7章 1節 118話
星歴999年1月3日
ウルスは神聖ワルクワ王国の首都ベサリアがあるドルチェ星系で新年を迎えた。
この地へは年越し前の12月26日には到着していたが、
ワルクワ国王ドメトス6世との面会は許されておらず、
無駄に時間を過ごしている。
同行したトメリスク少将は不安げであった。
「年の瀬とは言え、一国の王子の来訪に
会いもしないとは、ドメトス陛下は何を考えているのでしょう。」
しかし、ウルスにとっては想定の範囲内である。
「ケチャックの結果を待っているのでしょう。
メイザー公爵にはケンカを売りましたが、
我々は未だ明確にガイアントレイブとは敵対していません。
ワルクワとしては、我々の出方を待っているのだと。
ケチャックで戦端が開かれれば、我々とガイアントレイブは
敵対することになります。
戦闘の結果もある。
そこを見極めたいのでしょうね。」
ケチャック防衛戦は昨年の内に決着がついており、
ウルス軍の大勝利に終ったわけだが、遠く離れたドルチェ星系には
未だその情報は流れてきていなかった。
だが、ウルスはケチャックでの敗北を一切考慮していない。
戦端は既に開かれ、そして勝利を信じていた。
地の利のある防衛戦に、リューン中将含む15000隻で
ガイアントレイブ軍5000を迎え撃つのである。
ましてや、ウルスが絶対の信頼を置くゲイリも付いている。
負ける要素などなかったのである。
「ですが、そろそろ結果が・・・・・・。」
ウルスが話を続けようとした矢先、彼らが宿泊していたホテルの部屋のドアに
ノック音が響いた。
ウルスはリモコンでドアの鍵を解除すると立ち上がる。
来訪者はワルクワ王国からの使者だと予想がついたからである。
ガチャと音と共に中に入ってきた男は、何の遠慮もなく部屋の奥へと進む。
そして、ウルスの顔を見ると、フッ!と笑った。
通常であれば大変失礼な態度であったのだろうが、
ウルスもトメリスクも、男を見て思考が止まる。
出発前、彼らは今回のワルクワ行きで起こりえる様々なシチュエーションを
考えていた。
そしてその対策なども打ち立てていた。
だが、まったく考えていなかった事態が目の前に現われたのだった。
それは2人の時間を止める。
ウルスは物事に動じない人間である。
そのウルスや共に作戦を立てていたゲイリでさえも、想像をしなかった現実が
今、2人の目の前に現われたのである。
「まさか・・・・・・。」
ようやくウルスが口を開く。
同時に思考が働き出す。
ゴクッ!とツバを大きく飲み込んだ。
「生きていたのか?なんで君がここに?」
そう尋ねられた男は2人の顔見知りだった。
男はもう一度フフフッと笑うと、右手を差し出してウルスへ握手を求める。
「宇宙河に流され、ドルテェ星系に流れ着いたらしい。
運よくワルクワのパトロール艇に救助されたということだ。」
「運良くって・・・・・・。
宇宙河に流されて、助かるって、
運良くで済まされる話じゃないぞ!ガル。」
目の前に現われた男は、ウエスタンラスクでの戦闘で
行方不明になっていたウルスの学友ガルだった。
「数年に一回ぐらいの割合であるらしい。
ウエスタンラスクからの宇宙デブリとかのゴミが
漂着するポイントがな。
流石に生きた人間が流されてきたのは初めてらしいが。」
ガルは笑った。
宇宙を流れる河のように、各星系を繋ぐ宇宙河。
その流れは速く、光速を超える場所もある。
だが、質量がある恒星の近くを通るときに流れが緩やかになる場所があった。
その流れが緩やかになる場所が、宇宙河の出入り口として利用される。
つまり、川でいう波止場みたいな場所だった。
ガルの話をまとめると、ウエスタンラスクの戦闘で意識を失ったガルは、
FGの生命維持装置で休眠状態になり、
そのまま宇宙河に流されてしまった。
ウエスタンラスク星系からこのドルチェ星系は宇宙河で繋がっており、
休眠状態のまま流され、そして流れが緩やかになるポイントで恒星ドルチェの
質量にひっかかったのであろう。
そのままドルチェ星系付近で救助されたのである。
「ワルクワの技術者が、FGの生命維持装置の性能の高さに驚いていたぞ。
ここではFGはまだ作業用ロボットだからな。」
ガルは何事もないかのように言うが、この言葉は深い意味を持つ。
スノートールが研究開発していた兵器としてのFGの情報が
ワルクワ王国に漏れてしまったということを意味していた。
国家の重大機密が漏れてしまったわけであるが、
ウルスはガルが生きていた事のほうが単純に嬉しかった。
「助かったのなら連絡の一つでもくれれば良かったのに。」
そう言ったが、それに続く言葉が止まる。
今の状況を冷静に考え、そして一つの結論にたどり着いたのだ。
他国とは言え、ウルスはスノートール王国の王太子であった男である。
ワルクワ王国としても、VIP待遇のお客であり、
一般の人間が簡単に会ったりできる立場ではなかった。
そこにガルが現われたという事は、単純な話ではない。
それはワルクワ王国の意思であると考えられた。
ワルクワ王国の指示で、ここに彼は来たのである。
「ウルス殿下をお連れするように言われている。
陛下がお会いになるそうだ。」
その言葉で、ウルスは全てを悟った。
ガルはワルクワ王国の使者として、この場に姿を現したのだ。
考えてみれば、有りえる話である。
スノートール王国から流れ着いた兵器としてのFG。
ワルクワ王国としては、それを調査する事は当然の結果であるし、
そこに乗っていたパイロットの素性の事も調べるであろう。
この時代のデータベースであれば、兵士の1人を調べ上げる事は
そこまで困難なことではなかった。
そして、ガルがウルスの学生時代の友人であった事も把握できたはずである。
ガルは多くは語らない。
握手していた右手を離すと、彼は真っ直ぐにウルスを見た。
「君がここに来ることはわかっていた。
陛下は君の事を知りたがっていたよ。」
その言葉で全てが理解できた気がする。
ガルはワルクワ国王ドメトス6世に、ウルスの情報を求められる形で
迎えられたのであろう。
この場に姿を現したことがそれを物語っていた。
ウルスの事のみならず、ウルス陣営の、そして彼らが置かれている状況を良く知る
ガルという男が、ドメトス6世の側についたことは
これから始まるであろう二国間の同盟交渉に
少なからず影響を与える事になる事をウルスは理解したのである。
更に言えば、ガルは有能な男である。
裏を返せば、油断の出来ない男である。
彼が味方なのか?敵なのか?で攻略難易度は大きく変わる。
彼がこの同盟交渉のキーパーソンになる事は、果たしてウルスにとって
吉と出るのか凶と出るのか?
「そう怖い顔するなよ。
陛下も君との同盟が必要不可欠なのは、理解している。」
ガルはそう言うと、ウルスら一行に部屋を出るように指示した。
琥珀銀河の命運を左右するベサリア会談は
こうして始まろうとしていたのである。
不定期更新です
( ゜д゜)ノ 週2~3予定
登場人物が増えすぎて、申し訳ありませんw
史実を体にしているので、そこはご了承をw
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