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F01:ゴブリンすら倒せない

全5話。12時、14時、16時、18時、20時の連続投稿です。

 今日も無事に仕事を終えた。

 完了報告のため、俺は冒険者ギルドに向かう。

 冒険者ギルドに近づけば、出入りする冒険者と遭遇することも増える。

 彼らの俺に対する視線は、あまり好意的ではない。


「げっ、ドブさらいのおっさんじゃねーか。くっせーな、今日も」


 別に、いい匂いがする冒険者なんていない。魔物と戦えば泥だらけになったり返り血を浴びたりする。だがそういうのは、冒険者にとって「戦ってきた証」であり「勲章」なのだ。

 一方、俺の悪臭は、戦闘とは関係ない街の中でのドブさらいによるもの。


「おっさん、確か今年で40歳じゃなかったっけ?」


 確かにそうだが、なんでこいつが知ってるんだ?

 てか、お前誰だよ。俺はお前を知らねーよ。


「いつまでもFランクのままドブさらいなんか続けてて、恥ずかしくないわけ?」


 Fランクというのは、AからFまで6段階ある冒険者ランクの一番下だ。ランクは実績で変動するが、俺はドブさらいばっかりやってゴブリンの1匹も倒していないので、25年間Fランクのままである。

 だが、これは俺の生き方だ。恥ずかしいとは思わない。余計なお世話だ。俺は勇敢に戦って死ぬより、泥臭く長生きしたい。

 じゃあ冒険者なんかやってないで農民にでもなれ、とよく言われるが。それこそバカな話だ。農民になろうと思ったら、土地を買ったり農具を買ったりするので膨大なお金が必要になる。自分で開墾すれば土地は買わなくてもいいが、農具を一式そろえるだけで普通に家が建つほどの金額になる。

 残念なことに、そこまでして農民になっても生活はあまり楽ではない。なんせ農作物の半分以上を税でとられてしまう。


「おい、無視してんじゃねーよ」


 威勢のいい冒険者は、俺の肩を掴んだ。

 だが、その彼の肩を掴む男がいた。


「おい、あんちゃん。ドブさらいを馬鹿にするんじゃねーよ」


「お前さんが飲み食いしたあとの皿の汚れ、垂れ流したクソ、服や体を洗った汚水……全部ドブに流れるんだぜ」


「ドブさらいをやってくれる冒険者がいなきゃ、今頃はドブがあふれてるよ」


「このボルトさん以外、どこの誰がドブさらいをやってくれたんだい?」


「25年間、この街がきれいなままなのは、このボルトさんが毎日ドブさらいをやってくれてるおかげじゃないか」


 たまたま近くにいたおっちゃん、おばちゃんが、足を止めて集まり、威勢のいい冒険者を取り囲んで睨みつけていた。

 こういう所だ。こういう所があるから、俺はまた明日もドブさらいを頑張ろうと思える。


「みなさん、ありがとうございます」


「いいんだよ。みんなボルトさんには感謝してるさ」


「隣町じゃあ、この間も雨でドブがあふれて街中ひどい悪臭だったんだ。

 この街じゃ、ドブがあふれた所なんか1つもねぇ」


「ボルトさんのおかげで、この街は快適そのものさね」


 威勢のいい冒険者を睨みつけていたおっちゃん、おばちゃんたちが、笑顔で俺に振り向き、賞賛の言葉をくれる。時には言葉だけでなく、食べる物や着る物をくれた事もある。本当にいい人たちだ。みんな優しい。

 威勢のいい冒険者は、こそこそ逃げるように立ち去った。





「ボルトさん、いつもありがとうございます」


 完了報告をすると、受付嬢がにこりと笑って報酬をくれた。

 そして報酬と一緒に、1枚の依頼書を差し出してきた。


「これは?」


「ボルトさんにお願いしたい依頼です。

 今日でドブさらいは1周しましたよね? 明日からはスライム狩りや薬草採取でしょう?」


「ええ、まあ……」


 ドブさらいは区画ごとに連日おこなうが、1度さらうとドブはしばらく調子よく流れるので、一通りドブさらいが終わったらしばらく暇になる。

 その間、俺はスライム狩りや薬草採取をする。

 俺はどうもひどい運動音痴のようで、剣も槍も弓も才能がなく、子供ほどの力しかないゴブリンにも負ける。力が弱い分、こちらを翻弄するように動き回ったり、武器攻撃の合間に格闘攻撃や投擲を織り交ぜたり、色々と工夫してきやがるのだ。

 武術がダメなら魔術で……と思ったが、しかし俺には魔法の才能もなくて、使えるようになったのは弱っちい雷魔法だけ。当たると痛いが、痺れもなければケガもしない。

 つまり、俺にはスライムぐらいしか倒せない。スライムは動きが遅いから、俺でも倒せる。それ以外の魔物に出会ったら、逃げるが勝ちだ。そういうわけで、戦わなくていい薬草採取ぐらいしか、できる事がない。前に逃げ出したペットの捜索に挑戦したが、見つけることはできても捕まえることができなくて失敗した。


「じゃあ、お願いできませんか?」


 依頼書を見ると、内容は手紙の配達だ。

 ただし目的地は隣国。魔法学校の教師をやっている娘への手紙らしい。

 報酬は、配達としては普通の金額だ。必要経費を差し引いたら、ちょっとしか儲からない。

 要するに、割に合わない仕事だ。目的地が遠いので、これを受けるなら毎日なじんだ街で過ごせる薬草採取を繰り返したほうが、気が楽で安全だろう。遠出するとどんなトラブルに見舞われるか分からない。まともな冒険者なら、ゴブリン狩りでもしたほうが儲けも大きい。


