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3.無尽の荒野


 ……ええと、今度は薊がキレたらしい。

 今井さんの父親がヘッドセットを買い与える条件として、学校帰って塾、休日は塾いってピアノのレッスン、家事の手伝いもちゃんとやること、門限はー、などの諸条件を持ち出して「そんなの自由時間ないじゃん! 一緒に遊べないじゃん!」と。「だいたいなんであんたら人のもの壊しといて条件とか上から目線なのそんなの絶対おかしいよ!」俺は蜂谷と別れたあと、薊を引き取りに今井家に戻った。

「おかしいよ! あの人たち絶対おかしいよ!」

 玄関でいつまでもぷんすかやっている。

「もしかして置いていった方がよかったりしない?」

 俺は今井さんに聞いてみる。

 今井さんは首を振った。

「大丈夫です。薊を見てたら一人でも戦えそうな気がしてきました」

「だったらよかった」

 俺は地団太を踏んでいる薊の手を引っ張る。

「ほら、いくぞ」

「がるるるるる」

「唸ってもダメですー」

「うぐぐぐぐぐ」

 散歩から帰りたくない犬かこいつは。

「大丈夫だから。ね? ありがと」

「ぐぅ……」

 まだ不満たっぷりの視線を今井さんに向ける。

 前言撤回、犬は薊より聞き分けがいい。

「困ったことがあったらすぐ呼んでね?」

「現在進行形でおまえの扱いに困ってるんじゃないか」

「またよーちゃんはそういうこと言う!」

 ぽかりと叩かれた。

 今井さんがくすくす笑う。

「じゃまた」

「はい、できればDDで会いましょう」

 ……ほんとに大丈夫そうだな。

 俺は強引に薊を引っ張って玄関を出た。

「よーちゃんの鬼、悪魔、冷血人間、おたんこなす。エロガッパ。しいたけ野郎。ファッションセンスなさすぎ! 芋洗坂平社員!」

ちょっと待って聞き捨てならない言葉が幾つかあるんだが。

 というか芋洗坂平社員ってどういうことだ……?

 とりあえずまあ。

「他人のご家庭の事情にあんまり首を突っ込むんじゃありません」

「がるるるるるる」

「別に助けてくれって言われたわけじゃないだろ。下手なことして藪つついた結果になってもっと悪化したら、おまえ責任取れるのか」

「あう……」

 まあ個人的にはよくやったと思ってるけどな。




 三日ほど経った。

 無尽の荒野の開催期間は一週間なので半ばが過ぎている。

 いくつかのパーティがジンの「中身」を露出させることに成功した報告を出していたが、撃破報告はまだ上がってきていない。『喉裂き』を撃たせてのカウンターはいくつかのパーティが挑戦していたが、彼らは『ハイパースラッシュ』への対処、それから『ブレイドダンス』に苦闘しているらしかった。『ハイパースラッシュ』への対処のために「スキルドレイン」持ちのハイドは幾つかのパーティから声を掛けられていたのだが、断っているそうだ。(DDでは一度クリアしたクエストにはパーティを変えても参加することができない)

「別に俺らに気を遣う必要はないぞ?」

 一応訊いてみたが「私は、これ」スキルドレインを撫でる。「が、気に入ってるからあんまりがつがつ他の特殊スキルや武器取りたいーって感じじゃないんだよね。それならみんなと遊びたいなーって」と言っていた。

 そうして。

 クスノキさんが復帰した。メモリーカードは無事でデータの救出には成功していた。

「んじゃ、手筈通りに」

 ゴルゴーンが言う。


 俺は『武器召喚・クレイゴーレム』を(以下略)→死亡。 ×10ぐらい。


 俺は『武器召喚・クレイゴーレム』を発動させる。

 だいたいの流れは前回と同じで、ハイドの『暗殺』で「スキルドレイン」を入れて『ハイパースラッシュ』を封印する。『脚を狙う』で敏捷デバフ、『メイルクラッシュ』での防御デバフを入れる。そして『暗殺』と『デストロイヤ』で削っていく。途中で『影縫いの術』や『分身の術』を駆使して凌いで、攻撃を当てる。

