ショートホラー第3弾「歯ブラシ」
「あれ?」
洗面所に立ち歯磨きをしていると妙な事に気づく。
歯ブラシ立てに置いてあるの紫色のラインが入った歯ブラシ。
おかしい。昨日までは無かった。
そもそも俺の歯ブラシは青色のラインが入ったものだ。
先日まで同棲をしていた彼女の顔を思い浮かべる。
マッチングアプリで知り合いあっという間に恋に落ち同棲まで始めた。
でもあいつには他にも男が居て、結局破局した。
もしかしてユミが忘れていったのか?
いや、あいつは出て行くときに私物を全部持っていった。
合い鍵だって返してもらったし……まさかさらに合い鍵を作られているのか?
「気持ち悪いな……」
俺は知らない歯ブラシをごみ箱に捨てた。
□
その日の夜。
仕事から帰り、食事を終わらせた俺はしばらくテレビを見て過ごしそろそろ寝ようかと洗面台に向かう。
「あれ?」
デジャヴって奴だよ。
そこにはやはり紫色のラインが入った歯ブラシが立ててあった。
おいおい、朝ごみ箱に捨てたじゃん。
だがごみ箱を確認するとそこに歯ブラシは無かった。
捨てたと思い込んでいたのかな?
俺は歯ブラシを捨てた。
そして翌朝にはごみとして出してしまった。
□□
更にその夜。
「いやいや、おかしいだろ」
またそこに歯ブラシはあった。
え、何ですかこれ?
歯ブラシに取りつかれてる?
しかも触ると毛の部分が少し濡れている。
「何がどうなってるんだよ……」
それからだった。
捨てても捨てても歯ブラシは立てかけてある。
これはもしかして俺の留守中に誰かが入って来てる?
ユミが合い鍵のさらに合い鍵を作っていてそれが誰かの手に渡った?
考えた末、俺はそういう事に詳しそうな友人に相談し玄関と洗面所に隠しカメラを仕掛けた。
そしてその夜……
「やっぱりあるよな……」
歯ブラシはまた置いてあった。
俺はアプリを使いスマホで映像をカメラの映像を確認することにした。
まずは洗面所だ。
すると俺が出かけてしばらくして、異変が起きた。
腰まで黒い髪を伸ばした女性がゆっくりと洗面所に入り歯磨きをするとそれをそっと立てかけていた。
そして俺の歯ブラシをしばらく撫で、ゆっくり出て行った。
「何だよこいつ。ストーカー!?くそっ、気持ち悪ぃ!やっぱりユミのヤツ、腹いせに誰かに鍵を渡しやがったな!!」
これは完全に不法侵入じゃないか。
警察に被害届を出してやろう。
俺は玄関の映像も確認した。
だけど……
「あれ?な、何でだ?」
女が洗面所に現れた前後、玄関に異常はなかった。
というか俺が出て行ってから帰って来るまで玄関は一切開いていない。
背筋を冷汗が流れた。
「ちょっと待てよ。それじゃあ、あの女は……」
ガタッと音がした。
その音に振り返るとそこには歯ブラシを持って立つ女がいた。
「バレちゃった。えへへ……」
彼女は真っ黒な歯をのぞかせながらニコッと笑った。
『彼女』は何処にいたのか?そもそも生きている人間か、幽霊なのか?
敢えてぼかした最後にしてみました。
ひとり暮らししている身としては凄く怖い話です。