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4.リバースクルセイダー

 


 クリスタルに触れてMPを回復させる。

「いいところだったのに」

 ジングウジがぼやく。ハイドが目を細めてジングウジを睨んだ。

「火に油」

「もうちょっと話し合ったりしません?」

「きみ、ああいう連中に話が通じると思ってるのかい?」

 ……まあ通じないんだろうけどさ!

 俺も一回中傷に対して反論しようとしたら意味不明な屁理屈で袋叩きにされたし。

 以来、眺めているだけになった。なんであんな自分たちしか正しいと信じてないような変な理屈をごり押しする気になれるんだろうな。

「お、さっそくよくわからんことやってる」

 ジングウジが左手の指先に動画サイトのページを映す。

 俺たちにも見えるように投影する。

 動画タイトルは「【DD】ジングウジのチート疑惑【検証】」今しがたのものか、もう少し前のものかはわからないが、ジングウジの戦闘シーンが撮られている。敵側の魔導士が「ファイアストーム」を放つ。ジングウジは少し下がって効果範囲を離脱する。ファイアストームの効果時間が終わった直後にバトルマスターが迫ってきて、「クレイモア・マイン」を踏んだ。爆発。地雷を踏んで隙を晒したバトルマスターを「テラブレイク」で追撃して、バトルマスターが死ぬ。なにか別の魔法を使おうとした魔導士を「スティンガー」が串刺しにした。

「……ああ、なるほど」

 言いたいことはわかった。

 動画が「バトルマスターが地雷を踏んだ」場所まで巻き戻る。


 →「ファイアストーム」によって本来誘発されるはずの地雷が誘発されていない。新たに設置したならば速すぎるし、術技後硬直で「テラブレイク」を撃てないはず。


 一時停止が入って注釈がついていた。その後も逐一動画を止めて「→フレイムストライクが直撃しているがヒットストップを受けていない」、「→これは露骨。エクスカリバーのダメージが零。火傷もなし」と言いたい放題に書かれている。

 まあ確かにDDの本来の仕様ではできないことばかりだった。

「実際のところどうなんです?」

 ほんとにチーターだったなら俺も付き合いを改めるけど。

「んー、企業秘密、って言いたいところなんだけどねえ」

 好き好んで手の内を晒すバカはいないわな。

 ……アザミぐらいしか。(あいつはずっと前の闘技場の勝利者インタビューで「本来ありえないようなダメージが入っていましたがどういうスキルなんでしょうか?」と訊かれてブラッディレインの性能を事細かにぺらぺら喋った。その際にブラッディレインの効果が生物限定であることも話していたクイーンがシールドで定数ダメを止めれることを前提に戦略を組み立ててたのはそのせい)

 ジングウジは「まあ助けてもらったし、いっか」と軽い感じで「俺の特殊スキルは『バリアチェンジ』、常時発動型のスキルだよ。俺は“自分が最後に使った魔法と同じ属性の攻撃を無効化できる”んだよね」と、自分の強さの秘訣をあっさりばらしてしまった。

「……へ?」

「地雷系統の魔法はどれも、威力が低くて詠唱時間が短い。『高速詠唱 (魔法の威力を半減させる代わりに詠唱時間を短縮するスキル)』と組み合わせれば、敵の魔法を見てから後出しでも対処できるんだよ。この動画の中で聖騎士の『エクスカリバー』を無効化してるのも、使ってくるスキルがだいたいわかってたから事前に『サンライト・マイン』で聖属性無効化を入れただけだね。無効化効果は俺が設置した地雷にも適応されるから、設置した地雷と同じ属性の攻撃では誘発されないんだ」

 なるほど、よくみれば無属性攻撃はちゃんと通っているし、属性攻撃でも捌き切れずにダメージを受けている場面がある。『サンライト・マイン』が『ファイアストーム』によってちゃんと誘発されている。『クレイモア・マイン』は『ファイアストーム』と同じ炎属性だから無効化されてしまったようだ。

 そういえば昔、“無属性を含むあらゆる属性を無効化して一属性だけ攻撃が通る。一度あたりの属性を引いてダメージを与えたら5秒後に通る属性が変化する”というクソみたいなボスがいた。

