第6話 「赤竜が俺の知らない間に神獣になっていた」
冒険者ギルドのギルドマスターからブルーチェリーの情報を聞く為に俺は赤竜討伐に参加することになった。
赤竜討伐なんてしたくないのになぁ。
今の俺なら流石に死闘になることはないと思うが、赤竜討伐に参加する他の冒険者達を守りながら戦うとなると少しキツい。
とりあえず、ギルドマスターが他の討伐参加メンバーを連れて来るまで待機しておくか。
俺は冒険者ギルド内の空いていた席に座った。
赤竜とどうやって戦うか考えようかと思っていると、周りに冒険者が集まってきた。
「お前すげぇなー!!」
「すげぇすげえ!!
「ギルドマスターにスカウトされるなんてすげぇよ!!」
「すげえー!!!」
凄い凄いうるさいな。
俺の周りに集まってきた冒険者達は知能レベルが低いのか、さっきの俺と酔っ払い男の戦闘を見たことによる興奮なのか、凄い凄いしか言ってこない。
話しかけてくるなら普通の会話がしたいものだ。
「なぁ、冒険者ギルドはいつからあるんだ?」
このまま冒険者達を放って置いても凄い凄いしか言ってこなさそうなので、適当な質問をすることにした。
「冒険者ギルドがいつからあるだって〜?俺は知らないな。誰か知ってる奴いるか?」
凄い凄い言ってた冒険者の1人が周りの冒険者に聞いた。
「俺も知らないな〜。」
「俺も俺も。」
「生まれた頃にはすでにあったからな〜。分かんねぇや。ごめんな!」
冒険者ギルドがいつからあるのか誰も知らないようだった。
そんなに昔からあるのか?
俺がマシューとして死んでから一体どれくらいの年月が経ったんだ?
「あっ!でも!」
冒険者の1人が声を上げた。
「クレハちゃんなら分かるかもしんねぇぞ!」
「そうだな。クレハちゃんなら知ってると思う。」
「そうだ!俺たちにはクレハちゃんがいる!!!」
クレハとは受付のお姉さんだ。
クレハさんは多分この冒険者ギルドのアイドル的存在なんたろうな。
冒険者達からの信頼度もめっちゃ高そうだし。
「クレハちゃん!冒険者ギルドがいつからあるか知ってる?」
冒険者の1人がクレハさんのところに駆け寄り、質問した。質問するついでにクレハさんの大きな胸の谷間をを鼻を伸ばして見ていたが。
「あぁ。そうですね。勿論知っていますよ。この冒険者ギルドは今から10年前にギルドマスターが冒険者引退すると同時に設立されたんです。最初の方は冒険者でも冒険者ギルドに入らない人が多かったそうですが、ギルドマスターの尽力のお陰か今はこの街の冒険者のほとんどが冒険者ギルドに加入しています。」
「教えて下さりありがとうございます。」
「礼を言われるほどのことでもありません。」
クレハさんは優しい人だ。
これからも災難が起きず幸せに暮らしていってほしいな。
それとさっき生まれる前から冒険者ギルドがあったとか言ってた奴記憶力大丈夫か?
明らかに10歳児ではなくおっさんだった。
他の奴らも何で10年前の事も忘れてんだよ。
10年前の朝飯に何食ったか覚えていないのは当たり前だが、冒険者ギルドが設立した年くらい覚えとけよ。
冒険者ってこんなにアホばっかだったっけ?
