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5.未界踏破



 悪いことに、神宮さんが言うには俺たちは≪究極龍≫を「三十分以内」に倒さなければならないらしい。こっちから無理矢理繋いだ≪アークノア≫へのアクセスが継続できる時間がそれしかないらしい。先輩と倒したときは六時間かかったんだが?

 ≪究極龍≫を倒す方法について神宮さんとあれこれ話しあってみたのだがいい案は出なかった。俺達には圧倒的にもう知識が足りなかった。それで非常に不本意ではあるのだが先輩に相談することにした。

「えー、あたし、いそがしーのになー、あんたに付き合ってる暇ないんだけどなー」

「そうですよね、すみません。他あたります……」

「まーしょうがないから相談くらい乗ってあげるわよ」

「いや、巻き込んですみません。奨励会の方に注力してください」

「いいって言ってるでしょうが。ムカつくわね。さっさと決まってるやつらの数値とスキル出しなさい」

 先輩はしばらく俺と神宮さん、比留間さんのステータスとにらめっこする。

「ちなみにあんたが立てた戦略は?」

 俺は比留間さんの『七死刀』のことと、それを『ドッペルゲンガー』と『神の似姿』でコピーして攻めることを話した。

 少し考えたあとで先輩は「論外ね」と言った。

「あんた究極龍の火力と攻撃範囲わかってるわけ? 防御力がゼロ判定の『ドッペルゲンガ―』なんか使ったら即死するんじゃないの」

「あ……」

「それに、あんた侍のスキル使えるの? 『スイッチ』系統ってかなり難しいわよ」

 ぐうの音も出なかった。

 そうか、ジングウジは大剣の他、片手剣や召喚スキルを軽々に使いこなしていたがあれはジングウジだからできたのだ。『ドッペルゲンガー』だって防御力がゼロ判定でも立ち回れたのはジングウジだからこそだ。俺が同じことができるとは限らない。

「と、特訓します」

 ちょっと小ばかにした顔で先輩が頷く。

「確認しとくけど、アザミは参加しないのね?」

「危ないですから」

 先輩がちょっと考えたあとで抑えきれないみたいな感じの笑顔になる。

「えっと、なにか?」

「なんでもないわ。あとこの『タイムパッセージ』ってのは具体的にどんなスキルなの?」

「“時間を経過したことにする”スキルだって言ってましたけど。ジングウジは“サークル内のキャラを毒にするスキル”との組み合わせでザコを一掃するのに使ってました」

「だから具体的にどれくらいの時間を“経過したことにできる”わけ?」

「あーえー」

 神宮さんにLINEで訊いてみると「おおよそ一時間ほどです」とのこと。

「……あたしの特殊スキルの中に『アシッドレイン』ってのがあんのよ」

「え、ええと?」

「効果は“敵の防御力を継続して下げ続ける”、これ、経過時間に制限がなくて、長ければ敵の防御力がゼロを通り越してマイナスになるのよね」

「……」

「あたしも行った方がよさそうね?」

「いや、巻き込めないです」

「あんたが巻き込まれた時点であたしも巻き込まれてるのよ。死ね」


 先輩がざっとパーティの概算を出してくれた。

 比留間さんと俺をアタッカーに据えて、神宮さんが賢者のヒーラー。先輩がサポーター。あとはタンク役の聖騎士と、もう一人なんらかのサポーターが欲しいらしい。凝ったジョブの俺と比留間さんを除けばわりとオーソドックスなパーティ構成だ。というのも、究極龍は状態異常がほぼ通らないので正攻法で攻めるしかないのだ。絡め手が効かない相手なので、地力の高さで勝負するしかない。また膨大なHPのせいで火力で押し切るのも難しい。

