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1.スキルドレイン

 

 ハイドはいわゆる「殺し屋」のロールプレイをしているらしい。

 PKするときは基本的に誰かから依頼を受けて、金銭やアイテムと引き換えにやるのだそうだ。

 具体的には自分が敵わない相手への報復PK、それから敵対するギルドへの見せしめなんかの依頼がくるそうだ。ギルド同士のいざこざって大変なんだなーと思いつつも、ちょっと疑問に思う。


「俺、PKって返り討ちにした以外だとしたことないし、ギルド入ってないんですけど」

「さぁ、依頼を受けるかどうかはあの子次第だからねえ」

「マスターさん、このカースの解き方って」

「あの子へのキルとあの子が解呪を宣言する以外には知らない」


 ……やっぱりそうなのか。


「ハイドさんの居場所ってわかりますか?」

「いるとは限らないけど、よく行ってる狩場は教えられるよ。君が探してることはボクから伝えておくよ、会うように言っておく。ボクのDLIDDI内でのアドレスを教えとくから、ハイドと連絡がついたらまたメールするね」


 申請送っといたからフレンド登録よろしくー。とのこと。

 悪党同盟のマスターさんとフレンドになった! ちなみにさっきからマスターさんマスターさんと言っているが、マスターさんはプレイヤーネームがそのまま「マスター」である。

 お礼を言って俺とハチノスは『悪党同盟』のギルドホームを出た。


「連絡くるまでどーする?」


 ハチノスは時間を確認する仕草をする。画面の右下あたりに表示されているので、見ようとすると視線が下がるのだ。俺もつられて見てみると、十五時五十三分。あと一時間とちょっとでアザミの試合が始まる。

 まあ俺はアザミの試合なんて見慣れてるし、連絡きたらすぐに動けるようにしておきたいからそっちより自分の都合の方が優先かな。そんなすぐには連絡こないかもしれないけど。


「連絡待ちでモンスター狩りにでもいくかな」

「そっか。俺は試合の前に、つまみとか飲み物買いにいきたいから一回ログアウトするわ。あの二人の試合長引くだろうし」

「OK。付き合ってくれてさんきゅー」

「まかせろー。また一緒に狩りとかいこうぜ」


 ハチノスが手を振りながらDLIDDIから出て行った。

 さて、狩りにいくかーと思っていたら、マスターさんからのメールが届いた。はっや。


「いまクリミヤ密林にいるってさー」


 ……俺が最初に狩りをしていて、ハイドにPKされた場所だ。「ありがとうございます。行ってきます」と返信を送る。

 さーて、×××が封印食らった状態で勝てるのかな……?

 クリミヤ密林に行ってみると、真っ黒な装備に身を包んだ短髪の目つきが悪い女がなぜか三角座りで木の根元に座り込んでいた。ちょっと涙目である。……なんというか、見るからに落ち込んでいる。その人のプレイヤーネームは「ハイド」。下手人に間違いないだろう。


「ええと、はじめまして、……じゃないな。二回目になるのかな。俺をPKしたハイドさんですよね?」

「そう」


 ぶっきらぼうに言う。


「すみません、『スキルドレイン』のカースが解除できてなくて困ってるんですが、解いてもらえませんか?」


 ハイドは時計を見る仕草をした。ああ、そっか。この人もランカーだっけ。

 アザミの試合、見たいのかな?


「あと一時間はダメ」


 なんだ、その微妙な条件は。


「一時間後ならいいんですか?」

「うん」

「……ちなみになんで涙目?」

「マスターに怒られた。スキルドレイン使うのもPKするのも勝手だけどキルしたらちゃんと解きなさいって」

「あー」

「次やったらお仕置きって」


 なにされるんだろう。


「俺のPK依頼したやつって誰?」

「守秘義務」


 そりゃそうか。

 …………会話が途切れた。

 ええと。

 正直俺は戦う気満々で来たけれど、一時間後に解いてくれると言うのならば別に無理に戦う必要はない。俺もハチノスみたいにログアウトしてアザミの試合見る用意でもするかなー(ポテチとコーラ買ってこよう)、と思っていると、複数の足音が近づいてきた。

 六人ぐらい、全員レベルカンスト。

 ……武器構えてて、殺気むんむん。

 戦士系統が二人、……騎士剣と両手槍だから二人とも聖騎士か?(バトルマスターは騎士剣と両手槍を持てない)。狩人系が二人。魔術師(召喚士かも?)系統が一人。僧侶系統が一人。

