第三話 過去から今
ライアンは、ウェルズ伯爵家の屋敷へ向けて、クラディウス領の路面電車が通っていない為、馬車に揺られていた。
ウェルズ伯爵は、曾祖母にあたる人の実家である為、今の当主の祖父の妹と言うことになる。
体面には、呑気に眠っている父がいた。
ほのかに聞こえる寝息が、眠りを誘う。
現在は夕方、クラディウス領の最後の街を出てから一時間、太陽は大気圏を超え、地上に熱と光を届けていた。
熱に焙られつつある馬車内は不思議と冷気に包まれていた。
窓から入る日の光が暖かく感じる中、ライアンは眠気に襲われつつあった。
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次に起きたときは、日は傾き、どこぞの町に影がかかる頃だった。
「起きたか。もうすぐだぞ」
父は既に起きていた用で、窓を開けて葉巻を吸っていた。
「父さん、煙草は身体に悪いよ」
「これがないとやっていけん!」
父は、口いっぱいに煙をため、吐き出す。
煙は窓の外に出ると、風に流れるように去っていく。
ライアンは、ハンカチを出し、顔を乾拭きする。
父は、ライアンを黙って見つめていた。
「なんだよ」
「爺臭いぞライアン」
「確かに」
ライアンはハンカチを裏返し、畳み直してしまう。
父も葉巻の火を消し、窓を閉める。
馬車は、平原を進み、やがて壁のある町へ入るのだった。
旗を立て、先遣隊を送ったことで、門は隣を素通りすることで超えた。
屋敷は、我が家のように森に囲まれているわけではなく、大きな屋敷が大きな屋敷が複数ある街路の最も上にあった。
屋敷の前の大きな噴水、そのそばに止まり、扉が開かれる。
「よし、行くか」
父は一言声を掛け、降りる。
追従してライアンも降車する。
父は、ライアンが降りたのを見ると、迷わず扉に向かう。
扉の隣に構えている青白の正装姿の騎士が、父を止める。
「失礼ですが、お名前を伺っても?」
「ジョン・クラディウスです。招待状はこちらに」
父は、懐から招待状を出す。
騎士が招待状と巻物を確認し、ペンでチェックを入れる。
「ようこそおいでくださいました、クラディウス卿、中へどうぞ」
「ありがとう」
そのまま、会場に案内され、先日以来二度目のパーティーとなる。
既に、多くの招待客が集まり、伯爵の御令嬢がお披露目されるのを、今かと待ち望んでいる様に、話を弾ませていた。又、彼らの多くは子女を連れ、特に男の子を連れている人が多い。
「これが、誕生日パーティーだ」
父が歩みを進めながら、ライアンに話す。
「どうやら伯爵は、今日、婚約者を決めたいらしい」
クラディウス家には来ていなかった、子供連れ歓迎の招待状は、その効果を遺憾なく、そして正しく発揮していた。
「クラディウス卿」
斜め後ろから、父を呼び止める声が聞こえる。
振り返れば、白いひげを生やし、頭を反射させた眼鏡をかけた貴族服の男がいた。
「おお、ファーレン伯爵!」
父は、彼に歩み寄ると、伯爵と握手をする。
「お元気でしたか」
「ええ、王都での王宮主催の舞踏会以来ですな」
「ああ、あの時ですか。いやはや、私も年を取りましたな」
「違いありませんな」
共に笑いあう父と伯爵を眺めつつ、俺はどうするべきか考えていた。