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シトリー

作者: 平 一

誰でも()れさせる力を持った、

結婚詐欺師は無敵だと思う。

特に今回はあと一押(ひとお)しで、

大きな実入(みい)りが得られるあてがついた。

そこで私は危険と知りつつ、

悪魔の力に頼ることにした。


現れた悪魔は、そんな力を持つだけあって、

何とも言えぬ魅力を振りまく娘の姿で現れた。


挿絵(By みてみん)


「誘惑の悪魔シトリーにご用命いただき、

誠に有難うございます! 

……と言いたい所ですが 残念! 

悪い方々とつるんでお相手様を

利用しようとなさったみたいですが、

どうやら先手を打たれたようですね。

本日は私、貴方を誘惑しに参りました~!」


「ずいぶんカルいなお前~!(笑) いや、

でもそんなの私には効かないだろうし(動揺)、

い、一体何をさせようっていうんだ?」

「そうですね、確かに貴方の腐った性根(しょうね)

どんな魔法でも直しようがないかもしれませんが」

「いきなり失礼な奴だな!」


「まあご心配なさらないでください。

幸いにも先方は良い方々で、

すでに悪縁(あくえん)ができてしまった以上、

せめて貴方には真人間(まにんげん)になってほしい!

というだけのようなんです」

「ひどい言い方されてるのは分かるぞ!」


「貴方にはもったいないぐらいなんですよ!

でも、愛の力は偉大ですからねえ……(微笑)。

貴方がまた、どんなに悪事を働きたくなっても、

彼女を悲しませると思うととてもできない、

顔色にさえ出せない、そんな魔法もあるんです」

「いやそれって、私には地獄の苦しみじゃないの?」


贅沢(ぜいたく)言わないでください!

これまでさんざん他人様(ひとさま)に、

迷惑をかけてこられたんですから、

ここでしっかり苦労しておけば、万に一つでも

本当の地獄へ行かずに済むかもしれませんよ」

「それでも万に一つかよ!」

「私達にはその方がいいんですけどね」

「悪魔みたいな奴だな!」

「いや悪魔ですから!」


「そんな冷たいこと言わないで、もう少し……」

「話はもうこれで終わりです!

仕事はとっとと済ませちゃいましょう。

さあさ貴方は好きにな~る、好きになぁ~る!」


「いやそんな子供のおまじないみたいな……、

ていうか、聞いてないよ~!」

残念ながらそんな絶叫も(むな)しく、

私の胸はたちまち切なくも暖かい愛情で、

一杯に満たされていった。



シトリー:

ソロモン王が使役した、72大悪魔の中の一柱(ひとはしら)

人を愛させたり、秘密を暴いたりする能力がある。

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