2.ヒエラルキー・クイーン
神殿で生き返って、キルされた際にドロップしたものと残ってるものを確認する。DDでは装備以外の大半のアイテムがドロップ対象になる。無限火薬庫のようなスキル取得のための特殊アイテムだけはドロップ対象ではないが、「特殊素材」の段階だとキルされた際に普通に落としてしまう。重要なアイテムは持ち歩かずに“倉庫”に預けておくのが基本だ。金の方は“銀行”に預けていない分の半額を盗られる。預けるのが「街」の中でならどこでもできるのが救い。
クスノキさんと適当にだべっていると、ハチノスとハイドが戻ってきた。
「やらかしたー……すまんー……俺が先走らなかったらもっと手あったかもなのにー……」
ハチノスは不意打ちのモーション中に反撃を食らって拘束が起こったのを俺とハイドがカバーしにいかざるを得なかったことに責任を感じているらしい。
元々人数差があって不利だったわけだが、ハチノスの『暗殺』の他に打開手段があるとすればクスノキさんの魔法か、俺の『ミサイラント』。クスノキさんが魔法で対応していれば多分『ウォーターバリア』を張れずに『アトミックフレア』で即全滅していた。俺のデュアルサモンによる『フォートレス』と『ミサイラント』の併用はMPがパンクする。かといって『フォートレス』を解除すればスナイパーがフリーになって結局ダメだっただろう。実際、解除された瞬間に撃ち抜かれたし。
ほぼほぼ詰んでいたから、鈍足の武器召喚士と賢者がキルされるという内容は避けられなかったように思う。ハイドとハチノスが逃げ切れただけでも上々の結果だろう。
「やー、どうしようもなかった気がするけどなぁ」
ねえ、とクスノキさんに同意を求める。
「あいつら殺す。殺してやる。絶対殺す」
クスノキさんは目が据わっていた。
あれ? さっきまでは「ルール上やっていいことだからしょうがないですかねー。切り換えましょう」とか言ってたのに。この人、ハチノスの前だと素が出るのかな……?
ハイドが左手でなにかを操作している。「あった」と言って、スクショを取って俺たちに見せる。「悪党同盟」が共有しているPKのリストだった。スナイパーのゴルゴーンをリーダーにしたPK集団の情報が出てくる。
「同類。いわゆる“殺し屋”系のPK」
「依頼を受けて襲撃する類?」
「んじゃ標的は」
「おそらく私とイチミヤ」
……PKKがPKに依頼出してんじゃねーよ。
ハイドがクスノキさんに向けて頭を下げた。
「巻き込んだ。申し訳ない。慎重になるべきだった」
「いえ。あなたに謝られても腹の虫がおさまりません」
クスノキさんの目はちょっと血走っている。
「あいつら、ぎったんぎったんにやっつけて身ぐるみ剥がしてやらないと収まりがつきませんわ」
わー……
「俺もやられっぱなしは気にくわねーな」
と、ハチノス。
俺とハイドは顔を見合わせて、困る。
この手のPKギルドと揉めてもいいことはないのだ。粘着されればまともなゲームプレイさえできるかわからない。昔揉め事を起こして複数のPKギルドに睨まれ「街から一歩外に出ればキルされる」という状況に追い込まれて引退したプレイヤーがいた。俺たちがそうならない保証はないのだ。
ほとぼりが冷めるまでおとなしくしておくのが吉だと思うんだが。
「PKやるのは相手の勝手だろ。犬に噛まれたと思って諦めようぜ」
「PKKするのも勝手、ってのがこのゲームだろ」
「とにかく俺はパス。しばらく闘技場にでも引きこもってるよ」
俺がいないなら狙われるハチノスたちが狙われる道理がないから変なことにはならないだろう。ハイドも「私もしばらく同盟の人たちといることにする」と俺の意図を汲んでくれる。
ハチノスが思いっきり顔を顰めた。
「今日は解散しようぜ。また今度な」
一方的に言い、ログアウトする。