9章 3節 168話
戦場に最後の光の玉が弾け飛んだ。
それはマヒャル少年搭乗のFGルックが爆発した光である。
「中尉!
ご無事ですか?」
ロニャードの通信にティープはため息と共に返事を返す。
「ああ・・・・・・肉薄されたが、シュヴァンが白兵戦用に開発された
機体だということは知らなかったみたいだ。
いいパイロットだったが・・・・・・。
ロニャード、そっちは?」
「はい。交戦していた1機は撤退しました。
通信は聞こえていたので、追いませんでしたが、
よろしかったですよね?」
ロニャードは言う。
彼もティープとマヒャルの通信を聞いていたので、
対峙していた敵が、軍人でない事を知っていた。
だから追うことはせず、見逃したのだった。
ティープはロニャードの質問に5秒ほど沈黙した。
「ああ、勿論だ。」
そして簡潔に答えた。
2機で11機の敵FGを撃破したという大戦果にも限らず、
後味が悪い結果になった。
同じような事がなかったわけではない。
ティープは昔、海賊討伐の任の際に、
海賊を養成しているという機関を急襲したことがある。
その現場に居た生徒を撃ち殺した事があった。
12、3歳ぐらいの年端もいかぬ少年たちだった。
それに比べれば、そこまで大差ないと言える。
相手は学生とは言え、FG訓練校の生徒であり、
将来的には、ティープたちの敵になる可能性があった
軍人予備軍である。
しかも、相手は武器を持ち襲ってきた。
ティープたちに非はなかったが、後味の悪さは拭えなかったのは仕方ないだろう。
間に耐えられなかったのか、ロニャードが口を開く。
「大丈夫ですか?」
部下の問いの意味はわかる。
「死ぬべき・・・・・・いや、違うな。
死んでも構わないような人間が生きて、
死んじゃダメな奴が死んでしまう・・・・・・。
海賊討伐の任務のときは、考えた事もなかったが、
海賊の中にも、殺されるほど悪い事をした奴ってのは
案外少なかったのかも知れないな。」
突然の言葉だったが、ロニャードは驚かなかった。
同じことを彼も感じていたからである。
「武器を持った人間は、殺されても文句が言えないと
自分は考えます。
人を殺す道具を持ちつつ、自分は撃つ権利はあるが、
撃たれる事はない。って言うのは道理が通らないでしょう。」
ロニャードは博識な男である。
理由もなしにそんな事は言わない事をティープは知っていたが、
あえて理由も聞かなかった。
理由を聞いても、自分には理解できないのだろうと考えたし、
恐らく解釈次第で白にも黒にもなる問題なのだろうと感じたからである。
ティープ自身がマヒャルに言った言葉であるが、
「これが戦争なのだろう。」
と割り切るしかなかった。
事実、彼も敵の銃弾に倒れることがないとは言い切れないのだ。
ロニャードは持論を続ける。
「殺されるべきではない人間が殺されてしまうという一点において、
戦争っていうものが、完全悪である証明なんだと自分は考えます。」
「軍人の台詞とは思えないな。」
「自分は戦争をするために軍人になったのではなく、
治安維持、海賊討伐などの任務を遂行するために軍人になったので。」
ロニャードの返事にティープは笑みを返した。
「ああ・・・・・・。それは俺もだ。
帰還しよう軍曹。
弾薬も尽きた。
最近は疲れることばっかりだ。」
普段は弱音など吐かないエースパイロットの言葉に、
ロニャードは違和感を覚えたが、口に出す事はなかった。
異次元のスピードで撃墜数を稼ぐ白の8とは言え、
歴戦のパイロットというわけではない。
精神的負担はあるのだ。
ロニャードは改めて、この尊敬する上官を支えようと思ったのだった。
A-57,33ポイントをたった一人で離脱したコリンは、
追っ手が来ない事を認識すると、やっと緊張の糸を解いた。
敵は隠れる事なく戦場から離れようとしている。
ティープらが撤退すれば、当初の目的である生存者の捜索を
実施する事ができる。
可能性は低いとわかっていたが、コリンはFGルックのエンジンを止め、
ティープらの離脱を待った。
その間、彼に通信が入る。
当初は生存者からの通信かと期待したコリンだったが、
確かに生存者からではあったが、全く期待していない人物からの通信であった。
「コリン君、無事かね?
相手は撤退するみたいですね。敵の後退を以って
生存者の捜索に当たります。
生存者が居なくても、遺品などあれば持って帰りましょう。」
ウナイニンバー校長だった。
コリンは校長の存在をすっかり忘れていた。
いや、早々に撃破されたのだと思い込んでいた。
だが良く考えれば撃墜された11機は、訓練校の生徒たちが乗る
試作品のルックだった。
ウナイニンバーは戦場に顔を現していない。
「校長先生!
今までどこに?
みんなやられてしまったのですよ!」
コリンの発言はもっともである。
生徒たちを引率すべき人間が、大事な場面で姿を消していたのである。
「私は皆に動くな!と言ったはずです。
動かず、見つかった者は投降し、
見つからなかった者は帰還するだけで良かったのです。
今は敵対しているとは言え、同じ王国の人間同士。
ましてや、我々は兵士ではありません。
私言うように動かなければ
最悪、殺されることはなかったでしょう。
現に私は生きている。」
「そんな言い方・・・・・・・。それではマヒャルたちが
無駄死にしたような言い方ではありませんかっ!」
この時、コリンに悪寒が走った。
校長の言葉に嫌悪感を感じたのではない。
ウナイニンバーの表情に、仕草にブルッと震える。
そう、この大人は笑っていたのだ。
詰め寄るコリンに対して、大胆にも笑って見せた。
「安心してください。コリン君。
仇は討ちます。
君たち生徒は、私の子どもたちのようなもの。
むざむざ殺されて、黙っているほど私は薄情な男ではありません。
あの白の死神には、天誅を与えなければなりません。」
まるで楽しいことがあったかのように笑う。
校長としての責任を果たすことなく、戦場から隠れ続けた
ウナイニンバーを批難するつもりだったコリンだったが、
気圧される形になった。
まるで何か、触れてはいけない禁忌に触れたかのように
少年は呆然としてしまう。
少年の沈黙に満足したかのように、ウナイニンバーは更なる笑みを見せた。
「さぁ、コリン君。
帰りましょう。
遺品や遺体も収納せねばなりません。
そして、敵討ちです。
どんな手を使っても、あの白い死神を倒しましょう。
そして、その亡骸をもって、亡くなった者たちへの供養とするのです!」
それが尋常でないとはっきりと理解できるほど、コリンは成熟していなかったのである。
不定期更新です
( ゜д゜)ノ 週2~3予定
登場人物が増えすぎて、申し訳ありませんw
史実を体にしているので、そこはご了承をw
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