 僧侶の法衣服を着た好青年っぽい見た目をした、若いフェルフ族(耳が長い、手足が細くて長い、肌が白くて綺麗)の男が一歩前に出た。ハイドを指差して、俺に向けて言う。


「関係ない人は退いてください。そいつはPKのハイドです。僕らは『PKKプレイヤーキラー・キラーの会』と言います。悪質なPKをキルし続けてDLIDDIから排除することを目的としています」


 俺はハイドを見た。


「悪質なPK?」


 ハイドは首をぶんぶん横に振る。


「私、主な標的、初心者狩りのPK。事前調査ちゃんとしてる。粘着しない。ドレインもいつもはちゃんと解く」

「え、俺は?」

「依頼主の、金払いが、よかった」


 だめじゃねえか。


「……自称悪質じゃないらしいけど、見逃してもらえない?」


 ハイドは口下手らしく、喋りたくなさそうなので、代わりに言ってみる。


「駄目です。『悪党同盟』に所属しているPKという時点で、我々の排除の対象です」


 わるい人たちじゃなかったけどな、『悪党同盟』。少なくとも一人のプレイヤーを六人で囲んでリンチするような人たちでは、……あったな。四対二だった。微妙に擁護しづらいな、あの人達。

 でもあの人らのは、あくまで「ロールプレイ」だった。こっちの都合も考えてくれていたし、逃げたいなら逃がしてくれた。

 少なくとも、こんなガチの悪意ではなかった。


「これ以上の問答は無用です。五秒以内に立ち去らなければ、あなたも攻撃します」


 カウントダウン。

 五.

「なぁ、おまえ六対一勝てる?」

「さすがに無理」

 四.

「ものは相談なんだけど、カース解いてくれたら手伝う」

「自信ある?」

 三.

「俺の試合動画見てない?」

「見た、ハメ技使い、チーター」

 そーだよ! だからネットで評判悪いんだよ!

 二.

 ハイドはほんの少し逡巡してから「背に腹は代えられない」と『解呪』を宣言した。

 俺は『サイレントスペル』を選択して魔法名を宣言せずにスキルを発動する。

 一.

『武器召喚・ミサイラント』

 零.

 ミサイルに跨ったアリが八匹、召喚された。

 六人全員の腹が吹っ飛んだ。

 モニターが爆風に包まれる。


「!!!?」


 纏まっていたから六人全員が互いのノックバックを食らってまとめて大きく後退して、距離が開く。

 知ってるやつからは俺は“ミサイラー”とか呼ばれている。

 ほとんどこれ一本で戦うからだ。ワンパターン戦法と揶揄されてるけど、てめーら不遇職なめんなよ? 使えるスキルすくねーんだぞ、こちとら!

 それにしても、あー、すっきりした! これ使えない間、めちゃくちゃ窮屈だった!

 よし! 全員殺そう!

 開いた距離が余裕を与えてくれる。俺は召喚士のスキル、『ディアルサモン』を使う。『百発千中』と同じような一定期間付与型のスキルで、“本来一体しか召喚できない召喚獣を二体まで召喚できるようになる”というものだ。俺は『ミサイラント』を二体、八匹でワンセットの召喚獣なので十六発のミサイルを召喚する。

 ノックバックから立ち直ったPKK達が、纏まっていたら瞬殺されると判断して分散する。俺は戦士二人と狩人二人にそれぞれ一発ずつ四発の『ミサイラント』をあてて、残りの十二発を魔術師と僧侶に集中させる。「こんな、の、反則っ」爆風に錐揉みにされて魔術師が「死」ぬ。僧侶の方は法衣服の防御力がそこそこあるのでまだ耐えている。が、爆風に紛れて接近していたハイドが首を刈り取って僧侶も「死」ぬ。

 アホみたいな話だが、『ミサイラント』はリーチがそこそこあるし攻撃速度が尋常じゃなく速い、爆風まで付与されているくせに攻撃力自体が高いのだ。紙装甲の魔術師系統に密集させれば一瞬で削り切れる。ちなみにアザミも紙装甲の部類に入るし、弓よりもこちらの攻撃速度の方が速いので容易に削り切ってしまえる。逆にバトルマスターのバンドウさんには、特殊アイテムらしい防具がめちゃくちゃ硬くて全然HPが削れなくて勝てなかった。

 ……しかしこれに比べたらほんとに『シザース』や『エッジ』は玩具に見えてくるなぁ。

 俺はアイテム欄を開いて「やまびこのくさ」にあわせる。

 手元のミサイルを使い切った俺の元へ、狩人二人からニ十本の弓矢が飛来する。

『百発千中』が付与された『パラライアロー』と『サイレントアロー』だ。片手剣で弾いて、片手盾バックラーで受けるが、防ぎきれずに何本かが突き刺さる。俺は状態異常のレジストがそれほど高くないので、「麻痺」と「沈黙」の状態異常を受けてしまう。

 まあここは闘技場ではないのでアイテムを使えば状態異常は治せる。予想していたので、速攻で「やまびこのくさ」を使って沈黙だけを治す。麻痺は『ミサイラント』に影響しないので今はどーでもいい。つーか、両方とも『サイレントアロー』を使うべきだったな! このゲームでは異常効果が重複するのだ。重度・沈黙になればやまびこのくさでは治せない。

 ところで、なぁ、おまえら、ハイドからターゲット切っていいのか?

