5.未界踏破
回復ポイントのすぐ近くだ。MPを気にせずに俺はデュアルサモンからの『武器召喚・ミサイラント』を発動させる。俺の周囲に十六発のミサイルが召喚される。……しかし俺たちを取り囲んでいる狼の数はどうみても三十匹を超えていた。ミサイラントの十六発だけでは火力が足りない。
俺たちはあいじんさんと水晶丸さんを中心にして、ウンディーネも含めた四人と一体で五角形を作る。吼え声と同時に狼が飛び掛かってきた。先頭の一匹にミサイルを発射。爆風によるノックバックが纏まっていた狼の群れをまとめて吹っ飛ばす。ロングランなので残弾は調整しなければならず、まとめて放つのは悪手だろうか。俺は吹っ飛んだうちの一体に向けて片手剣を振るい首を切り裂くが、攻撃力が高くない俺の一撃ではHPが削りきれない。後方からあいじんさんの『ロックブレイク』が放たれた。地面から突き出てきた岩の槍が、削れた狼の腹を貫いてHPをゼロにする。百舌の早贄のように岩の槍に突き刺さった狼の腹の傷口から血と臓物が噴き出す。「サポは任せて」あいじんさんが新たに魔法を作る。
水晶丸さんがデュアルサモンを使い、『土竜召喚・ノーム』を呼び出す。大量の小さな土竜が召喚されて、地面に潜る。地面から飛び出した土竜が、アザミに向かって飛び掛かろうとしていた狼の前脚を掴んだ。攻撃が途中で止まり、その狼はアザミの前で隙を晒す。攻撃力の高いアザミの大斧が狼の身体をきれいに両断する。上下が分かれた狼の上半分が吹っ飛んでべしゃりと木にぶつかって、落ちた。
「ぐっろ」
と、アザミがこぼす。
DDは倒されたモンスターがただ消えるだけで、この手の描写はないはずなのだが。アプデで仕様が変わったのか……?
「拙者、襲ってくるタイプのモンスターは得意でござるよ」
『居合いスイッチ』で構えを作った比留間さんが、『居合い斬り』による確定クリティカルで狼の一体を切り捨てた。対人戦では読まれて、躱されて、使いにくい『居合い斬り』だがこの手の対モンスター戦での破壊力は群を抜いている。
一瞬で納刀し、すぐにまた『居合いスイッチ』を発動させ、斬る。
あの動作めちゃくちゃ練習したんだろうな。
「片手剣じゃあ『テラブレイク』の威力が低いな」
ぼやきながらジングウジが”地雷”によって動きを止めた狼の頭をヘイムブレイカーで叩き割る。一撃では落とせなかったのを小さな土竜が懐から取り出したハンマーを振りかざして、殴る。ダメージはわずかだがヒットストップで動きの止まった狼をさらにジングウジの剣が切り落とす。
「ナイスサポート」
「どうも」
回復ポイントが近く”MPをぶっぱしていい”という条件下ならば、召喚士系統の有用性はトップクラスだ。
ウンディーネが三叉の槍を振りまわすと、水流がそれに追随して広範囲のザコを薙ぎ払う。火力はそう高くないが水流に動きを妨害されて、狼たちはウンディーネにうまく近づけない。水晶丸さんがMPをウンディーネに与えると、三叉の槍が巨大化。まとめて串刺しにして木々に複数の狼の身体を縫い留める。あれがあの特殊武器の効力のようだ。性質としては『クルセイダー』に近いか。MPを消費して攻撃力と攻撃範囲を上昇させる。
「警戒!」
アザミが上を見ていった。樹上に猿型のモンスターが複数体。手には何かの木のみを持っていて、それを振りかぶる。投擲攻撃。頭上からの攻撃と、地上からの狼との連携でこられるとかなりうざい。俺はミサイルを放って投擲攻撃を迎撃、『爆風』が木の実を明後日の方向へと弾く。
「しばらくお願いするでござる」
「引き受けたよ」
比留間さんが言い、ジングウジが地雷魔法を設置する。