俺の記憶の中でのアビスロック出身の冒険者達はとても勇敢で誇りを持っており、知性に溢れていたのだが。
その後も俺と冒険者達は雑談をした。
最近彼女が出来たとか、借金が返せないから誰か助けてくれとか、買ったばっかの剣が盗まれたとか。
冒険者達の話は聞いているだけで面白かった。
それは今も昔も変わらないんだなと思った。
「お待たせーーーい!!!」
ギルドマスターの声がした。
どうやら討伐メンバーを連れてきたみたいだ。
ギルドマスターの後に続いて三人の男女が歩いていた。
男が二人、女が一人。
一人は背が二メートル以上ある巨体だった。おそらくさっきの酔っ払い男よりも遥かに大きい。
髪は残念なことにハゲてしまったのかそれとも自分で剃っているのかは分からないが、髪の毛は一本も生えていなかった。
背中には二メートル近い長さの大剣を背負っていた。
多分彼は大剣使いなのだろう。
身体も筋肉も他の冒険者とは比較にならないくらい鍛え上げられていた。
眼は黒色で、皮膚は茶色だ。
もう一人の男は背が少し低い。
成人男性の中ではかなり小柄な方だろう。
きれいな金髪で後ろで髪を結んでいる。
眼は大剣の男と同じく黒色だ。
肌は透き通った白色た。
背中には弓を背負っている。
おそらく男は弓使いだ。
矢は魔法で作るのだろう。
最後の一人の女は成人女性の平均身長よりも背が高い。
彼女は弓使いの男ど同じ金髪で黒眼、透き通った白い肌だ。もしかしたら兄妹なのかもな。
髪は肩にかかるかかからないかくらいの長さだ。
背中にはマントを羽織っている。
よく見ると彼女の腰の両側にそれぞれ三本ずつ短剣が装備されていた。
多分彼女は暗殺者か盗賊か短剣使いだろう。
そして三人ともに他の冒険者とは一つも二つも違う。
この三人は冒険者達の誰よりも自信に満ちた眼をしている。それは過信ではなく、本当に自分の実力に自信があるのが伝わってくる。
ギルドマスターと三人が俺の座っている席の前まで来た。
さっきまで群がっていた冒険者達はいつの間にか散らばっていた。
この冒険者ギルドの冒険者は臆病者が多そうだ。
「待たせたな。君。」
「流星で良いですよ。」
「そうか。では、流星待たせたな。」
「いえ、ここの冒険者ギルドはとても雰囲気の良いところですね。冒険者さん達大体みんな良い人っぽいですし。酔っ払い以外は。」
「そうだろう。この冒険者ギルドは俺の誇りであり俺の全てだ。」
ギルドマスターはこの冒険者ギルドが、いや、この街が大好きなのだろう。そうでなくては俺なんかにわざわざ討伐のスカウトをしてくるはずがない。
どんな手段を使ってでもこの街と冒険者ギルドを守りたいのだろう。
「では今回の赤竜討伐の参加メンバーを紹介する。まずこのクソデカい奴がクウガだ。」
「俺の名はクウガ。今回赤竜討伐に参加する者だ。職業は大剣使いだ。よろしくな。」
「僕はルーク。同じく赤竜討伐に参加します。職業は弓使いです。よろしく!」
「私はミカ。二人と同じく赤竜討伐参加メンバーだよ。職業は盗賊。よろ!」
「もうギルドマスターから聞いていると思うが俺は今回赤竜討伐参加メンバーの流星だ。よろしく。」
俺達は挨拶を交わした後冒険者ギルドの会議室に連れて行かれた。
会議室は防音構造になっており外から声が聞けないようになっている。
10人入れるか入れないかくらいの広さだ。
部屋は長方形の机を中心に入口を除く場所に椅子がある。
ギルドマスターが入口から見て一番奥の席に座り、俺とクウガが左側の席に、ルークたミカが右側の席に座った。
「これから赤竜討伐の作戦会議を行う。」
「「「了!」」」
ギルドマスターが会議開始の号令を行うと、俺以外の三人が応答した。
「本題に入る前にまず赤竜についての情報を整理しておく。四人は赤竜についてどれくらいのことを知っている?」
「あまり知らないな。」
「噂には聞いたことがある程度ですね。」
「なんか強い!ってことは知ってる!」
ギルドマスターの質問に三人が応答したが、どうやら三人は赤竜のことをほとんど知らないらしい。
「三人は知らないか。流星はどれくらい赤竜のことを知っている?」
ギルドマスターが今度は俺に質問を振ってきた。
あぁ知っているさ嫌というほどね。
「知っていますよ。赤竜については詳しいと思います。」
「ありがたい。ギルドマスターでありながら赤竜についてはほとんど知らないのでな。教えてくれたら助かる。」
このギルドマスター、赤竜のことをただの竜族と同じだと思っているのか?
だから赤竜との戦闘経験皆無どころか赤竜の情報を何一つ知らない冒険者を集めたのか。
これは面倒なことになりそうだ。
「今回の赤竜討伐ですが。まず、今回は俺一人で討伐します。赤竜のことを何も知らない人達と共同で討伐するとなると足手まといです。」
「俺達が足手まといだと?本気で言ってんのか?」
「勿論本気で言ってますよ。赤竜は他の竜族とは全く違うのです。赤竜は他の竜族と違い高度な知能を持っています。そして我々と同じ言葉も話します。知能のない小型の竜族でもその硬い皮膚と段違いの攻撃力とスピードで討伐するのに相当苦労するのは知っていますよね?」
「ブハハハハ!!竜族に知能があるだって?面白いこと言うなお前。」
クウガは赤竜に知能があることを信じてくれないようだ。
無理もない。俺も実際に赤竜に遭遇するまでは信じていなかったしな。
まぁでも今回は俺一人で行かせてもらう。
「もういいです。俺一人で赤竜討伐に行きます。」
「ちょっと待ってくれ!赤竜に知能があるのは本当なのか!?」
「だから本当だと言っているじゃないですか。」
ついさっきまで冷静だったギルドマスターが急に驚き興奮した顔をしていた。赤竜に知能があったのがそれほどまで驚いたのか?
