3.無尽の荒野
俺は『武器召喚・クレイゴーレム』を使おうとする。ジンが俺の目の前に突然現れる。地面蹴って移動してるから瞬間移動ってわけではないのだが、ほとんどワープしてきたように見える。俺の喉に鎌の一撃を食らってHPが半分削れる。ただ沈黙は護符が防いでくれて『ゴーレム』が召喚されて、パーティに土の鎧を付与する。透かさずクスノキさんがヒールを入れてくれて、半分を割っていたHPが六割程度まで回復する。ハイドが背面からスキルドレインを差し込ん、む、直前でジンが逃げた。
「うえ?」
俺たちは『ハイパースラッシュ』で蹂躙されて全滅した。
「ごめん。タイミングミスった。もう一回」
俺は『武器召喚・クレイゴーレム』を (以下略)
クスノキさんがヒールをかけた。直後、二度目のカウンターによってクスノキさんがぶった切られた。ヒーラーが大ダメージを負ったことで立て直せずに俺たちは全滅した。
「すみません、タイミングが遅かったです……」
俺は(以下略)
「悪い、照準がズレた」
俺 (以下略)
「すまん、調子乗った」
『ウェポンバッシュ』を差し込めないかと踏み込んだらその瞬間に反撃を食らって死んだ。
俺が死んだらカウンターハメが成立しなくなって崩れて全滅した。
………………
というわけで、その後数回死んでから、本番。
俺は『武器召喚・クレイゴーレム』を使おうとする。ジンが俺の目の前に突然現れる。地面蹴って移動してるから瞬間移動ってわけではないのだが、ほとんどワープしてきたように見える。俺の喉に鎌の一撃を食らってHPが半分削れる。ただ沈黙は護符が防いでくれて『ゴーレム』が召喚されて、パーティに土の鎧を付与する。透かさずクスノキさんがヒールを入れてくれて、半分を割っていた俺のHPが六割程度まで回復する。ハイドが背面からスキルドレインを差し込んだ。スキルドレインによって『ハイパースラッシュ』が封印された。『暗殺』が少しだけダメージを与える。ほんっとに硬いな。
アザミが斧を『フルスイング』した。ジンが飛びずさって回避するがそれは織り込み済み。跳んだ先にゴルゴーンが『脚を狙う』を当てる。敏捷デバフによってジンが若干だけ速度を落とす。「目にも映らぬ速さ」から「目にもとまらぬ速さ」になったと言ったところ。
攻撃際だけでなく回避際にも若干の隙があるのは死にながらゴルゴーンが見つけ出した。
ジンが『ソニックレイヴ』のスキルを発動する。ダッシュと同時に両手の鎌を大きく振って、アザミの胴体をぶった切る。「っ……」アザミに張り付いていた分の『ゴーレム』のHPが零になり、アザミ自身のHPが8000ぐらい吹っ飛んだ。きついけど『ハイパースラッシュ』よりはまだましか? ジンの無機質な目がアザミを見る。アザミをターゲットにして、もう一撃を繰り出す寸前に俺は『武器召喚・ミサイラント』を使う。ジンのターゲットが俺に向いて鎌を振りかざす。微かに下がった敏捷が『ミサイラント』を間に合わせた。爆風がほんの少しだけ距離を稼いで、『喉裂き』が掠めるだけで済む。六割あった俺のHPが三割と少し残る。次もギリギリ耐えれるか……? クスノキさんのヒールがアザミのHPを回復させる。アザミが斧を振り上げた。
『メイルクラッシュ』が外骨格に罅を入れる。防御力デバフが入る。
「っし!」
間髪入れずにハチノスが『暗殺』を入れる。30000少しのジンのHPが4000近く削れた。ようやっとHPがまともに削れた。のだがハチノスが反撃を食らう。「いってぇ」別にリアルで痛みを感じるわけじゃないのだがぼやきたくなる気持ちはわかる。ダメージデカすぎる。イカれてやがる。
ハイドが飛び掛かるのを、ジンが鎌の一閃で迎撃する。ハイドの姿が消える。『分身の術』の陽動は有効らしい。ハチノスが『影縫いの術』を使う。投擲された手裏剣がジンの影に突き刺さる。鎌を振るおうとしたジンが足を縺れさせる。『影縫いの術』は対象に二秒間の移動制限が掛かるスキルだ。アザミが全身を捩じって力を溜めて大きく斧を振るう。両手斧の最強スキル、『デストロイヤ』が突き来刺さり、ジンのHPを5000以上削る。相当な回数死んだが、ここにきてはじめて10000以上のHPを削ることが出来た。外骨格の罅が大きくなる。
移動制限から解き放たれたジンの目がハチノスに向く。
俺はさきほど呼び出していた『ミサイラント』を全弾発射する。ジンの足下を狙う。防御力が高すぎて『ミサイラント』ではデバフが掛かっていてなおダメージを与えることができないが、ミサイルの爆撃が足元を揺らして、爆風がわずかにジンの動きをけん制する。その間に『分身の術』を残してハチノスが下がる。鎌の一撃が分身を叩き切る。
『分身の術』の囮が効くことはこれまでにも試していたのだが、三回目からは『分身の術』を無視するようになった。ボスのAIがこちらの行動を学習するようになっているのだ。
「いきます」
「りょ」
クスノキさんがヒールを使う。阻止しようとジンが喉裂きのために現れる。クスノキさんがぶった切られる。その間に俺は『武器召喚・メディカルインジェクター』を召喚する。「これきめえから嫌いなんだよ」とハチノスが喚くが、我慢しろ。魔法円から飛び出した無数の蚊がダメージを受けたパーティメンバーの元へ飛ぶ。薬液の入った注射器の口をぶっ刺して注入して、HPが微回復していく。『インジェクター』は微量だが継続回復効果のある召喚獣だ。
喉裂きの間にアザミが斧を振り上げる。ハチノスとハイドが『暗殺』を入れる。半拍遅れた斧がジンの頭部を叩き割る。合計で12000ちょいのダメージ。ここで死ななきゃ、次の釣りで仕留めれる――外骨格の罅割れが大きくなった。
ばきばき、ばりん。
黒い装甲が剥がれた。光沢のある白い“中身”が露出する。
「は?」
形態変化。条件はHP10000を切ること、あたりだろうか?
