3.無尽の荒野
俺たちの勝因は、……今回のボスが“流行から外れたジョブ”へスポットを当てたもので、俺たちのパーティにはその流行から外れたジョブが纏まっていたことかな?
例えば“狂乱狩人”。狂戦士と狩人はジョブ同士のシナジーがほぼないし、防御力の低さから敬遠されている。ヒールが手間、すぐ死ぬ、攻撃力以外に特に取り柄がない。パーティに参加しようとしたら嫌な顔をされるタイプのジョブだ。
例えば“武器召喚士”。器用貧乏で「わりとなんでもできる代わりにすべての性能が高くない」という、DDの常識である魔法職+戦士職は弱いを地で行くジョブだ。が、今回の場合は「魔法が使えるジョブの中では鎧と盾が装備できて防御力がそこそこ高い」という面がメリットとしてわりと生きたように思う。純粋な魔導士職だと多分『喉裂き』二発でノックダウンしていた。まあ釣り役でほぼ攻撃を食らうだけというただそれだけの役割だったが、一応なんかの足しにはなっただろう。(他のパーティの攻略を見ていると付与術士や賢者が喉裂き耐えることができないことが負担になっているらしかった)
アサシンや忍者、スナイパーも最近の流行からは外れているが、今回のボスに対してはわりとぴったりハマってくれた。
ちなみにDDではボス戦中に死亡してもドロップアイテムは、数は減るものの手に入る。
テレポクリスタルの前で待っていると、アザミ達がボスエリアから出てきた。
「よーちゃーん! 勝ったよぉ! うへへへへへー」
「よしよし、おつかれ」
俺たちはハイタッチする。ぱちんと小気味のいい音が鳴る。
「ほれ」
ゴルゴーンにも手を向ける。
「……」
戸惑いながら、ゴルゴーンが手を合わせた。ぱちん。
「ねえ、お疲れのところ悪いんだけど」
ボスエリアと逆方向から、黒い鎧を身に着けてヘルムで目元を隠した男性のアバターをリーダーにした一団が近づいてきた。ジングウジだ。アザミが身構える。ハチノスやハイドが怪訝な目でジングウジを見る。
「ああ、きみじゃないよ。用事があるのは、彼女だけ」
ジングウジの手がゴルゴーンの長身の女性のアバターを指さす。
「『ネセサリ』に依頼が来ててね、粘着PKを処理してくれって」
「……」
ゴルゴーンが力なく笑った。
「それにしてもPK対象にしてたイチミヤくんと一緒にいるってのは奇妙な取り合わせだね?」
俺はハチノスやクスノキさんを見た。二人は小さく頷いてくれた。
「……ゴルゴーンは、うちのパーティで引き取ります。もう粘着させないんで、それでどうですか」
俺が言う。小学生だか中学生だかのクソガキが、ちょっと道を間違えただけでそこから先の梯子を全部外してしまうなんてのは、間違っていると思った。ゴルゴーンのせいでDDをやめたやつもいるかもしれない。でも過去のことなんか、所詮過去のことだ。
「約束できるかい?」
ジングウジの目がゴルゴーンを見る。
「は、はい……」
ゴルゴーンは声を震わせて答えた。
「もうPKしません。人に迷惑かけるようなプレイは慎みます。だから、だから許してください。このゲームで、遊ばせてください」
「……」
ジングウジはしばらく口元に手をあててなにか考えていた。
それから「わかった」と言った。
——ジングウジが大剣を取って『スティンガー』のスキルを使う。突進と同時の突きがゴルゴーンの細い体を後方に吹き飛ばす。そしてゴルゴーンの背面には、お喋りの間に『サイレントスペル』で詠唱を気取らせずに用意されていた『クレイモア・マイン』の魔法が置かれていた。「地雷」と呼ばれている設置型の魔法がゴルゴーンを火炎で包む。間髪入れずに放たれた『スラッシュアッパー』による切り上げが、ゴルゴーンを空中に跳ね上げる。空中にも『エアリアル・マイン』の地雷魔法が置かれていて、風の刃がゴルゴーンを切り刻む。
ジングウジが跳躍した。
暗黒騎士特有のスキル、担ぎ上げるような構えから、「HPを消費」して大火力攻撃を繰り出す『テラブレイク』がゴルゴーンのHPを零にした。
息もつかせない連続攻撃だった。通常、このゲームでは『暗殺』などの条件を整えた特殊な例でない限り「相手を1アクションで倒す」ような真似はできない。だけどジングウジは、斬撃と魔法のヒットストップを組み合わせて、『スティンガー』のノックバックをトリガーに反撃の間を与えずにゴルゴーンをキルした。
割り込もうとしたアザミの斧が、ジングウジが跳んだあとのなにもない空間を切った。ドロップアイテムをばら撒いてゴルゴーンが「死」ぬ。そのドロップアイテムの中には、ジンを倒して獲得した特殊素材があった。ジングウジはそれを靴の底で踏み砕いた。
俺はデュアルサモンを使い『武器召喚・ミサイラント』を二体呼び出す。
十六発のミサイルが俺の周囲に浮かぶ。
ジングウジが俺を見て、大剣を背負い直した。
「このへんで勘弁しといてやるよ、って、彼?彼女?、に伝えといて」
俺はアザミが飛び掛かろうとするのを、手をあげて制する。
ジングウジのパーティメンバーは全員武器を収めている。これ以上の戦闘の意思はなさそう。というかアザミ含めて俺たちはボス戦を終えたばかりで満身創痍なのだ。
無事なのはすでに「死に戻り」していてHPが全快している俺とハイドだけ。まともにやりあうとまずいし、既に特殊アイテムを入手済みの俺とアザミと違って、ハチノスやクスノキさんは特殊素材の入手が初だ。リスクを背負ってまで戦うべきではない。
「そんな怖い顔するなよ。君はPKじゃないし、対人戦でほぼ無敵の君のミサイルを相手にするつもりはないよ。別に君がいまここで怒りに任せて俺をキルしても別にどーでもいい」
「……」
「それじゃあ、機会があったらまたね」
ジングウジと彼の率いるパーティはテレポクリスタルに触れて、街に帰っていった。
俺も『ミサイラント』を送還する。
それに少し遅れてゴルゴーンが死に戻ってきた。
「自業、自得、だよな」
ゴルゴーンが砕けて使い物にならなくなった特殊素材を見下ろして、掠れた声で呟いた。
アザミが地団太を踏んでいた。
「なにあいつムカつくムカつくムカつくぅぅ」




