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3.無尽の荒野



 次の日になって、神殿の前で待ち合わせたのだがハチノスとクスノキさんが来なかった。

 ハッチはともかくクスノキさんの遅刻は珍しいなーとか、ハイドが調べた別のパーティのジンの攻略について話していると、ハチノスだけが神殿の前にやってくる。

 やけに険しい顔をして「わりい、くっすんこれなくなったわ。俺も今日は無理になった」と言った。リアルとネトゲのどっちが大事かなんか言うまでもなくて、リアルの方が絶対的に大事だ。だからそれは別にいいんだけど「なんかあったん?」と興味半分くらいで訊いてみる。


「くっすんが親にヘッドセット壊されたって」


 ハチノスがログアウトした。

 俺とアザミは顔を見合わせる。

「今日は解散にするか?」とゴルゴーン。

「そだね。どうせなら昨日の六人でクリアしたいし」

 ≪偵察班≫に依頼を出せば必要なジョブのパーティメンバーの貸し出しをしてくれる。

 イベントはじまった直後のいまは予約でいっぱいだろうが、クスノキさんやハチノスなしでの攻略はできなくはない。けれどやっぱりやるなら友達と一緒にやりたい。せっかく倒せそうな雰囲気が見えてきたところなのに、こんな中途半端な形で途切れるのは嫌だ。

 俺たちはログアウトして、薊と電話で相談して、蜂谷に「薊と一緒にそっち行っていい?」とメールを送る。「いいよ。今井もこっちにいる」と返ってくる。

 俺は自転車を飛ばして、途中で薊と合流して蜂谷の家に向かう。

 インターホンを鳴らすと蜂谷が出てきて「おう、入れ」といつもより硬い雰囲気で言う。

 蜂谷の部屋ではテーブルにパジャマ姿の今井さんが突っ伏していて、くすんくすんと鼻を啜っていた。

 薊が背中を抱いて頭を撫でる。

「来てからずっとこの調子」

「……」

 俺たちは「宿題終わった?」とかDDに関連のない雑談をしながら、今井さんが落ち着くのを待った。そのうち今井さんが顔を上げた。蜂谷の差し出したハンカチをとって目元を拭い、ちーん、洟をかむ。

「御見苦しいところをお見せしました」

「大丈夫?」

「あんまり大丈夫じゃないです」

「ヘッドセット壊されたって?」

「はい。たかだか公立高校で上がいるなんてたるんでる。学業に専念しろとのことでした」

「え、今井さんって、期末の成績二位とかそんなだよな?」

 二位で怒られるって俺にはちょっと考えられない世界だった。

 薊の成績はクラス内で下から数えて1~2番を彷徨っているし、俺も半分より下だ。

 ちなみに先輩は常に十位以内。「は? 授業聞いてたら全部わかるでしょ」とのこと。提出物等ほとんど出してないし、例会の次の月曜日とかさぼりまくってて出席日数あやういくせに。滅びろ天才。

 今井さんが小さく震えて洟を啜った。それから「わだし、いいこにしてたのにぃぃ」と言って、もう一度泣き崩れた。

「多分ただの口実なんだろ」

 蜂谷が露骨に嫌悪感を表に出した。

「いるんだよな、時々。人が楽しそーにしてるのが赦せないやつって」

 吐き捨てるように言う。

 蜂谷の言いざまは随分乱暴だとは思ったが、娘の大切なものをわざわざぶち壊す親というのは俺にはちょっと想像がつかない。今井さんはちゃんと勉強と娯楽を両立させているのだから、文句を言われる筋合いはないんじゃないかと思ってしまう。……むしろ薊の親はいい加減に薊のヘッドセットをどっかに隠した方がいいとは思うけど。あいつゲーム依存症の一歩手前なんじゃねーか?

「よーし、今から今井の家いこーぜー」

「え、まじ? 事態ややこしくするだけじゃね?」

「久々にキレちまったよ」

 蜂谷は学習机の引き出しを開けて、なんかの紙を掴んで鞄に突っ込んだ。

「うし、行こうぜ」



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