3.無尽の荒野
タイトルマッチから一週間が経った。
「イベントが、はじまるよ!!!!!!」
ヘッドセットの中にアザミの声が響き渡る。鼓膜が破れるかと思った。
「おー……」
アザミのそれと対照的に俺のテンションは低い。だって俺は、もう『武器召喚・ミサイラント』を手にしているのだ。以前少し話したがDDでは「特殊スキル」や「特殊武器」の類は一つしか装備できない。いまさらイベントに登場する別のボスモンスターを狩ったところで、俺が『ミサイラント』からスキルを変更するとは思えなかった。『双頭の究極龍』は格の高いボスモンスターでドロップしたスキルは他のプレイヤーから「チート」、「反則」と言われるようなそれなりの性能のものだった。
まあ『ミサイラント』は“短距離走”用のスキルだ。1キロ、2キロを走るよりも100メートルを一気に走るために、MPをめちゃくちゃに消費して大火力を叩き出す。長期戦に向いていない。DDでは召喚士というジョブ自体がMP消費が多くてやや短期戦向きのジョブなので仕方ないかなと思っているが、他の特殊スキルや特殊武器で長期戦に対応できるようになれば芸は広がるかもしれない。
でもなー……
強いんだよな、DDのボス。
ほとんどのプレイヤーが倒せていないのだ。勿論ボスによってばらつきはあるが、クリア率1%未満というのが現状だ。当然、倒そうと思えば勝てる構成を探りながら死んでは挑み、死んで挑みを繰り返す「ゾンビアタック」が必要になる。
そこまでして『ミサイラント』以外のスキルや装備が欲しいか? と聞かれれば、俺にとってはかなり疑問符なのだ。けれど、アザミにとってはそうではない。こいつは脳筋だから「つよいやつがいるー? 倒すー」、「イベントはじまるー、やるー」なのだ。ときどきアザミに成れたら毎日楽しそうだなぁと思う。
「パーティは?」
「ハチくんとクーちゃんにはもう声かけたよ。来るって。がーくんは遅れるからこっちが先に6人埋まりそうならパスで、別の人たちといくみたい。それからレンちょんは返信なし。バンちゃんは仕事忙しくて今回やれなさそうって言ってた」
無駄に顔が広いアザミがいろんなプレイヤーの名前を出す。
「よーちゃんは誰か誘いたい人いないの?」
「あー、じゃあ」
二人、思いついた。
その片方のハイドからはすぐに返信がきて「お誘いありがと。30分ほど遅れるので席あけておいてくれると嬉しい」とのこと。アザミに確認を取ると「がーくんが向こうで本決まりみたいだからいーよ」とのこと。ハイドに「おk、待ってる」と送る。
もう一人はなにも言ってこない、まだメールを確認していないんだろう、と思ってたら、直接ログインしてきた。
「……」
ヒールを履いてスーツを着た、ビジネスウーマンって印象の長身の女性キャラが睨むように俺を見ている。背負ったライフルの銃身がちょっとだけ見えている。ゴルゴーンだ。「おっすおっす」と俺は雑に挨拶をする。
「バカじゃないの、おまえ」
「なんでもいーじゃん。来たってことは行くんだろ? 一緒にやろーぜ」
「……」
ゴルゴーンは視線を彷徨わせて困ってはいたがログアウトするわけでも逃げるわけでもなかった。
「ツンデレかよ」
パーティ登録を済ませる。
「やほー」とアザミ。
「……」
ゴルゴーンが無言でアザミを見つめる。
アザミは反応の薄いゴルゴーンを興味津々に覗き込みながらキャラクターや装備の仔細を眺める。ぐるっとゴルゴーンの周りを一周する。「むう。なかなかのコーディネート」狂戦士系でまともな防具を装備できないアザミが唇に指を当てて羨ましそうにしている。好きで裸族やってるわけじゃないんだな、こいつ。
「よーちゃん、この子、人見知り?」
「そーなんだ。子猫でも飼い始めたと思ってかわいがってやってくれ」
「……殺すぞ」
「やってみろよ」
残念だったな、殴りあいでは俺の方がつえーんだよ。
遠距離特化の自分のジョブを恨むんだな!
ハチノスとクスノキさんもやってくる
「おう。今回五人パーティ?」
「や、ハイドが遅れてくるって」
「じゃあ、どうする? ハイドついでに≪偵察班≫の情報待つか?」
「えー、いこうよー! 早くボス戦やろーよー」
アザミがごねる。
ちなみに≪偵察班≫とはギルド、≪DD攻略偵察班≫のことだ。かなり大人数で攻略サイトを運営しているギルドで、自分たちで挑んで得たボス、モンスター、マップなどの各種攻略情報を広く共有している。ボス攻略においてDDでも指折りのギルドでこれまでに登場したボスモンスターの八割方撃破に成功している。……逆に言えば豊富な人員を要する彼らですら「二割は倒せていない」のだが。
ちなみに『双頭の究極龍』は彼らが倒せなかった方に入る。
ツイッターなどのSNSでの簡易報告では、推測混じりのおおざっぱな情報ならばイベント開始から一時間とかで出たりする。DDのプレイヤーならばだいたいの人間が≪偵察班≫のお世話になっている。
「待ってるだけも暇だし、アイテムとか金とかあんまり持たずに行ってみるか」
俺が言い、ゴルゴーンを除いた全員が頷いた。
「おまえら、僕に文句とかないの?」
ゴルゴーンがぼそりと言う。
「悶着があったのはイッチで、イッチはおまえを許したんだろ? じゃあ俺らはいーよ」
ハチノスがあっさり答える。「PKが禁止されてるゲームじゃねーしな」付け足す。クスノキさんが口パクでなにか言っていて、クスノキさんは別の見解を持っているみたいだけど、それでパーティの意見を崩そうとはしていないみたいだ。俺はあとでクスノキさんに謝っておこうと思う。
ゴルゴーンがそれ以上なにも言わなかったので、俺たちはイベントのマップに近い場所への転移が可能なテレポクリスタル (いわゆるワープポイントだ。)に向けて歩き出した。ゴルゴーンは一番後ろを少し距離をとってついてくる。なにか思うところがあるんだろうと空気を読んで俺たちは話しかけなかったけど、そういう空気を一切読まないアザミが新しいメンバーに興味津々で「こんにちはー。アザミでーす。よろしくー」とか「狩人職同士仲良くしよー」とか「手動撃ちのコツ教えてねー!」とか、ろくに返事もこないのにずっと話しかけていた。
おい、やめろ。ゴルゴーンがビビってるだろうが。