「わかりました」


 だからこそ、これは俺にしかできない依頼だ。

 薬草採取は1度やるとまた生えてくるまで待たなくてはならない。スライム狩りでは稼ぎがもっと悪くなる。ゴブリンからも逃げるしかない俺には、薬草が豊富な森に入ることすら危険。

 つまり、俺限定で、この依頼は「おいしい仕事」になる。





「ぶはっ! し、死ぬかと思った……!」


 川の中から岸に上がり、俺はその場に座って体を休めた。

 まったく不運な出来事だった。

 俺は街道を歩いていた。その街道が森にさしかかったところで、ゴブリンに襲われた。俺は逃げた。ゴブリンは複数いて、連携して俺を包囲するような動きを見せた。なので俺は、包囲されないように逃げたわけだが、そうすると街道から外れて森の中に入ることになった。

 たぶん俺は、ゴブリンたちにどこかへ誘導されていたのだろう。待ち伏せが計画されていたのだろうと思うが、俺はそこまで到達する前に、木の根に足を引っかけて転んだ。そのまま斜面を転がり落ちて、川へドボン。流されたことでゴブリンからは逃げ切って、今に至る。


「まったく……運がいいんだか悪いんだか……」


 荷物を確認すると、いくつかのポーションはビンが割れてしまっていた。手紙や食料は、雨に濡れることを見越して防水対策をしてあったので無事だ。あれだけ転げ落ちて川に流されたのに、ビンが割れた以外に失った荷物はない。長年逃げ回り続けた経験が生きたようだ。

 ……自慢になるんだか、ならないんだか……。

 しかし、ここはどこだろうか? 周りの木々の様子を見るに、どうやら森の奥へ運ばれてしまったようだ。地面には落ち葉が多く、下草は生えていない。生い茂った木々が頭上のはるか高いところで日光を遮り、地面はすべて日陰になっている。そりゃ下草も生えないわけだ。


「……うん? あれは……?」


 木々の間、遠くに何かが見えた。

 どうも人工物のようだ。木こりの山小屋か? いや、木こりがこんな深い場所まで来るのだろうか?

 疑問に思いながらもとにかく近づいてみると、それは巨大な石造りの建物だった。すでに崩壊して、コケやツタがびっしり。かなり古いもののようだが、レンガを積んだのとは全然違う不思議な建物だった。まるで巨大な岩から切り出した板を壁に使っているような感じだ。つなぎ目がなく、磨いたように滑らかだ。


「……まさか、古代遺跡……?」


 滅亡した古代文明の技術は、今よりはるかに優れていたらしい。今なお各地に残る遺跡や、そこから見つかる物体は、どうやって作ったのか、どうやって使うのか、何に使うのか、まるで分からないものが多い。

 さらに進んでみると、やたら平らな――起伏がまったくない場所に出た。木々が生い茂っているものの、その地面は明らかに人工的だ。

 そして、いくつもの巨大なサツマイモやジャガイモみたいな形をした金属の塊があった。


「なんだろう……?」


 興味深い。久しぶりに冒険心が刺激される。

 俺は表面の植物や土を除去してみた。どうやらドアらしき部分が確認できて、ノブを動かしてみた。

 汚れていたが、さび付いてはいなかった。ドアは簡単に開いた。

 もちろん中に乗り込んでみる。さっぱり分からない装置がたくさんあった。


「少し暗いな……【サンダー】」


 俺の唯一の魔法。弱っちい雷魔法を使う。

 威力が弱いので魔力の消費も少なく、長く維持することができる。

 バチバチと耳障りな音をたてながら、電光があたりを照らした。

 照明用の魔法ではないので、照らされたものが白っぽく見えてしまって、明るいのに見づらい。しかも点滅するし。

 まあ我慢するしかないのでそのまま調べていると、イスらしきもののひじ掛けの部分に、俺の雷魔法が吸い込まれた。


 ウイイイイイイイイン……


 船? がうなり始めた。


 プシュー……


 ドアが勝手に閉じた。

 天井が光って、あたりを明るく照らした。

 長方形の板が光って、そこに銀色の文字が現れた。「GAIA」と書かれている。それはすぐに消えて、代わりにたくさんのマークが並んだ。

 そして突然優しそうな女の声が聞こえた。


「起動シーケンス完了。スキャン開始。

 警告。バッテリー残量1%。

 警告。搭乗者のナノマシン濃度0%。

 ナノマシンの注入を開始します」


 シュー……と、なにかガスのようなものが出てきた。


「警告。バッテリー残量0%。電源が切れます」


 ぷつりと全ての光が消えた。

 ウィーンとうなっていた音も止まった。

 ドアは閉まったままだ。

 何も見えない。

 ふわりと真新しい金属の匂いがした。


「さっきのガス……? え……」


 唐突に、俺はすべてを理解した。

 ここは古代文明時代の宇宙港で、俺が乗り込んだのは上陸用の小型宇宙船だ。母船である大型宇宙船はこの地上にある宇宙港には寄港できず、静止衛星軌道上にある宇宙港に寄港している。

 そして俺が吸い込んだガス――ナノマシンは、いくつかの方法で発電し、注入された人体の調子を健康かつ絶好調に整える。血糖値が最適化されて頭がさえるし、肩こりからガンまで病気も治る。

 そんなナノマシンに備わった「いくつかの発電方法」の1つが、電撃を吸収するというものだ。強すぎる電撃は回線がショートしてしまって無理だが、俺の雷魔法はちょうどいいらしい。

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