『八艘スイッチ』へとスタイルを切り替えた比留間さんが、走り出したかと思えばそのまま木の幹に足をついて、ほとんど一瞬で樹上へと駆け上がる。『八艘スイッチ』の最中には攻撃力が低下するので致命の一撃は放てないが、猿共を地上に突き落とすだけならばそれで十分だった。細い木の枝の上を比留間さんが跳びまわり、猿共に一撃を加えて落下させる。落とした先に待っていたのは、大斧を振りかぶるアザミ。
大斧唯一にして、通常スキルの中では武器攻撃系最強の範囲攻撃、『デッドエンド・ファイナリティ』によって赤色の衝撃波が猿共と近くにいた狼をまとめてぶっ飛ばした。SPの消費が大きい技だから回数は打てないが、大斧の破壊力は圧倒的。粉砕された猿と狼の肉片がどさどさと地面に落ちる。
比留間さんが抜けた穴から、水晶丸さんとあいじんさんを狙って狼達が突っ込んでくる。ジングウジが設置した地雷が爆発。俺はジングウジの地雷を消さないように迂回させて数発のミサイルを放ち、狼を迎撃する。トドメにあいじんさんが『ファイアストーム』による火炎の嵐で狼の群れを焼き払う。
「……」
近くにいたモンスターは全滅させた。俺とアザミが森の奥に視線を移す。
狼の群れは森の奥から次々に湧き出てきている。
無限湧き。というのが頭をよぎる。
「だめだな。まじめに遊ぼうと思ってたけどキリがないや」
ジングウジがヘルムを外して髪の毛をかきあげた。
「あい」
「ん」
「みんな、俺から離れないで」
手招きして樹上の比留間さんを呼ぶ。比留間さんが降りてくる。
「召喚獣を引っ込めて。巻き添え食らうから」
頭の上に?マークを浮かべつつも、俺と水晶丸さんはそれぞれの召喚獣を送還する。
ジングウジが地面に片手剣を突き立てた。
「『ポイゾニックフィールド』」
聞いたことのないスキル名を宣言するとジングウジの足下に魔法陣が展開された。俺たちのパーティ全員を包み込む。「絶対にここから出ないで」そして、その魔法陣の外側に向けて、一挙に黒緑色の毒の沼地が広がって地面を侵食していった。毒沼に突っ込んだ狼の群れが、全頭纏めて毒状態による継続ダメージ効果を受ける。かなりの広範囲スキルだ。
「『タイムパッセージ』」
続けてあいじんさんも特殊スキルを使った。
一瞬だった。狼の群れの一頭も残らず肉がどろどろにとろけて骨だけを残して溶解していった。上からもぱらぱらと骨が降ってきて、樹上にいた猿型の魔物たちも毒を受けてHPがゼロになったことがわかる。
気配察知のあるアザミがあたりを見渡して「うん、大丈夫。もういないよ」と言った。
「……いまのは?」
「“フィールド内のキャラクターを毒状態にする”特殊スキルと、“時間を経過したことにする”特殊スキルのコンボ。『タイムパッセージ』は、本来の用途は麻痺や沈黙なんかの時間経過で治る状態異常の治癒で、単に毒状態にしてから使っても“時間が経過した”ことになっている間にわずかなダメージだけで治っちゃうんだけど、『ポイゾニックフィールド』の場合はフィールドから出ない限り時間経過では毒が解除されないから。一定以下のHPのキャラクターはこのコンボで瞬殺できるんだ」
「……『バリアチェンジ』を装備してるって言ってませんでした?」
「敵をだますにはまず味方から。かなって」
誰をだますつもりだったんだよ。
なんとなくウソつきたかっただけだろ、こいつ。
ともかく特殊スキルのコンボは圧倒的だった。
「で、問題は、」
アザミが大丈夫と太鼓判を押したにも関わらず、ジングウジの視線の先には名前が文字化けしてエフェクトが壊れたモンスターがHPがゼロの状態のまま立っている。
「あれだね」




