4.リバースクルセイダー
袴姿の単身痩躯の男が飛び込んできた。ポニーテールにされた長い髪が尾を引く。
咄嗟に俺がミサイラントで迎撃。男は片手剣を腰の鞘に納めて柄に手を当てて低く構えた。『居合いスイッチ』のスキルを発動させた。納刀状態で構えを取って動いていない状態のときに“遠距離攻撃を無効化する”スキルだ。『ミサイラント』が敵の手前でなにかにぶちあたったように突然誘爆する。こいつはどうやら戦士+鍛冶師の上級職、『侍』らしい。バトルマスターから盾を装備できなくした代償に攻撃性能を上げたようなジョブだ。
俺よりは近接に優れたハイドが構えを崩すために攻撃を仕掛けようとして、侍の“納刀状態からの初太刀”に限ってクリティカルヒットを出すことのできる『居合い斬り』のスキルによって真っ二つに切り裂かれる。……ハイドの分身が消える。ハイドが『分身の術』を囮にして背後から斬りかかる。男はその場で踊るようにして反転して半身になってスキルドレインの刃を避けた。勢い余ったハイドと背中あわせになって肘を振ってハイドの背中を強打する。なんだよいまの動き。よろけたハイドに向けて片手剣を振り上げ『イズナオトシ』を繰り出そうとして、俺がミサイルを発射したのを横目に見て一瞬で納刀して構えを作り再び『居合いスイッチ』を発動させる。遠距離スキルに分類される『ミサイラント』の、ダメージやヒットストップ、ガードブレイク性能が丸々無効化される。構えを作るまでがはえーよ!
ジングウジの前に『水精召喚・ウンディーネ』によって呼び出された、人間とほぼ同じ特徴の青い肌を持つ精霊が三又の槍を掲げて躍り出る。耳が尖っていて髪の毛まで真っ青でブラと下着だけみたいな露出度の高い恰好をしている。なぜかへそにはピアス。妙に扇情的な格好の精霊が大槍を振りまわしてジングウジを打ち据える。
ドッペルゲンガーの分身が側面をとって攻撃するのを、水柱が噴き出して阻止。水霊の背後から、距離を取ってフードを目深に被ったエレメンタルマスターらしき女がジングウジを見ている。どうやら召喚獣を前衛に立てて後ろから術者が魔法でサポートするというスタイルのようだ。ジングウジは隙を伺うが、『ウンディーネ』がジングウジを、術者が分身をターゲットにしているため、『神の似姿』で借り受けているのが“隙を突くこと”に特化したアサシンのスキル構成では戦いにくいようだ。かといって俺のスキルに切り替えようとしても、ジングウジのMPはデュアルサモンと組み合わせた四発分のミサイラントでほとんど枯渇している。ジングウジのドッペルゲンガーは攻撃性能をほぼ二倍にするという破格の性能を誇っているがMPやSPまで二倍になっているわけではないのだろう。
とはいえ、召喚獣の強さは所詮召喚獣に過ぎない。プレイヤーの一人分の攻撃力にはとても満たないものだ。ジングウジなら隙を見つけて突破するだろう、と思っていたら弾き飛ばされたジングウジが俺たちの場所まで転がってきた。「つぅ……」『ウンディーネ』の持つ三叉の槍が巨大化。大型のドラゴンですら串刺しにできそうなサイズになって、俺たちに向かって降ってくる。俺は迂回させて放ったミサイルの残弾を槍の穂先に集中させて、槍の向きを大きく逸らす。
どうやらフードの女はエレメンタルマスターではなく、召喚士+付与術士の『祈祷師』らしい。バフを得意とする召喚獣でのパーティサポート、ないし前衛系の召喚獣をバフで支援することを得意とするジョブだ。女のスキルビルドはどうやら後者。
しかもあの槍は。
「特殊武器だね、どうも」
ジングウジがぼやく。
召喚獣に装備させることのできる武器というのは聞いたことがなかったが、DDはわりとなんでもありなのでそういうこともあるのだろう。
ハイドがバックステップで下がる。
HPが半分を割っている。どうやらタイマンではあの「侍」の方が一枚上手のようだ。
「あの刀も多分特殊武器」
ハイドが言う。
侍が納刀、『居合いスイッチ』の構えでこちらを待ち受ける。
アサシンは絡め手を駆使するジョブだ。言い換えれば正面からの攻め手に欠ける。準備万端で待ち受けるあの侍は、ハイドには崩しにくい相手だ。俺のミサイラントは無力化されるし、自分からあまり動かないのでジングウジの地雷も効果が薄い。
「……なにやってるの」
不意に門の方から、聞き慣れた声がした。
アザミが俺を見ていた。
「よーちゃん、なんでそいつの味方してるの? そいつ、ゴーちゃんのアイテム踏み割ったんだよ?」
アザミが弓を引く。ジングウジをターゲットにしている。
「私達の敵でしょ? 違うの?」
「アザミ、待っ」
影が俺たちを包んだ。祈祷師がウンディーネと共に放った『タイダルウェイブ』の魔法が引き起こした高波が陽の光を遮る。門前の平原を丸ごと飲み込むような大海嘯が展開される。「っ……」俺は『ウォーターフォートレス』を召喚して水の砦の中にハイドを引き込む。ジングウジが自分で作った地雷を踏んで、爆風を利用して跳躍。高波の届かない街の壁の上に着地。侍は『居合いスイッチ』で魔法を無効化している。
遠距離攻撃耐性のある『フォートレス』の壁面が軋む。たん。誰かが『フォートレス』の真上に降り立った。新手のPK!
「ゴッドストライク」
ナックルダスター系統の最強スキル。『ゴッドストライク』によって巨大化した拳による近接攻撃が、遠距離攻撃にしか耐性がない『フォートレス』をぶち壊した。ハイドは寸前で跳躍して街を守る城壁の端を掴んで逃れたが、俺は『タイダルウェイブ』の濁流に呑みこまれる。体が錐揉みにされたまま城壁に叩きつけられる。
濁流で濁った視界の中で、『八艘スイッチ』でスタイルを変えて敏捷を上昇させて流木などの足場とも呼べないようなものを足場にして濁流の上を跳ねてくる侍の姿が見えた。水中の敵を切り裂く「海神斬り」のスキルが居合いとの組み合わせで発動され、——かけて、抜刀した手に『エアリアル・マイン』がぶち当たって攻撃に失敗。……いい仕事しやがるな、ジングウジのやつ!
俺はそのまま壁に沿って水の流れに逆らえず押し流されていく。




