2章 2節 31話
ミスドレア会議は終わり、各人は用意されたホテルの一室に帰宅した。
「お前さぁ。ちょっとはうろたえないとダメだろ?」
小言を言うのはゲイリである。
ウルスとゲイリは、フィルナーの部屋に来ていた。
ミスドレア会議の結果を話し合うためである。
ゲイリが言うのは、クシャナダに話しかけられた際の
ウルスの言動にあった。
ガイアントレイブの女王に話しかけられた割には、
あまりにも普通に接したことを問題視していたのである。
ゲイリの小言にウルスは反論する。
「いや、アレは既にばれてたさ。
睨みつける目が尋常じゃなかったぞ?」
ウルスは変装を解きながら言った。
髪の黒染めは既に落としてある。
側にいるフィルナーは2人の会話が耳に入っていない様子であった。
「まさかクシャナダ女王が来ていらっしゃるとは。
殿下を連れて来たのは失敗かもしれません。」
フィルナーが恐縮するように言うが、
ウルスとしては別意見だった。
「いえ、女王の人となりを直に見れたのは
良い経験ですよ。フィルナー参事官。」
「で、直に見てどうだった?」
ゲイリがウルスに問う。
ウルスは少し考える素振りを見せながら答えた。
「ああ、あれは、魔性の女って奴だな。
美魔女っていうのは、ああいうのを言うんだろう。」
ポリポリとゲイリは髪をかく。
「そういう事を聞いているのではなくな・・・・・・。」
「ああ・・・・・・。そうだな・・・・・・。
メイザー公爵と同じ匂いがしたよ。」
ウルスの答えに、ゲイリはそれ以上の言葉を失った。
メイザー公爵。スノートール王国のNO2にして
王位継承権2位の実力者であり、更にはウルスの命を狙っていると
思われる人物である。
彼と同じ匂いという表現は、ウルスとゲイリにとって
好ましい表現ではない。
ある意味、最大限の褒め言葉なのかも知れないが。
「そうか・・・・・・。」
ゲイリが一言だけ呟いた。
そして彼は立ち上がると、ホテルの部屋の窓から外を眺める。
用意されたホテルは30階建ての三ツ星ホテルであったが、
向かいには77階建ての超高層ホテルが建てられている。
その最上階には、女王クシャナダが宿泊していた。
外は厳格な警備体制が敷かれており、この警備を信用するのであれば、
ウルスの身に危険はなかった。
しかし、警備はガイアントレイブ王国の警備であって、
他国の警備兵である。
もし彼らがウルスを襲うとなれば、それは防ぐことが出来ないであろう。
彼らにウルスを襲う理由などないはずであったが、
ゲイリは胸騒ぎを隠せなかった。
ゲイリの心配を他所に、ウルスはフィルナーに歩み寄る。
「で、どうするのですか?
あちらさんの要求を飲むのですか?」
フィルナーはうーむと唸る。
フィルナーやウルス、ゲイリの3人にとって想定外だったのは、
ガイアントレイブの攻撃目標が、カラヴァンチを実効支配している
ワルクワ王国ではなく、星域を放棄したスノートールに向けられた事だった。
フィルナーやデ・レロの考えでは、ガイアントレイブは神聖ワルクワ王国の
武力行使を非難するであろうから、2国で協力し、
ワルクワにカラヴァンチの支配権があることを説明するつもりだった。
しかし、ガイアントレイブはワルクワではなく、
被害者とも言えるスノートールを攻撃してきたのだ。
これでは神聖ワルクワ王国にカラヴァンチの支配権があると
主張しても、馬の耳に念仏である。
このままカラヴァンチの支配権を認めれば、スノートール王国は
武力による他国侵略を容認する国であると、
ガイアントレイブ王国は突きつけてきたのである。
もしこの議題を自国も持ち返れば、議会は紛糾するであろう。
議員の中には、カラヴァンチの支配権が未だスノートールにあることを
主張する議員も少なからず存在している。
国民の中にも、その意識はないとは言えなかった。
ガイアントレイブの主張は、スノートール王国の民意を刺激する。
軍や政府がこの18年間作り上げてきた平和への努力が
一瞬にして崩れ去る危険性をもった議題であるのは間違いなかった。
だが、フォルナーに回答権は存在しない。
外交官はある程度の裁量権を認められているが、
この件はフィルナーの裁量を大きく超えていた。
「持ち返るしかないだろうな。
あいつら、スノートールの国内を2分するのが狙いなんだろう。」
外の様子を見ながら、ゲイリが言った。
政府や軍が必死に押さえつけてきたイデオロギーを揺さぶろうというのが
彼らの狙いだと彼は理解する。
そしてもし、王と国家の重鎮であるメイザー公の意見が割れることになれば、
スノートールは二つに分裂しかねない。
ただでさえ、王派と公爵派で対立のある国家事情であったが、
そこを更に刺激しかねない問題なのである。
そして仮にスノートールが分裂すれば、その背後には
神聖ワルクワ王国派とガイアントレイブ派が派生するであろう。
一気にきな臭い話となるのである。
彼らは、スノートール王国の内部事情も加味した上で、
難題をふっかけてきたのだ。
カラヴァンチ星域の中立化など、どうでもいいのだ。
彼らの狙いはスノートールの分裂にある。
「チィッ!」
ゲイリの舌打ちが部屋の中に響く。
今のウルスやゲイリに物事を左右する権力などない。
ガイアントレイブが仕掛けてきた搦め手に対抗するする手段が、
今の彼らにはなかった。
その舌打ちである。
だが、その推測さえも甘かったことを
ゲイリは即座に知ることとなる。
外を眺めていたゲイリの視界に、大きな爆発の光が映し出された。
直後に爆発音と振動がホテルを襲った。
かなり大きな振動で、立っていたウルスはバランスを崩したほどである。
ゲイリは反射的に光の方向を見た。
それは向かいの超高層ビルの最上階で起きた。
煙がビルの最上階を覆っており、間違いなく部屋の一つや二つは
吹き飛んでいるほどの煙がたち込めている。
そして無数の破片が路上に降り注ぐのが見えた。
ホテル爆破テロである。
厳重に警戒されたはずのこの場所でテロが実行されたのである。
そしてそこには、女王クシャナダが宿泊しているはずだった。
命を狙われたのはウルスではなく、女王クシャナダだったのである。
初!ブックマークありがとうございまーす!!!
不定期更新です
( ゜д゜)ノ 週2~3予定