 というわけで、前回と変わったところからスタートする。


 俺は『武器召喚・メディカルインジェクター』を発動させる。無数の蚊が魔法円から飛び立ち、パーティメンバーに注射針の口をぶっ刺して薬液を注入する。微量のリジェネが掛かる。代償に俺が『喉裂き』を食らう。ゴーレムが剥がれて、六割あったHPが一割まで減り、すぐにクスノキさんのヒールが入って四割まで戻る。次が耐えれるかはかなりあやしい。俺の前に現れたジンに、ハイドとハチノスが『暗殺』を決める。8000ちょいのダメージ。14000まで削れたジンに向かってアザミが飛び込みと同時に斧を振るう『カタストロフィ』を繰り出す。『デストロイヤ』ではなかったのは、敵の残HPを調整するためだ。(ゴルゴーンの提案だ)

 目論見通りにジンのHPは11000で止まり、装甲に罅が入ったまま、剥がれない。

 最後の釣りで、俺は『武器召喚・ミサイラント』を呼び出す。爆風でジンを弾き飛ばして、刃が掠める程度で済んでHPがかすかに残る。クスノキさんのヒールレインによる光の雨が、ダメージを受けていたパーティメンバーのHPを小回復させる。

 『暗殺』と『デストロイヤ』がジンのHPをすべて消し飛ばした。——かに見えた。

 ジンのHPは『暗殺』が二発入った時点で、5000ぴったりで減少を止めた。

「はにゃ?」

 アザミが間抜けな声を上げたが別に『デストロイヤ』が外れたわけではない。ただ装甲が剥がれた瞬間に無敵時間が発生したのだ。前回同様の『ブレイドダンス』。「よーちゃん!」アザミが俺を呼んだ。手招き。今回アザミはたまたま攻撃を食らってなくてHPはほぼ満タン、なんで俺を呼んだ? なに考えてる? ――咄嗟に俺は『ミサイラント』をアザミに向けて放った。エリア全域攻撃を受けて俺は「死」んだ。


 こっから先は俺が直接見たわけじゃないが。




 イチミヤが『ブレイドダンス』で落ちた。全員が大ダメージを負ったが、直前のヒールとリジェネのおかげで他に死んだメンバーはいない。敵の残HPはたった5000。

 クスノキが『喉裂き』を釣りだすためにフレイムストライクを詠唱する。……が、ジンはそれを無視した。『暗殺』を狙って隙を伺っていたハイドが左腕の鎌を食らって「死」ぬ。

(ここにきて行動パターンの変化……対応できるか?)

 ゴルゴーンが冷静さを保とうとした隣で、アザミが『月下咆哮』を発動させた。『ブレイドダンス』だけでは三割を切るには少しダメージが足りなかったのを、イチミヤの『ミサイラント』で無理矢理に超過させて使用可能にしたのだ。——残HP5000なら二倍になったステの『デストロイヤ』を当てればそれだけで倒せる。ゴルゴーンが計算を働かせる。すべてのステータスが二倍になったアザミだが、それでも敏捷で圧倒的にジンに劣る。素の状態で当てるのはおそらく不可能だ。ゴルゴーンが『脚を狙う』を放つ。ジンが飛びずさって回避。装甲を脱ぎ捨てたことでさらに敏捷が向上していて、おまけに装甲状態のときにかけたデバフが解除されている。「忍者、影縫い!」ハチノスが手裏剣を投げる。それも当たらない。クスノキが放った『フレイムストライク』も、高速で動いたジンの影を焼いただけ。

 逆に超高速で接近してきたジンがアザミに襲い掛かる。突進と同時にぶった切る『ソニックレイブ』のスキル――を放つ寸前でハチノスが地面に手をついた。ジンが泥濘ぬかるみに突っ込んで、足が鈍った。『土遁の術』だ。このスキルはターゲットがジン本体ではなく、エリアを指定するもので、ジンには感知できずに回避することができなかった。アザミが『デストロイヤ』を構えるが、鈍重な斧の攻撃よりも、泥濘にハマってなお『ソニックレイブ』が速い。

「万事休したか」

 と、ゴルゴーンが呟く。

 アザミがにこりと笑った。

「『インビジブル』」

 「ブラッディレイン」を外していたから使うことのできる特殊スキル、その“二秒間の完全回避”の効果によって、ジンの右腕がアザミの体を擦り抜ける。

 『デストロイヤ』がジンの白い体に突き刺さった。斧の一撃がジンのカマキリに似た細い胴体を真ん中から切断する。二つに分かれたジンの体が、移動速度の慣性によって転がっていき、ぴたりと止まった。


 HPが零になり complete の文字が浮かぶ。


 アザミが自分の体を抱くようにして小さく震える。それから顔を上に向けた。


「いよぉぉっしゃぁぁぁぁ。大勝利ぃぃ!!!!!」




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