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2.ヒエラルキー・クイーン



 DDにログインすると、神殿の前でいつもの派手で「おまえのどこが忍者だ!」って突っ込みたくなる格好のハチノスと、法衣服を着た金髪で優しげな顔をしたクスノキさん (賢者:女 魔法使い+僧侶の上級職)が楽しそうになにか話していた。

 俺は右下を見て時間を確認する。待ち合わせの五分前。遅れてはいない。向こうが早いだけだった。


「おっす」

「よっ」

「こんにちはー」

「こんちは。わりーな待たせて」

「いいってことよー」

「例のやつは?」

「狩場の方で合流するって」

「じゃ、いくかー」

「おー」


 俺達は三人で門を出て街からほど近い狩場に向かう。クリミヤ密林よりもワンランク上の狩場でアンデッド系の魔物が中心に登場する「セキハラ戦場跡地」というマップだ。エリアの境目あたりで黒い衣装に身を包んだアサシンの女が、木を背もたれにしてぽつんと座っている。

「おっすおっす」

 ハイドが片手をあげた。

「ういっす。一昨日ぶり」

「いや、昨日会ったじゃん」

「?」

 あれ。昨日は俺、DDにログインしてないはずだが。

 ハイドはちょっと考えて「あ、そっか。わー、勘違いだった。一昨日ぶりー」とめちゃくちゃ棒読みで言う。初対面のクスノキさんにぺこりと頭を下げて自己紹介する。クスノキさんも同じように軽く頭を下げる。

「そんじゃ、始めますか」

「「おー」」

 俺は「武器召喚・ゴッデスストーン」のスキルを発動させる。

 セキハラ戦場跡地のフィールドマップの中央に人間の三倍くらいの大きさの蜂の石像が置かれる。召喚士には珍しく消費MPの少ない継戦能力重視の召喚獣だ。こいつは、他のものと違って行動はできない。が、代わりにパーティ全体に「与ダメージアップ」の効果を付与することができる。上昇率はさほど高くないものの、「与ダメージ」というのがミソで、物理攻撃だけでなく魔法攻撃にもバフをかけることができる。他の攻撃力上昇スキルや魔法攻撃力上昇スキルとの重複が可能なのもポイントだ。

 特に魔法系統で「他人に掛けることのできる威力上昇バフ」というのは結構貴重だったりする。

「陣形は?」とハイドが訊く。

「いつもは俺とこいつ」ハチノスの指が俺を差す。「が前引き受けてるけど、今日はあんたがいるから」、「俺も下がり目で?」、「ここ地面からいきなりポップしてバックアタック食らうときあるじゃん? 中衛(イッチ)がくっすんの近くにいた方がやりやすいと思うんだよね」、「じゃそれで」、「りょー」。

 適当な感じで狩りが始まる。

 ハイドがアンデッドモンスターの「鎧武者」に手裏剣を投げる。ヘイトを買ったハイドに向かって鎧武者が突進してくる。と、俺のすぐ前にいたハチノスが一瞬、視界から消えた。「猿飛の術」のスキルで高速跳躍したハチノスが宙を舞って鎧武者の背後に着地する。背面からの不意打ちで「暗殺」が決まり、鎧武者のHPの大半が吹っ飛ぶ。何度見ても鮮やか。俺が一歩前へ出て胸に剣を突き出すのとほぼ同時にハイドのスキルドレインが頸椎に差し込まれて、武者の首が折れる。HPがゼロになり、エフェクトと経験値とドロップアイテムを残してモンスターが消え去っていく。

 と、さっき言っていた「地面からのいきなりのポップ」がクスノキさんの背後で起こる。

 警戒していたので俺はクスノキさんと鎧武者の間に割って入ってバックラーで振り下ろされた刀を受け止める。狩場のレベルがそこそこ高いから一撃で1000を超えるダメージが入る。ちなみに俺のHPは9500。戦士系の中では低めで魔法使い系としては高い、という非常に中途半端な値だ。とん、と俺の肩に小柄なハイドの体が乗った。戦士との混成であるハイドは強盗系の変則技だけでなく、火力の高い剣技にも長けている。(武闘家との混成であるハチノスは変則技寄り)

俺の肩から飛んだハイドの両手がスキルドレインを握る。全体重を乗せて鎧武者の兜に向けて刀を振り落とす。「イズナオトシ」が脳天をかち割って鎧武者が千鳥足でよろめく。「死ねえごるらああああんちくしょう!」クスノキさんがフレイムストライクを放って、鎧武者が火だるまになる。俺が水平に振った片手剣がトドメを刺して、崩れ去る。

 強盗系のやつとパーティ組むと思わぬところから変な攻撃が飛んできて楽しい。

 周囲の地面からごぽごぽとアンデッドモンスターがさらに湧いてくる。

 足軽系統のアンデッドモンスターの後ろに妖術師がちらほらと。本来なら魔法への警戒がめんどいがこちらには忍者(ハチノス)がいる。再び猿飛の術で足軽共の頭上を飛び越したハチノスが「喉裂き」で沈黙を付与して妖術師の魔法を封じてしまう。

 クスノキさんが僧侶のスキル、「セイントサークル」を発動する。

 このスキルの効果は自分を中心にした中範囲に光属性の付与を「敵味方の両方に与える」というものだ。弱点属性である光属性を強制付与されたアンデッドモンスターの動きが鈍る。俺たちの武器に光が灯って弱点効果によって火力が向上する。ハイドの剣がアンデッドの骨を軽々と砕く。ハチノスが蹴りを繰り出して距離を突き放したところを、クスノキさんの範囲魔法「ファイアストーム」が近くにいた別のモンスターまで巻き込んで焼き払う。

「ひゃっはぁ。汚物は消毒だぁ!」

 賢者には「MPヒーリング」という、本来は非戦闘時にしか自動回復しないMPが戦闘中にも回復していくスキルがある。非戦闘エリアで多少の休憩をはさむだけで無限に戦えたりするのが賢者だ。頼もしいけど戦闘中の口調が世紀末風味になるのかなんとかならないものか。

「なあ、もうすぐアザミとクイーンのタイトルマッチじゃん?」

 モンスターを蹴散らしながらハチノスが話しかけてくる。

「だな」

「おまえどっち応援してるの」

「どっちも応援してるべ」

「あえていうなら?」

「6:4でアザミ」

「そのこころは?」

「やる気を失ってる先輩よりやる気あるアザミに取ってもらった方がまだうれしいかな」

「ほう」

「おまえは?」

「アザミだよ。俺、クイーン好きくない」

「へえ。初耳」

「『タイマン不利』が定説の“魔導士職”が闘技場のチャンピオンって、なんか俺ら否定された気にならね?」

「まあわからんでもないな」

「つーか俺が闘技場はじめたころにはもうクイーンがチャンピオンだったから、クイーンと戦ったことないんだよ。だったら俺を負かしてるアザミがチャンピオンのがうれしいなって」

「ああね」

「両方知ってるおまえとしては、どっちが勝つと思う?」

「……愚問だろ」

「というと?」


「10:0で先輩」


 アンデッドモンスターの骨を砕きながら、俺は言った。


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