「竜族が喋るのは神話の中だけではなかったのか!やはり言葉を持っている竜族は存在したのだ!それが赤竜だとは驚いたがな。」
知性があり言葉を使う竜族は神話の中の話だって?
赤竜は確かに珍しいが神話に載ってはいなかったはず。
俺がマシューとして死んでからどれくらい時間が経ったんだ?俺が生きていた頃は赤竜が喋ることは噂程度には皆知っていたのだが。
「最近で赤竜討伐に行った人はいないのですか?」
「俺が現役の冒険者の頃に一人だけ赤竜にあったと言っていた奴がいた。それ以外には聞いたことがないな。」
「それなら何で今回洞窟に出現した竜が赤竜だと分かったんですか?」
「それは神話の時代にいたという赤竜に姿形がそっくりだったと発見した冒険者が言っていたからな。」
赤竜は神話の時代の神獣と化していたのだ。
もしかしたらマシューとして死んでから何万年も経ったのかもしれない。
「話は終わったようなので赤竜討伐に行きます。」
俺は席から立ち上がりドアに手をかける。
「ちょっと待ってくれ!」
後ろを振り向くとクウガが俺の腕を握っていた。
こいつまだ俺を馬鹿にしたいのか?
「まだ笑い足りないのか?笑うなら早くしてくれ。」
「ち…ちがう!さっきはすまん。よく話も聞かずに笑ってしまって。でももし洞窟に神話に出てくる赤竜が居て、しかも言葉を話すんだとしたら俺も見てみたい!連れて行ってくれないか?」
クウガにさっき俺の言ったことに嘲笑していた時の馬鹿にしたような表情は一つも無かった。
むしろクウガの眼は子供が遊園地に行きたいと親に向けるような輝きをしていた。
手のひら返ししすぎだろ。
「だから赤竜討伐の経験がない人がいたら迷惑なんです。俺一人の方が断然マシです。」
「僕も連れて行ってください!」
「私も赤竜を見てみたいです!お願いします。」
ルークとミカも俺に同行をお願いしてきた。
まあ、それでも一人で行かせてもらうが。
「だから経験ない人がいる…」
「俺からも頼む!!三人を連れて行ってやってくれ!これはギルドマスターではなく俺個人での頼みだ!」
ギルドマスターはバカでかい音量の声で俺の声を遮って、頭を深く下げて頼んできた。
そこまでして三人を行かせたい理由があるのか?
「この三人はな。最近依頼で王都に行ったのだ。その時の依頼は達成したのだが、悪徳貴族に全て手柄を取られたのだ!それだけではない!三人は依頼を達成出来なかった癖に金だけ貰いやがってと王都の人々に言われた始末だった。」
どうやら今回の赤竜討伐は三人の名誉挽回のようだ。
そんな聞いているだけでその悪徳貴族を殴りに行きたくなるような話を聞かされてしまっては俺は頼みを断れない。
「はぁ…分かりました。三人が死なないように出来るだけ努力します。」
「ありがとう!流星!」
「ありがとうございます!」
「やったあ!!」
三人は次々に俺にお礼の言葉を言った。
はぁ…今回の赤竜討伐は面倒なことになりそうだ。
「流星ありがとう。どうか、三人をよろしく頼む。」
ギルドマスターはまた俺に深く頭を下げた。
「ギルドマスター。一つ聞いていいか?赤竜討伐に俺を選んた理由は何だ?」
「それは流星の眼が計り知れない程の死線をくぐってきた者の眼だったからだ。」
ギルドマスターは名のある冒険者だっただろうな。
俺の眼を見ただけでそこまで分かるとは凄い観察眼だ。
「そうですか。では行ってくる。」
そうして俺達四人は赤竜討伐に向かった。
第6話を読んで下さりありがとうございます!
明日も投稿するのでぜひ読んで下さい!