 ……ただ三十分という制限時間を考えるに、なんらかの方法で「火力で押し切る」しかないのだが。「七死刀」に期待するしかないか。

「聖騎士はともかくもう一人のサポーターってなんのジョブが適正なんです?」

「言っても意味ないわよ。上級プレイヤーでとってるやつ見たことないくらいのマイナージョブだから」

「一応聞かしてくださいよ」

 先輩はため息を吐いて、


「祈祷師」


 と、言った。


 比留間さんを経由して、水晶丸さんと連絡をとった。事情を話してパーティ参加を打診したところ「絶対に嫌」との返事が返ってきた。まああたりまえだろう。

 神宮さんがしばらくやり取りしていて不意に「BLUEMOON2ってやりましたか?」と訊ねた。「やったけどなに?」、「どうでした?」、「おもしろかったわよ。歴代最高傑作ね。ストーリーは勿論だけどグラフィックが最高なのよね。完全に期待通りの世界観を描いてくれてたわ」、「あれ、グラフィックを作ったの、兄のチームなんです」、「……だ、だからなによ」、「もしも協力していただけるなら、兄の作るゲームのテストプレイをやってもいいですよ」、「な、……な……」、「未発売の新作ゲーム、やりたくないですか」、「…………」、「BLUEMOON3」、「ぐ……」落ちた。

 ちょろかった。

 命かかってるのにゲームで決めんなよと思うけど世の中にはゲームのために命削れる人種が存在するらしい。

 それからバンドウさん経由で、がんもどきに連絡がいって参加してくれることになった。

 これでとりあえず六人のパーティは揃ったことになる。

 の、だが肝心の戦術の方は暗礁に乗り上げていた。

 結局先輩が前に言っていたことが正しくて『ドッペルゲンガー』を使ってのシミュレーションはどうやってもうまくいかなかった。とにかく「防御力ゼロの分身」の扱いが難しいのだ。ある程度はAIによる自動操作で、簡単な命令を飛ばせるようになっているのだが細かく指示を出さなければあっという間に攻撃を受けてHPを共有している俺が死んでしまう。ザコ相手にすらこうなのだから、究極龍の火力で受ければ即死するだろう。

 ほぼほぼ攻撃力を二倍にすることのできる『ドッペルゲンガー』が使えないとなれば、なにか凝った手を考えなければならないのだが、スキルリストを眺めながらああでもないこうでもないとみんなでうんうん唸るけれどなかなかいい手が思い浮かばない。

とりあえず必須だろうということで意見が一致したのは「境界杖・トワイライト」だ。

「特殊スキルを2つ装備できる」というDD屈指のぶっ壊れ武器。これよりも強力な特殊武器は多分存在しない。ただし「攻撃力・魔法攻撃力がゼロになる」というデメリットの厄介さも目立つ。

「俺がサポーターに回ってアタッカーを別に用意するのはどうでしょう?」

「あんた活用できるほどサポートスキルあんの?」

 ……なかった。

 ジングウジの持つ特殊スキルを見てもほとんどが攻撃系でたまに『ポイゾニックフィールド』や『バリアチェンジ』のようなものがある程度だった。

 そもそものところ『境界杖・トワイライト』自体が攻撃寄りのステータスをした暗黒騎士や武器召喚士だからこそ取得可能な武器なのだろう。サポート系の特殊スキルが入手可能な賢者などでデメリットを完全に踏み倒すことができるならばほんとうに完全な意味不明なぶっ壊れで存在そのものが許さなかったと思う。まあ存在が許されないようなスキルは『ミサイラント』を含めていくつかあるのだが。

「くっそぉ。なんでジングウジも俺なんかにこんなスキル寄越すんだよ」

 ぼやいたら比留間さんがなにげなく「おそらく特性の同じ使い手だからでござるな」と言った。

「へ?」

「暗黒騎士と武器召喚士は共にSPとMPを同時に使用することのできるジョブでござる。で、ジングウジ殿のスキルの中にはそれらを両方とも使用するものがちらほらあるでござる。けれどDDでは“魔法職+戦士職”のジョブは弱いとされていて、人気がないでござろう? おそらくジングウジ殿の知る中で自身のスキルを使いこなすことのできる、彼自身を除いた最強の“魔法戦士系”のプレイヤーが、イチミヤ殿だったのでござろう」

「あー……」

 理解できなくもなかった。

 それくらい魔法戦士系でがちでやっているプレイヤーは少ない。

 


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