 ジングウジはあれ、倒したのか。

「……訊いといてなんですが、言っていいんですか?」

「内緒にしててね?」

 別にバレてもいい、と思っていそうだった。……実力の高い古参プレイヤーであるジングウジは、他にも有力な特殊スキルや特殊武器をたくさん持っているのかもしれない。

 ジングウジはもしも『バリアチェンジ』のことがバレたらこの動画に向かって「ねえ、チートじゃなかったけどいまどんな気持ち? ねえねえどんな気持ち? 自分が勝てなかっただけのものをチート(ずる)呼ばわりして気持ちよかった???」とか聞いていそうだ。

「『バリアチェンジ』のことを知ってる人は何人かいるよ。さすがに仲間内でチートだと思われるのは嫌だからさ」

「……てか、防御系のスキルなんですね」

「うん?」

「てっきり攻撃系かと思ってました」

 俺はさきほど門の前でジングウジが倒したプレイヤーの屍の山を思い出した。

 ようするに、あれらは防御こそ『バリアチェンジ』で賄ったとしても攻撃面ではジングウジが実力でふつうに倒したってことか……? 「暗黒騎士」は魔法、物理共に攻撃能力に優れたジョブではあるが。

 チートだとは思わないまでも「特殊スキルでの無双」だと考えた俺はちょっと顔が引き攣る。

 俺は「最強のプレイヤーはクイーンだ」と思っていた。クイーンがアザミに負けたいまでもその考えは変わっていない。でもジングウジは、少なくともクイーンと同格くらいの強さはあるように思う。まじでなんでこの人、PKやってるの?

 ジングウジは動画についたコメントに一通り目を通してくすくす笑っている。

『チーターだろw運営はやく垢バンしろよ』

『チート使ってPKKとかってデカい顔してたの? きっしょ』

『なにが最強のPKだよwwwくそすぎ』

 よく平気で見てられるな。

 神経太いなぁ、この人。

 ジングウジが「よし、そろそろもう一狩り行こうか」と言って、門の方に向かって歩き始める。

「は? あんたまだやる気なのかよ」

「うん、だって燃料がないとあいつら鎮火して解散するだろ。それじゃ困るんだよ」

 俺は振り返ってハイドを見る

「おい、ハイド。付き合い切れねーぞ、これ」

「なにを考えてる?」

 ハイドが目を細めてジングウジを睨む。

「もっと楽しく遊ぶ方法」

 ジングウジはヘルムを被って目元を隠して、口元でにやりと微笑んだ。

 門の外へ出ていくと、装備の点検とかしていたPK共が目を丸くして俺たちを見た。……数が増えている。そして増えた中の何人かは、動画で見たことがある名前の通ったPKだった。俺はやむなしで『武器召喚・ミサイラント』を呼び出す。

「さて、丁度いいメンバーもいることだし、なんで俺がアバターの性能に大差のないこのゲームで“最強のPK”なんて大層な名前で呼ばれているのかくらいは教えといてあげようか」

「……、?」

 よく見ると、ジングウジは大剣を外していた。

 なにも持っていないように見えるが、ジングウジは『境界杖・トワイライト』という両手杖の特殊武器を装備している。


 ここからの説明は全部あとで知った話だ。

『トワイライト』の持つ固有スキルは「本来一つしか装備できない特殊スキルのスロットを、この武器のスロットを無視した上で二つ装備する。代償として攻撃力・魔法攻撃力がゼロになる」。

 ジングウジは『ドッペルゲンガー』という特殊スキルを使う。ジングウジの体が二つに増えた。HP・攻撃力・敏捷のステータスがジングウジとまったく同じ値を持つ分身体が現れる。勿論この分身も「トワイライト」の効果で攻撃力・魔法攻撃力がゼロになっている。ちなみにHPを共有しているのでドッペルゲンガーが死ねばジングウジ本体も死ぬ上にドッペルゲンガーは防御力がゼロなのだそうだ。

 さらに二つ目の特殊スキル、『神の似姿』を使う。このスキルは、「パーティ登録しているメンバーの持つスキルをどれでも自由に使うことができる」らしい。そしてその威力は「本来の使用者のものから一割減」で「本来の使用者の攻撃力・魔法攻撃力を参照にする」ものなのだそうだ。

