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5.未界踏破



「まっ。ざっとこんなもんね」

 先輩が言う。すべて計算通り。別に珍しくもなんともないという声で。

 他の人達は「こんなにうまくいくと思わなかった……」て顔をしている。本来はそのくらいえぐいボスなのだ。バケモノじみた耐久力、すぐにMP枯渇に陥るくらいの超火力、広範囲のブレス攻撃に、打撃。けれどそれでも「ヒエラルキー・クイーン」の前ではこうなってしまう。シンプルな火力と耐久力だけのモンスターなんて、先輩によってちょっとした九手詰めくらいの難易度だ。ちなみに俺にはどんだけ唸っても解けない。

 ほんとうに簡単そうに倒しちゃうんだよなぁ。

 ちなみに究極龍はあそこからリジェネが始まって防御形態になりデバフが解除される。

 それからHPが100万を切った際に『アトミック・フレア』と『コキュートス・ブレス』を同時撃ちしてきて、30万を下回ると発狂モードに突入して攻撃が激化する。それらすべてに対応することを求められるのが対究極龍戦の本来の難しさなのだが。

 ネトゲのインフレってこわいね?

「ジングウジは」

 レーダーを見ると、北東の方にプレイヤーの反応がある。「拙者はさすがにこの状態では戦えないので、ここでリタイヤでござる」比留間さんがHPと攻撃力を除くすべてのステが0になっている。水晶丸さんが比留間さんに寄り添う。「俺も別にジンの顔見たくはないなぁ」がんもどきは意外と薄情なやつだった。「あたしもちょっと疲れたわ」先輩が左目を手で覆う。「ちょっと休んでるから、行ってきなさい」

 俺は頷く。

 俺とあいじんさんの二人でジングウジを探しに行く。

 ……で、とうのジングウジはテーブル挟んで優雅に足組んで座ってショウさんと一緒に紅茶なんぞ飲んでやがった。

「やぁ、遅かったね?」

 のんきに言う。

 まじかこいつ。

「わずか二十二分四十六秒であの究極龍を倒してきたのか。すばらしい」

 ショウさんが俺たちを讃えるように小さく手を叩いた。

「さて、じゃあ迎えがきたから、俺は帰るよ?」

「考え直す気は、ないんだな?」

「うん。俺は“ゲーム”で満足したよ。おまえの言う事に意義を感じなくもないけど、俺は自分が楽しかったらそれでいいんだ」

「……なにがしたかったんですか」

 俺は思わず尋ねていた。

 ジングウジや俺をゲームの世界に取り込んで。

 一か月以上も意識不明のままで彷徨わせて。

「テストプレイ」

 ジングウジが言った。

「≪アークノア≫が大人数のアクセスに耐えられるか見たかったんだって。≪アークノア≫自体を作った動機については、ええと、なに? 現実世界でハブられた人たちの受け皿を作りたかったんだっけ。一度の失敗でなにもかもが終わりになることがない世界。二回目の現実を電脳世界に築こうとしたんだそうだよ」

「よく、わかりません」

「例えば“デジタルタトゥー”ってあるでしょ。AV出ちゃったり、バイトテロだったり。過ちだったってあとから反省しても履歴が残っちゃって消さないやつ。でもここでならキャラエディットで新しい自分を作りなおせる。間違ってもやり直せる。現実とかいうクソゲーから脱却できる。そういう場所を作りたかったんだって。なんならここでの仕事に価値が出てリアルマネートレードできるようにすれば、現実の戻ることすら最小限でよくなる。そういう現実と関連した“やり直せる世界”を作りたかったのが、ショウの動機だってさ」

「ぺらぺら話すなよ、口の軽い男だな」

 ショウさんが眉を顰めた。

「わるかったね。俺は君ほど深刻なやつじゃないからさ。それに一か月だっけ?も意識不明だったイチミヤくんには聞く権利があると思わないかい」

「……そうかもしれんな」

 ショウさんが立ち上がって俺に向かって深々と頭を下げた。

「済まなかった。強制取り込みから現実世界への帰還までにあれほどの処理落ちが発生するとは考えていなかった。我々のプログラムはまだまだ未熟だったようだ」

「最初から、まだ俺以外はそんなに長く拘束するつもりはなかったらしいよ。俺のことはどうしても“説得”したかったらしいけど。はた迷惑なことに」

 ちぇっ。とジングウジが舌打ちする。

「それじゃあ、俺は行くよ。こんな大層な手段じゃなければ、また遊ぼうぜ」

「……ああ、そうだな」

 ショウさんの姿が足元から消えていく。≪アークノア≫からログアウトしたらしい。

「じゃ、いこっか。ああ、そうそう。迎えにきてくれてありがとね」

 あいじんさんの髪をくしゃっと撫でて、俺に向けてジングウジが微笑む。



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