 狩人の片方が「不意打ち」での「暗殺」を食らって「死」ぬのが見えた。いくら気配察知があってもあからさまに視線から外してたらそりゃあそうなるよ。もう片方も、中衛の「狩人」が前衛の「アサシン」に張り付かれてしまえば長くはもたないだろう。

 接近してきた聖騎士に俺は再びの『ミサイラント』。八発の弾数の内、先ずは二発、あてる。さすがにここまで乱発するとMPが切れる。『ミサイラント』はMPをバカ食いするのだ。

 なので、SP攻撃に切り替える。『ギガントセイバー』を発動する。装備している片手剣が光に包まれて、長大な巨人の剣へと変化する。「麻痺」によってろくに動けなくても、そのスキルならばその場から相手を攻撃できる。時間差で『ミサイラント』をもう一発あてる。『爆風』によるヒットストップで聖騎士二人はまだ動けないでいる。『ギガントセイバー』を振り下ろす。このスキルは見た目こそ派手だが、実は攻撃範囲重視で火力は高くない。防御力の高い聖騎士のHPはまだ十分に残っている。硬いな、聖騎士。追加でもう一発『ミサイラント』。これで残弾は五発。追加でもう一発。「爆風」のヒットストップをコントロールして疑似的な『拘束』を行う。狩人を片付けたハイドが目配せ。頷く。

 聖騎士は背中あわせのような形で、片方は俺をターゲットにしてもう片方はハイドをターゲットにしている。ああしていれば、少なくとも背面からの「不意打ち」を食らわないで済む。「爆風」でよろめきながらもその姿勢は崩さない。PKには「強盗」系統のやつが多いからさすがに「不意打ち」するやつとは戦い慣れているらしい。

 三発のミサイルを放って、「爆風」をまき散らす。

「爆風」に紛れてハイドが『霧隠れ』を使ってタゲを外してモニターから消える。

 聖騎士が透明になったハイドを警戒して武器を振り回す。が、当たらない。

 そもそもハイドは、その場から一歩も動いていなかった。

 ——『霧隠れ』を使ったんだから、なにかするだろう、という心理を突いたのだ。……たしかにこりゃうめえわ。背面からほどではないものの、攻撃後の隙を突いた側面からの「不意打ち」で聖騎士のHPが削れる。聖騎士は反撃のために騎士剣を振り上げた。


「××× ……!!?」


 ……おい、ちゃんと事前調査してこいよ。

 聖騎士の『エクスカリバー』なんて強技、『スキルドレイン』に狙い撃たれるにきまってるだろ。カースによる封印でスキル攻撃に失敗し聖騎士が更なる隙を晒す。そこをハイドが追撃して聖騎士が「死」んだ。

 あと一人。

 MPはなくなったが『ミサイラント』の弾も一発残っている。ハイドと協力すれば、充分勝てるだろう。俺は解毒薬を飲んで麻痺を治す。


「お、おまえら、これからずっと狙い続けてやるからな。このゲームにログインしてる限り、ずっと殺し続けてやる」

「あのさ、おまえがやってるそれは、おまえらが狩ってるっていう『悪質なPK』となにが違うんだ?」


 そもそもハイドはPKだが、俺は違うんだぞ!

 無実の俺を狙い続けるとか間違ってるとか思わないのか!

 聖騎士は口をあけてぽかんとした。

 ……まあ言葉に詰まるのなら、まだかわいいもんか。

 どーでもいいけどDLIDDIの運営は滅多なことがない限り、プレイヤーをBANしない。悪質なプレイヤーが「嫌ならやめろ」ということらしい。はぁ。


「『悪党同盟』、受けて立つ、かかってこい」


 ハイドが聖騎士をキルした。

 敵のパーティが全滅して、俺たちが勝った。

 俺は疲労からため息を吐いた。六対二はさすがにしんどかった。

 ハイドも同じように、疲労を吐き出す。それからおもむろに俺を指さす。


「おまえ、なかなかやる」

「そっちこそ」


 俺とハイドはハイタッチする。



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