 これでなにができるのかというと


「『武器召喚・ミサイラント』」


 と、ジングウジが呟いた。

 直前に発動していたデユアルサモンの効果により。16発のミサイルが召喚され、ジングウジの分身がさらに同じ召喚術を使う。

 32発のミサイルがジングウジの周囲に浮かぶ。トワイライトの効果でジングウジの攻撃力はゼロだが、『神の似姿』で再現されているため俺の攻撃力を参考にしていてトワイライトのデメリット効果を受けていない。

「死ね♪」

 ミサイルが放たれてPK共の大半を粉々にした。

「うわ。燃費わっる。これ前前からインチキ臭いスキルだと思ってたけど、イチミヤくんも案外苦労してるんだね」

「……」

 俺はジングウジの起こした破壊の結果に唖然とする。

 特殊スキルや特殊武器の有無はプレイヤーの強さを大きく左右する、が、基本的にこのゲームは一対一ですら相手に勝つことすら容易ではない。それをジングウジは、十人くらい纏めて屠った。心底、意味わかんねえ……

 この時点ではからくりを知らず「パーティメンバーがいなければスキルをコピーできず、攻撃力をコピーできない」ことを知らない俺は、この能力を使えば闘技場のタイマンでもアザミくらいは容易にフルボッコにできると思ってしまう。

 爆風を掻い潜って、比較的耐久力があるために『ミサイラント』を耐え切った聖騎士とバトルマスターが突っ込んでくる。

「無理無理。もう少し頭使わないと、俺には勝てないよ」

 『ドッペルゲンガー』の分身が聖騎士に背後から『暗殺』を決めた。分身の手には真っ黒に塗りつぶされた「影刀・スキルドレイン」が握られている。今度はハイドのコピースキル。強盗系以外が暗殺決めてるところはじめてみた。バトルマスターが分身に斬りかかり、分身が刀を掲げてガードする。攻撃中で隙を晒しているバトルマスターに、ジングウジが突きを繰り出す。首筋をスキルドレインの黒い刃が掠める。バトルマスターが反撃にヘイムブレイカーを繰り出そうとして。「××× ……、!?」スキルドレインのカースを受けて攻撃に失敗して隙を晒す。背後に回った分身が再びの『暗殺』でバトルマスターをキルした。

「うん。いいね。どっちもなかなかのスキルビルド」

 一拍遅れて、忍者の女が『猿飛の術』でジングウジの頭上から攻撃を繰り出そうとした。ぱん。空中に設置されていた『エアリアル・マイン』が弾けた。いまのジングウジは攻撃力がゼロなので女にダメージはない、が、ヒットストップは存在する。忍者の女が空中で速度を失って落下。そこへハイドのスキルを借りたジングウジの『イズナオトシ』が頭を克ち割った。元々ミサイラントでダメージを受けていた忍者女が「死」ぬ。

 ていうかこの人、本職のアサシンでもないのになんでこんなに片手剣や強盗系のスキルを使い慣れてるんだよ。

 遠距離からスナイパーの『心臓を狙う』が放たれたが、ジングウジは少し体を捻って肩で弾丸を受けた。ジングウジの装備している全身鎧が弾丸の威力を軽減してダメージはほとんどない。

「おいおい。ゴルゴーンちゃんみたく、感知範囲の外から撃つんならともかく、見えてる場所から“適切な場所に当たらないと威力を発揮しない弾丸”なんか撃ったところで余裕で反応できるだろ?」

 ジングウジは指先で自分の頭をトントンと二度叩いた。

 “もっと考えろよ”とでも言いたげに。くっそムカつくなこいつ。

 ジングウジは先輩みたく、敵の攻撃を予測できるわけじゃない。アザミみたくセンスに長けてるわけでもない。ただこいつは「やってる」のだ。誰よりも長くこのゲームを遊んでる。腐るほどボスモンスターを倒している。対人戦の経験を積んでいる。スキルや武器のシナジーを考えている。スキルビルドを考えている。——経験値の塊。

「さて、有象無象は薙ぎ払った。残ってるのはそこそこやれるんだろ」

 ミサイラントの起こした爆炎と砂煙が晴れていく。

「こいよ」

 ジングウジがくいくいと指を動かした。


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