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3.無尽の荒野



 ……………

 テレポクリスタルの前で待っていると、ほどなくしてクスノキさんとゴルゴーンも死んで、クリスタルの元まで転移してきた。

「わかってたけど、DDのボスえぐいな」

 俺が溢すとハチノスとクスノキさんが力なく頷く。アザミだけがわくわくが止まらない顔をしていて、ゴルゴーンは思案顔。

「えーと、なにか対策案ある人―……」

 クスノキさんが小さく手をあげる。視線を泳がせて「とりあえず私はいらないんじゃないでしょうか」と言う。

 あー……、速攻で使ってきたのが『喉裂き』での沈黙付与だもんな。

 同じ理由で俺も戦力外かもしれない。

「つーかあの高速移動なんとかしないとどーしようもないよな。クイーン呼んでくるか?」

「先輩、DDやめるってよ」

「まじか」

 確かに先輩の『エリア・フォース・ブリザード』による足場の悪化での敏捷低下と『グラビティ・エンチャント』によるデバフはあのボスモンスターに有効かもしれない。が、先輩はやめる宣言をしたばかり。呼ぶのは非常識だし、呼んでもこないだろう。ていうか俺が呼びたくない。

「もっかい! もっかい行こうよ!」

「せめて多少対策たてよーぜ。このままじゃ無駄死に重ねるだけだろ」

「うー……」

「問題点をまとめよう」

 ゴルゴーンが一差し指を立てた。

「一つ。喉裂きでの沈黙付与。

 二つ。敏捷が高すぎて攻撃が当たらない」

 三つ。攻撃力が高すぎて攻撃を食らえばほぼ即死する。

 四つ。防御力が高すぎてまともに攻撃が通らない」

「……」

「……」

「……」

 俺たちは一斉にゴルゴーンを見た。

「な、なんだよ」

 ゴルゴーンが少し怯えた声を出す。

「いや、ちゃんとしてるなぁと思って」

「……話を進めるぞ」

 俺たちは頷いてゴルゴーンに続きを促す。

「一つ目。喉裂きでの沈黙付与」

「沈黙付与でかつあの攻撃力なら私、戦力外ですよね」

「いいや、いまのところ戦力外はそっちの半裸だ」

「はにゃ?」

 アザミが自分を指さす。

「ブラッディレインの定数ダメージと僕の『心臓を狙う』が通らなかった。つまりあいつは?」

「ブラッディレインが通る生物範疇ではない。それから心臓がない。見た目も相まって、金属生命体系のモンスターでしょうね」

 ゴルゴーンの問いにクスノキさんが答える。

「にゃるほど。じゃあ、こうかな?」

 アザミがブラッディレインをアイテムボックスに収めて、クリスタルに触れて倉庫と接続する。狂戦士時代に使っていた両手斧を取り出す。ハチノスの通常攻撃が効かなかったあたり、アルテミス・アローでもダメージが通らないことを見越してより攻撃力の高い近接武器を選ぶ。

「喉裂きが飛んできたタイミングを考えよう。一度目は?」

「俺の『ミサイラント』の発動直前」

「二度目は?」

「私がヒールを発動しようとしたとき」

「狙い済ましたようなタイミングだよな。これから導き出される解答は?」

 アザミが頭の上にクエスチョンマークを飛ばす。

「魔法詠唱に対するカウンターで『喉裂き』を飛ばす?」

 クスノキさんが自信なさげに言う。

「おそらくだけど、間違ってないと思うよ。二つ目もこれと関連させて解決できると思う。あいつに攻撃があたったのは」

 ……ああ、なるほどね。

『スプリットショット』もハチノスの通常攻撃も、『心臓を狙う』も当たったのは。

「『喉裂き』の直後だな」

「そう。攻撃モーション中は回避ができない、基本だよね。そしてあいつはこちらの特定の行動に対する“カウンターで喉裂きを発動する”んだ。逆にいえば、ターゲットもタイミングもこっちでコントロールできる。というわけで、ええと、クスノキさん。沈黙対策はいるけれど、魔法職はこの戦闘に必須だと思うよ。そもそもあんな馬鹿火力を前にしてヒーラー役なしで纏めるのは無理があると思う」

「なるほど、納得しました」

 ちょっと感心した。

 スナイパーという元々一歩引いた立ち位置だからだろうか?

 ゴルゴーンは初見のボスのことがよく見えていた。

 ……先輩がよくこんな感じでボスモンスターの行動を分析してたな。

「四つ目は、狂戦士の両手斧と強盗系の『暗殺』なら解決できるんじゃないかな」

 ターゲットが魔法職に固定化されるんなら、不意打ちでの『暗殺』が容易に通る。

 攻撃力が高い代わりに攻撃モーションが大きくて硬直も大きい、隙だらけの斧も当てれるだろう。

「んじゃ、三つ目は?」

「現状のパーティでは対処不可。出直そう」

 ゴルゴーンはあっさり結論を出した。

「やっほー。遅れた。まだやってる?」

 たったったっ、と三つ目への解答(スキルドレイン)が駆け寄ってきた。



 ハイドは『影走り』を使ってモンスターを全部避けてきたらしい。アサシンはその手の“ザコモンスターに見つからない”系統のスキルが充実している。ハイドが左手でSNSのページを開いて≪偵察班≫の出している情報をざっくり眺める。すると新しく、あのジンというボスモンスターが「ヘイトコントロールの無効」と「『庇う』無視」の特性を持っていることがわかった。

