって殺したか)、知る必要性は?」


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