2.ヒエラルキー・クイーン
「撃った」
ハチノスの声で俺はバックラーで心臓を守る。腕に衝撃。
スナイパーの銃による攻撃は距離が遠ければ威力が減じる。砦に近づいてきたので、防御しても300前後のダメージが入るようになってきた。(クリティカルヒット時は距離補正が無視されるので『心臓を狙う』はどれだけ距離があっても大ダメージになる)
「撃った」
少ししてもう一発。
同じように心臓を守ると、左腕にしびれが走った。
「『腕を狙う』か」
狙った場所に着弾すれば「局部麻痺」を引き起こせるスキルだ。
左手が上がらなくなる。
「やっこさん、砦から退避しようとしてるぜ? どーする?」
「大丈夫、想定内」
俺は『武器召喚・ファントムウイング』を使うと、黒いメタリックな鳥が召喚される。この召喚獣は攻撃力は低いが移動速度に優れていて敵を自動攻撃する。ハチノスがゴルゴーンの姿を見ている現状ならば補足させて攻撃させることはできるだろうし、対処するならば足は止まる。その間に追いつける。
『ファントム』を放って少しすると、銃弾に撃ち抜かれてHPがゼロになり消滅したものの、距離は十分に詰まった。
「ハッチ。指示はもういいよ。アザミたちの援護いってくれ」
サンキューと付け加える。
「りょ」
短く言い、ハチノスの声が途絶えた。
ゴルゴーンのキャラクターはヒールを履いた長の高い女性だった。スーツに似た体の線に沿った灰色の服を着ている。銃身の長いライフルを装備から外しアイテムボックスに収納する。
「あいつらつかえね」
高かったが男の声だった。声変わり前の少年という印象がある。
多分小学生の高学年から、中学一年くらいの年齢。
俺はゴルゴーンの手前で立ち止まる。
「ちょっと聞きたいんだけどさ」
「なんだよ」
「なんでPKなんかやってるの?」
「有名な高レベルプレイヤーが僕の前に這いつくばってるのをみるのが好きだから」
「ああね」
納得した。ボスモンスターを倒すカタルシスや闘技場で強い個人に打ち勝つ喜びを、こいつはPKに見い出したわけか。DDのボス戦の難易度は高い。運営は悪乗りしているのか、ガンガン難易度を釣り上げている。挑むことのできるジョブは限られていて、誰もが倒せるわけじゃないのが現状だ。そして闘技場の上位はクイーンやアザミ、バンドウさんや俺のような、ボス戦をクリアした人間が特殊武器や特殊スキルを持ち込んで無双している現状がある。ある意味、平等ではない。ひどく理不尽だ。
ゴルゴーンのパーティはアサシンやエレメンタルマスターと言った火力ぶっぱ編成の“旧テンプレ”構成のジョブだった。旬が過ぎてジョブをリセットする勇気がなくて、でもいまのジョブで貫く気力もなくて、流行に取り残されてしまった人々が見出した場所が、PKという土俵だったのだろう。
PK戦でならば、スナイパーの彼は一方的に有利な状況で戦うことができる。
特殊武器やスキルの差を人数差でごり押しすることができる。
俺たちに勝つことのできる場所が、彼にとってはPKだったのだ。
「……」
俺だって「無限火薬庫」を手に入れる前は彼の側だった。
高レベルプレイヤーの性格がいいとは限らない。(クイーンを筆頭にして)闘技場の上位には中で暴言を吐くような奴らがかなり多かった。「嫌ならやめろ」という方針のDDの運営はそれを取り締まらない。めんどくさいことや理不尽なことはたまに起こったし、なにかが違っていたら俺だってPKになって憂さを晴らしていたかもしれない。
俺とこいつの違いは、俺には薊や先輩がいた。
こいつには「つかえね」と切り捨てることのできる仲間しかいなかった。
それだけのことなんだろう。
薄くため息をつく。
……睨み合っててもしょうがないし、いくか。
俺は一歩前に踏み出した。こちらの間合いに、そして相手の間合いに踏み込む。『武器召喚・ミサイラント』を使う。同時にゴルゴーンがアイテムボックスから「ショットガン」系統の武器を引きずり出して、左右両方の手に装備した。片手武器を二つ装備できる戦士のスキル、『二刀流』をショットガンに転用してるのは初めてみた。