 ≪偵察班≫は、最近ボス戦で重宝されている鈍重な聖騎士が敵の攻撃をあてることができず、当たっても高防御力で無力化される、タンクやアタッカーとしてずっと重宝されている『聖騎士』を潰しにきている。逆に冷遇気味の『アサシン』や『バーサーカー』のような火力特化ジョブにスポットを当てたタイプのボスなのではないか? という仮説を立てていた。『ハイパースラッシュ』は聖騎士が受けても即死したらしい。

 聖騎士は攻防共に安定したジョブだが、強盗系の『暗殺』のような大火力の攻撃を持たない。騎士剣や両手槍の攻撃力は高いが、単純な攻撃力では最強の狂戦士の両手斧や、特殊な条件下で大ダメージを与える『暗殺』、『心臓を狙う』には大きく劣る。(狂戦士はまともな防具を装備できないデメリットがひどすぎてそれくらいのアドバンテージがないとやってられない)

 俺とクスノキさんはアクセサリーを付け替えて「沈黙無効化の護符」を身に着ける。

 この手の状態異常対策用のアクセサリーは汎用性が低いからあまり好まれていないが、特定のボスに対してはやはり有効なものだ。


 ゴルゴーンが提案したのは、いわゆる「カウンターハメ」だった。


「では、改めて戦略の確認をします」

 ゴルゴーンが言う。

「はい、先生!」

 アザミが正座してゴルゴーンを見上げる。ハチノスとクスノキさんがアザミの隣に座る。俺とハイドが苦笑する。ゴルゴーンがやりにくそうにこっちを見て (こいつらなんとかして)と訴えてくる。

「先生、初手はどうするんですか」

 俺は悪ノリする。

 嘆息してゴルゴーンが「イチミヤの『武器召喚・クレイゴーレム』でパーティの防御力を上げます」と言う。

 『武器召喚・クレイゴーレム』は土くれで出来た泥の人形を召喚して防具の上に纏う。人形はダメージのいくらかを肩代わりしてくれる。性質としてはクイーンの『アイスシールド』に似ている。まあ召喚獣は「死」んでしまえば一定時間同じものを呼び出せなくなるので、何度もシールドを貼りなおせるわけじゃないからクイーンのものほど便利ではない。

 一回きりの身代わり効果があるといった感じだ。

「すると、ジンはイチミヤに喉裂きをあてようと接近してきます。イチミヤにはとりあえず一発受けてもらいましょう。そこへ、ハイドさんのスキルドレインで封印効果を当てます。封印対象は『ハイパースラッシュ』。ほぼほぼ即死攻撃なのであれを止めないことには話になりません」

「先生。スキルドレイン。敵のレベル次第で失敗確率あるよ」

 ハイドが言う。

「敵には“マルチターゲット”がありません。そしてカウンター中はイチミヤをターゲットにしています」

「なるほど。『暗殺』で当てろ、か。理解」

 『暗殺』は確定クリティカルヒットを出せて、この手の装備やスキルに付与されている状態異常はクリティカルヒット時には付与確率が大幅に上昇する性質がある。

 そもそもカースに対して完全耐性を持っていたらお手上げだが、その時はまた別の手を考えよう。

「先生、『喉裂き』を封印するのはなしなんですか?」

 アザミが手を上げた。

「『ゴーレム』以外の防御力バフや強力な攻撃力デバフのあるパーティならそれもありだったかもしれないけど、現状のパーティでは『喉裂き』は撃たせて反撃する方が有効だと思います。『ハイパースラッシュ』の方が危険度が高いです」

「わかりました!」

「で、イチミヤへの『喉裂き』中にクスノキさんはヒールをイチミヤにあてる」

「同時に二人へのカウンターはできない、ということですね」

 クスノキさんが言い、ゴルゴーンが頷く。

「『ハイパースラッシュ』を封印したら、もう一度イチミヤを囮にして」

 ……今回俺の役回り散々じゃね?

 まあ一回目戦った感じ、半分をちょっと超過する感じだったから二撃目は『ゴーレム』とヒール込みなら耐えれるかな。盾でうまくガードできれば三撃目まで持つかもしれない。

「アザミさんの『メイルクラッシュ』と僕の『脚を狙う』、あるいはハチノスさんの『土遁の術』を当てることを目指します。このときにクスノキさんは他のメンバーがダメージを受けていたらヒールを入れてください」

 ゴルゴーンがアザミを見る。

 アザミはふんふんと頷く。

「防御力デバフと敏捷デバフだね」

 このタイミングで俺にはヒールいれないのね。

 ダメージが大きいから入れても無駄という判断だろう。

 まあ正しいんだろうな。

「その二つが通ればあとは、魔法職二人を囮にして強盗職二人の『暗殺』と、狂戦士の『デストロイヤ (斧の大火力スキルだ) 』でダメージを稼いでいく。デバフが切れたら、重要度の低いイチミヤを生け贄にして最初からやり直し。なにか質問は?」

「ないでーす」

「やってみましょう」

「あ、俺、質問」

 手をあげた。

「なんだよ」

 ゴルゴーンが眉間に皺を寄せて俺を睨む。

「なんでアザミさん、ハイドさん、クスノキさん、ハチノスさんで、俺だけ呼び捨て?」

「さ、行きましょう」

 俺の疑問は華麗にスルーされ、ゴルゴーン達はもう一度、最奥のボスエリアに踏み込んでいく。



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