5.未界踏破
DDのバージョンアップデートと同時にジングウジのギルド、『リバースクルセイダー』が本格的に活動を始めた。最初に挑んだクエストは「未開踏破」。アップデートで拡張された最新の「マップ」の探索である。多くの場所は人の手が入っていないという設定なので、新しいモンスターがわんさかいるしその多くはこれまでになかった強力なものだ。
……それはともかくとしてだ。
「俺、なんでここにいるんだろうな」
正面でリーダーのジングウジが賢者の女性と持っていくアイテムの厳選をしている。隣でアザミが俺の手を握っている。左で侍の男とフードを深く被った女が雑談中。こないだのPKの二人組だ。ジングウジがスカウトしてきたらしい。ほんとに何考えてんだ、あいつ。
元々俺はアザミに呼び出されたのだ。「ギルドに誘われて、やってみたいんだけど知り合いがいなくてちょっと怖いんだよね。よーちゃん、ついていきてくんない?」と、こんな具体に。まあそれぐらいならいいかー、と思ったらジングウジと合流して「お、イチミヤくんも来てくれたんだね! よかったよかった。やっぱ六人じゃないと締まらないよね」でなし崩しのうちに俺も参加することにされていた。アザミが手を掴んでたから逃げられなかったし、言い訳する間もなかった。
はぁ。
侍の方がてくてくと俺の方へ歩いてくる。
袴を着ていて、腰には刀。長い髪をポニーテールのようにまとめて後ろに垂らしている。
「イチミヤ殿でござるな? 拙者、比留間と申すもの。“辻斬り抜刀斎”と異名を取る決闘系PKでござるよ。今回はよろしくお願いするでござる」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「アザミ殿も、ご高名はかねがね伺っているでござる。あのアナアイデンタファイド・フライング・オブジェクトを撃破されたとか。よろしくでござる」
「よろしくー!」
知り合いがいなくて恐いとか言ってたが「あのボスほんとだるかったよー」とか「そっちの特殊武器はー? あ、言いたくなかったら別にいいけどー」とか「PKって楽しいの? 強い人いたー?」とか楽しそうに話している。
「水晶丸よ。よろしく」
祈祷師の女がフードを外して言った。
ツンツンした白髪を後ろに流した、青い目をしたきれいな顔立ちの女の人だ。
「よろしくお願いします。ええと、その名前ってやっぱり」
「雨竜の天門、死せる残響、来たれ帰れ集え散れ、万象一切が汝を拒絶する」
「あ、はい」
某有名漫画の刀解放時の台詞だった。
「読んだことある?」
「さわりくらいは」
「好きなキャラは?」
「え」
「好きなキャラは???」
なんだろう、この人。圧が強い。
リアルで同好の士がいなくて大好きな漫画の話ができずに、いま内心でテンションが爆上がりしてるのをなんとか押さえつけている人の雰囲気を感じる。
表情が動いてないし別にそういうことではないんだろうけど。
「安樂くん、……かな?」
水晶丸さんが俺の手をぎゅっと握りしめた。
「彦星と答えていたらあなたは血みどろで地面に転がっていた」
そ、そうですか。
「あなた達は、ジングウジに反感持ってる方の立場だったんじゃないんですか?」
「いや、拙者は単にジングウジ殿と戦ってみたかったのでござるよ。で、水晶丸氏は拙者に付き合ってくれていたのでござる」
ああね。ジングウジは“最強のPK”として名を轟かせている。闘技場のように直接戦ってその名を勝ち取ったわけではなく、実績とか伝説とかで出来た名前だから中には「俺の方が強いのに最強なんて名乗ってんじゃねーよ」と思うPKもいるのだろう。
「ところが拙者はジングウジ殿に辿り着けもせずに、イチミヤ殿、貴殿に敗れ申した。いやはや、拙者、天狗の鼻をぽきんとやられた気分だったでござるよ。感服したでござる」
「……もう一回やったらあなたが勝ちますよ」
俺が勝ったのは相手にとって『クルセイド』が初見だったからという要因が大きい。いまとなっては威力を見て『クルセイド』が特殊スキルであること、つまりは『ミサイラント』と併用できないことにこの人も気づいているだろう。
次にやれば『八艘スイッチ』で掻きまわしての『居合い斬り』で俺は真っ二つになる。
比留間は小さく頷いた。
「わかっているでござる。貴殿のジョブは決して強力なものではござらん。互いの手札が割れた上で複数回戦えば、基本性能で勝る拙者の勝率が上回るでござろう。しかし、“初見殺し”を通されて“わんちゃん”を掴まれ、拙者が敗北したのもまた事実」
おおう。こいつのなかでは俺は随分高評価らしい。
俺はちょっと泣きそうになった。
『イチミヤ? 強いの本人じゃなくてスキルっしょw 人間はザコ』
『あのわけわかんねー攻撃スキルあれば俺でも闘技場で無双できるわw むしろあれで十連勝できないの恥ずかしくないのかよ』
『もしあのくそザコナメクジがチャンピオンになったら闘技場の歴史の否定だよな』
とか言ってるネットの連中に見せたい。
「前から思ってたけどさ」
アザミが俺を見ていった。
「イッチ―って、スキルやジョブのことすっごく詳しいよね?」
「ああ、先輩の請け売り」
先輩は“研究家”だ。
将棋でもそうだけど、ゲームでも。何をするにも調べて有効な手段を見つけてからじゃないと手を出さない。先輩は闘技場をやると決めたときに徹底的に各ジョブの特徴を洗い出して傾向を調べ上げて対策を立てた。だから先輩は闘技場の流行であるバトルマスターや聖騎士に対しては、本格的にやりだしてから一戦も落としていない。『エリア・フォース・ブリザード』と先輩の立てた戦略にはそれが可能だった。
前衛系で先輩に勝てるのは、足場の悪さでの敏捷低下を無効にする狂戦士系統か『八艘スイッチ』で狂戦士と同じことができる侍くらいだっただろう。狂戦士系統が闘技場でいないのは大分前に述べた通り、「防御力が低くてタイマン向きではない」から。ちなみに侍が闘技場でいないのは盾が装備できなくてステでバトルマスターに劣るからだ。
必殺の威力を持つ『居合い斬り』も納刀状態で待ち受けないといけないので、発動させるタイミングがすげーシビアなのだ。おまけにあのスキルは出どころがモロバレで「納刀状態」から撃てるスキルは打撃か『居合い斬り』しかないので対応されやすい。
というか「待ち受ける」タイプのカウンターに近い技である『居合い斬り』は、極端な話、放置されたままでタイムアップに陥りかねない。
んで、魔術師系統で炎属性以外の使い手であれば先輩と競うことは出来た、のだが「闘技場に魔術師系統はいない」。だってタイマンに優れていて耐久力のある前衛系に勝てないから。
結論、前衛を駆逐できる先輩は闘技場で無敵だったわけだ。
そんな先輩と話しているとジョブやスキルについて詳しくもなるし、会話についていこうとどうしても俺もいろいろと調べざるを得なかった。
「ふうううん」
自分から聞いたくせに、アザミは不満そうに唇を尖らせる。
なんか最近アザミは俺の口から先輩の名前が出る度にこんな顔するんだが、なんだ?