『ブレイドダンス』
大鎌を振り回して、ジンの体が回転する。軸がどんどんブレていき、回転の幅が広がって、刃の嵐がエリア全体を飲み込んだ。嵐に巻き込まれて、HPの削れていた俺とクスノキさんとハチノスとアザミが死んだ。
ゴルゴーンとハイドがしばらくして死に戻ってくる。
「はぁ……」
「いやぁ、わかってたけど簡単じゃねーな」
俺が溜め息を吐き、ハチノスがぼりぼりと頭を掻く。
俺たちは意気消沈する。
いける、と思ったのだ。ゴルゴーンの立てた「カウンターハメ」の戦略は結構ハマっていたし、デバフもうまく入って、戦術が回転しているように見えた。けど最後の最後で範囲攻撃にひっくり返された。
「ちょっと疲れましたね」
クスノキさんが言う。
今日のところはこんなもんだろう。収穫はあった、と思う。あの全体攻撃を凌げれば、次はおそらく勝てる。……まあそこにいくまでがシビアでまた何度も死ぬことになるんだろうが。
アザミだけがまだ物足りなそうにしている。まあこいつに付き合ってたら「飯と風呂と寝るとき以外ゲーム」になるから、ほっとくのが吉だ。
アザミがもう一回と言い出す前に、俺が「今日のところは解散にするか」と言った。「そーだなー。じゃまた明日にでも」、「うーん、うまくいかないねー」ハチノス達がログアウトして、俺とアザミとゴルゴーンだけが残る。
「おまえはログアウトしないのか?」
ゴルゴーンが訊いてくる。
「あー、アザミとちょっと喋ろうかなって」
「そっか、邪魔しちゃ悪いな」
「混ざりたいんなら混ざれよ」
「だよ?」
「……」
ゴルゴーンは戻るかどうか迷ってるようだったので、「てかおまえ、頭いいのな」と話しかけて輪の中に巻き込む。
「俺らだけだったらもっとがむしゃらに挑んで、あそこまでいくのに死亡回数があと一桁増えてたよ」
なぁ? とアザミに振ると、アザミがぶんぶん頭を縦に振る。こいつは挑んでは死ぬゾンビアタックが別に嫌いじゃないからそれでもいいんだろうけど、付き合わされた方はたまったもんじゃない。
はっきり言って、俺が『双頭の究極龍』に勝てたのは完全に先輩のおかげだ。あの人が250万あるHPを削り切ることのできるだけのSP・MP配分を考えて、パーティを構築して、俺はそのおこぼれに預かった。先輩抜きの、『ミサイラント』のない俺のプレイヤーとしての技量は全然まったく低い。勘に優れたアザミや『ジャストガード』を完璧に操るバンドウさんの足下にも及ばない。ハチノスみたいに変態スキルの数々をうまく操ることもできない。
ゴルゴーンは眉をひそめて「嫌味かよ」とぼやいた。
「褒めてんだよ。素直に受け取っとけ」
「……」
「でも最後のあの『ブレイドダンス』、どう凌ぐ?」
「あー、無理じゃねー……」
「……順番を入れ替えよう」
「んん?」
「二度目の召喚で『ミサイラント』を呼んだけど、あそこで『インジェクター』を呼ぼう。リジェネを受けられる時間が長くなるからもう少し余裕が出るはずだ。それから直前にクスノキさんに個別ヒールじゃなくて全体ヒールを入れて貰えば、」
「全体ヒールの直前に『喉裂き』を食らう俺以外は生き残れる、か」
ゴルゴーンが頷く。
俺とアザミは感心する。
「よくそんなぽんぽん改善案出てくるもんだなぁ」
作戦の立案とかそっち系は、俺たちはからきしだ。
「……パーティ戦闘も結構楽しいな」
ゴルゴーンが笑った。