銃声と同時に、ミサイルが空中で爆風をばら撒いて爆散する。
ライフル装備のスナイパーは近づかれると脆い。そのため接近戦への対応策として考案されているのがこのショットガンへの装備切り換え。DDでは基本的に敵にターゲットされている最中での装備切り換えはできないものの、元々の装備を外してさえいれば新しい武器を「拾って」装備することは可能だ。
弾幕が『ミサイラント』を拒む。
軌道を設定して左方から迂回させたミサイルをショットガンが正確に迎撃する。敵の正面からもミサイルを放ちながら、俺は右側から接近。さらにデュアルサモンを使い、十六発のミサイルを召喚する。
「っ……」
「いい線いってるけど、『二刀流』程度で召喚士の手数は上回れねーよ」
迎撃に手を割かれてHPを削られながら、俺の接近を許す。片方を迎撃に向けながらも片方のショットガンを俺に向ける。間合いが近いために、散弾の判定が散る前に剣の一撃で弾丸を払うことができた。「ちっ」逆側のショットガンも俺に向けようとするが、時間差をつけたミサイラントが殺到する。俺はゴルゴーンの体を盾にして『爆風』の影響を逃れる。俺は「ウェポンバッシュ」のスキルを使い、ゴルゴーンの右手を打つ。ショットガンが手から落ちる。蹴り飛ばして、拾えないようにする。もう片方の手を掴んで射線を明後日の方へ向ける。喉に剣を当てる。
まあ接近されたスナイパーってのはこんなもんだ。
「僕をキルしてもどうにもならないぞ。僕はこれからもずっとおまえを狙い続ける」
「……俺とおまえって別に接点ないよな? それなのに、そんなに憎めるもんなのか」
「憎いよ。おまえは知らないんだ。自分がどれだけ恵まれてるか。闘技場の上位と仲良しで自分も特殊スキル持ちで上位で、僕らがどんな目でおまえのことを見てるか」
「ふうん」
傍からみればそうなのかもしれない。
ネットでぼこぼこだし。戦闘スタイルは『ミサイラント』一本。
一位のアザミですら削り倒せる特殊スキルでの無双。
「じゃあおまえもそうなりゃいいんじゃねーの?」
俺は喉にあてた剣を離して指先をゴルゴーンの額にあてた。
フレンド申請を送る。
「は?」
「どう決着させようか考えてたんだけどさ、クイーンたちはおまえのことを見つけ次第キルすればいいとか物騒なこと言ってるけど。それって泥沼だろ? 実際諦めさせるってなかなかできねーだろうなと思うし。で、一番手っ取り早い方法って、おまえと友達になることかなって」
「バカだろおまえ、そんなことで」
「ていうか、おまえとはパーティ組んでみたいなと思ったよ」
「……」
「タゲ取らずに撃つやつ、“手動撃ち”だっけ。相当練習したんだろ? アザミが「できたらかっこいい!」って言い出して同じことやろうとして挫折してたよ。基本当たらないらしいじゃん? でもおまえほとんど百発百中させてたろ。単純にすげーと思ったよ」
俺たちがボスを狩るのに戦略を立てるように。
闘技場で勝つために敵の動きを研究するように。
こいつは「プレイヤーを狩る」ためにがんばったのだ。
動機が負の方向でも技術そのものに善し悪しはない。
「……だからなんだよ」
「いや、だからさぁ、おまえがモンスターに『腕を狙う』決めてから俺らが戦闘入ればめちゃくちゃ楽じゃね? って」
「はっ。そしたらモンスターの次はおまえの背中撃ってやるよ」
「いーよ。それなら俺は『ミサイラント』でおまえをぼこぼこにして、あとは喧嘩だ」
ゴルゴーンはくしゃりと顔をゆがめて、次の瞬間に『自殺』した。『自殺』は戦闘中などのログアウトできないときに強制で神殿に戻る手段。HPがゼロになってドロップアイテムをぶちまけて、ゴルゴーンが消滅する。
装備から外れていたショットガンが落ちていて、あとで届けてやろうかなと思い、俺はそれを拾い上げた。




