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春風戦争 第1部 ~ウルス戴冠~  作者: ゆうはん
~パラドラム戦役~

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202/367

11章 2節 202話

3分ほどの沈黙のあと、ようやくミネルは冷静さを取り戻した。

「この人は、市民を生贄に捧げる気だ。

そして、その犠牲を利用して、ウルス政権の中枢に潜り込む気なのだ。」

と正確に物事を理解するのに要した時間である。

ただし、理解はしたが続く言葉が出て来ない。

果たして、何と言ったらいいのか?

ミネルは賢い。

この場でシャフトを糾弾しても、彼は一切聞く耳を持たないであろう。

如何にシャフトの計画が無謀であるかを説くしか方法はない。

しかし・・・・・・。


「先生、それはウルスは決して許さないでしょう。

彼は先生がパラドラムを囮にする計画を提案した事を知っています。

仮に先生の思惑通りになったとしても、

ウルスが先生を許すはずがありません。」


「ハハッ!

あの無色王子が許さない!と?

彼に何が出来ますか。

ただ、王の息子であったという事実だけで、

王の顔色を伺っていただけの凡人に!

彼が許さないというのであれば、こちらは民意を焚きつけますよ。

市民をコントロールする術に関しては、

軍部をもってしても、私に敵うわけがないでしょう。

暴力を振るえば、民衆は更に反発するものです。」


ミネルの予想通りの答えが返って来た。

確かに彼の言葉には説得力がある。

彼はパラドラムという一地方の政治家でしかないが、

民衆を扇動し、組織をまとめあげ、現職の大統領を追い出し、

国家にケンカを売った張本人なのである。

政治家としてはやり手だった。

だが、ミネルは思う。

それも、ウルスの人気にあやかっての事だ。

戦場で勝利を重ねるウルス軍の武威があってこその

結果なのである。

それを彼は、まるで個人の力量と勘違いしている。

また、確かに民意は大きな力だが、それはどう転ぶかわからない代物である。

果たして、シャフトの思うように民意が流れるのか?

むしろ、パラドラムの悲劇の元凶を作った本人として、

ウルス自身がシャフトを糾弾することだって可能なのである。

そこまでミネルは考えたが、しかし、それを言ったとして

シャフトの耳には届かないであろう。

彼はウルスを見くびっている。

何もできない無色王子だと蔑んでいる。

そんな彼に、ミネルの思いは届くわけがないのだ。


無言のミネルにシャフトは勝ち誇った顔をする。

彼にとって、反論できないのは負けなのだ。

反論できないのは、自分の弁舌に屈服したという事を意味する。

「あと、一押しだな。」

そう理解したシャフトは、ミネルに追撃の一撃を与える事にした。


「ミネル君。

ちょうど、宇宙艦隊が敵と会敵したようだ。

映像を送るように言ってある。

一緒に見るかね。」


ミネルの返答を待たずに、シャフトは部屋に備え付けの

ワイドモニターのスイッチを入れる。

そこには宇宙空間に漂う無数の艦船が写っていた。

司令部を映すのではなく、艦影を映しているのが

まるで映画のワンシーンを見ているかのような印象を受けた。


「そろそろ、攻撃の射程内に入るらしい。

ゴルズ中佐には、適当に戦って退くように言ってある。

財源のほとんどを使って船を用意したのだ。

そう簡単に壊滅してもらっては、困るのでね。」


シャフトの言葉にミネルは何も言い返さなかった。

ミネルはこの後、何が起こるのかを知っている。

士官学校時代に何度も艦隊戦のシミュレートは行っていた。

この後、どうなるかは予想がついていた。


「そろそろだ。」


シャフトは再びティーカップに紅茶を注ぐ。

ゆっくりとこのイベントを楽しもうという気らしい。

彼がティーカップに紅茶を注ぎだした瞬間、

画面の中の艦船から無数のミサイルが発射された。

元は商船とは言え、武装は本物である。

迫力のある映像に、シャフトが思わず「おおっ」と声を上げた。

その瞬間・・・・・・。

前方より放たれた無数の光が、まるで空から降ってくる雨のように、

否、海から押し寄せる津波のようにゴルズ艦隊を飲み込む。

0.5秒ほどの静寂。

そしてワイドモニターの画面一杯を、爆発する玉が覆った。

ミネルは思わず顔を背ける。

電磁バリアのない状態での、射程内でのビーム攻撃。

ビームは瞬間に艦艇を貫き、大きな穴を船に空ける。

それも貫通し更に後方の艦の船体にも穴を空ける。

巨大な穴が開いた武装艦は、内部にあった弾薬や

エンジンを点火させ、大きな爆発を生んだ。

そして、映像が途切れる。

戦場を映していた艦船も被弾し、轟沈したからだ。


「何がっ!何が起きたというのですかっ!?」


「恐らく、壊滅・・・・・・いえ、全滅です。先生。」


「馬鹿なっ!全滅だと?

こんな一瞬でかっ!?

艦艇を1万揃えるのに、いくらかかったと思ってるんだ?

財源のほとんどを放出したのだぞっ!」


「それは貴方のお金ではありませんよね?」

ミネルは心の中でそう呟いた。

更に言えば、軍需産業に流れたお金の一部は、シャフトの懐に

キックバックされている。

パラドラムの軍備増強で、一番得をしたのはシャフトである。

その彼にとって、部隊が全滅しようが、しまいが関係ないだろう。と

ミネルは思った。

急激に冷めていく自分がいるのが判る。

「軍事力はハードとソフトが揃っていて初めて効果がある」

と力説していたのは、士官学校時代のゲイリであったか。

確かに軍備とは重要である。

メイザー軍の艦隊1万はその武力で、パラドラムの防衛部隊を

一瞬にして塵にした。

それは単純なる武力である。

しかし、戦闘艦ではないとはいえ、武装した艦船1万を持つ

パラドラム軍もやりようによっては、一矢報いることが出来た。

ましてや、勝つ必要はなく、時間を稼げばいいだけの戦場である。

それを、一瞬にして失う。

ゲイリの言うソフト、つまり人材の問題であろう。

ミネルはあんぐりと口をあけた間抜けな男を見た。

それまで自信満々だった表情は消え、

信じられないものを見たという体である。


「先生・・・・・・。早く惑星から逃げなければ、

軍が殺到してきますよ?」


「ああ、そうだ。

こうしてはいられない。

ミネル君も早く準備を!」


シャフトの言葉にミネルは左右に首を振ると、

そのままシャフトに向け、頭を下げた。


「お世話になりました。先生。

お元気で。」


そう言うと、彼女はシャフトに背を向け、出口へと歩いていく。


「待て!ミネル君。どこに行くんだ?

待ってくれ。」


ミネルは振り返らなかった。

彼女はシャフトと袂を分かつ。

彼とは共に歩まない決断をした。

同じような決断を、ウルスと別れるときもしたが、

感情は真逆である。

ウルスの時は、自分の居場所がない、住む世界が違うと思ったものだが、

シャフトの時は、彼を見限った。

遅すぎた決断だと、自分自身で理解しながらも。

不定期更新です


( ゜д゜)ノ 週2~3予定




登場人物が増えすぎて、申し訳ありませんw


史実を体にしているので、そこはご了承をw




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ついでに宣伝等していただけると嬉しい限りw

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