2.ヒエラルキー・クイーン
「ハチ。北東の砦跡と西の廃墟に透遁の術」
先輩が命令調でメッセを飛ばす。
「へ? 北の塔じゃなくて?」
「さっさとしろ」
「へいへーい」
スナイパーほどではないが、忍者には視野を広げる特殊効果を持つ術があって、さらにその術には「障害物を貫通して敵の姿を見ることができる」効果を付与されている。直接戦闘に関係がないような変な効果はだいたい忍者が持っている。忍者きたない。さすが忍者きたない。
少しして「うわ。まじでいたよ。北東、砦のオブジェクトの内部にスナイパー発見。なんでわかるの?」とハチノス。
「平原でのキルは二回目なんでしょ? 一回目に一番使いやすい塔を使ったなら二回目は場所変えてると思ったのよ。ハチ。あんたは戦闘参加しなくていいわ。そのままスナイパー見てなさい。攻撃タイミングを指示して。チャットじゃなくていい。イチミヤにだけ直通で指示しなさい」
「りょ」
「イチミヤ。おまえは、外出たら一直線にスナイパー抑えにいけ」
「俺? 気配察知があってリーチのあるアザミのがよくね?」
「バカかおまえは。あんな半裸、『心臓を狙う』を一発貰ったらおしゃかだろうが」
ああ、そうかも。俺なら革鎧と片手盾を装備しているので、多分二発くらいならふんばれる。より防御力の高いバンドウさんは、パーティ戦闘の方の要として残すべきか。
けどもうちょっと言い方あるんじゃないかなー。
アザミが手の指を折り数える。
「ハチくんとイッチーが抜けて敵がフルパーティなら私たちの方が五対四になるけど大丈夫かな?」
「あたしとおまえがいてどーにもならないと思うならおまえはいまのうちに挑戦を取り下げるべきだな」
「僕もそこに入れて欲しいなぁ」
と、二位のバンドウさん。
「敵はおそらくこっちを確認した瞬間にバラける。イチミヤがスナイパー狙うのがわかれば集中かけてくるだろうから『狂乱狩人』の範囲攻撃を中心にしてそれを阻止」
「なんで纏まってこないの?」
アザミの問いに、先輩が露骨に舌打ちした。
バカと話すのはいちいち説明しなくちゃいけなくてめんどい、とでも言いたげに。
この人、ほんっと性格悪いよなー。
「てめえの『サウザンドストーム』のせいに決まってるだろうが」
アザミ百発千中の効果中の『サウザンドストーム』には範囲内の敵を一掃するだけの攻撃力がある。全員が範囲内にいれば瞬殺される。
……俺は敵が纏まってこないならその理由は先輩の『エリア・フォース・ブリザード』のせいだと思うけど。
「んじゃ、行くわよ」
クイーンが門を蹴り開けた。
と、その途端に「撃った」ハチノスの声。俺の胸に向けて弾丸が飛んでくる。
先輩が『アイスシールド』を俺に付与する。俺の少し前に氷の盾が浮かぶ。的確な場所に当たらなければクリティカル性能を発揮しない『心臓を狙う』が盾の耐久力を突破できずに、落下。「いけ」俺は弾の飛んできた方へ、北東の砦に向けて駆けだす。
俺に向けてバトルマスターが強襲してくる。突き出された片手槍をバンドウさんがダイヤモンドバックラーで受け止める。スキルドレインやブラッディレインなどの特殊アイテムは大抵なにかしらの独自のスキルを持っているのだが、『ダイヤモンドバックラー』はスキルを所持していない代わりに防御力が高い。それはもう異常に高い。
通常はガードしてもある程度ダメージが入るのだが、バンドウさんの削れたHPは「1」だった。
「ふふっ。対PK戦は久しぶりだ。闘技場の外で人を殴れるのは、興奮するね」
「邪魔するなよ、俺らはイチミヤ殺れりゃそれでいいんだ」
バンドウさんは盾を敵の顔に叩きつける。
「君らが殺そうとする勝手も、僕らが守ろうとする勝手もあるのがこのゲームのおもしろいところだろう?」
『影走り』で潜伏していたアサシンがクイーンに向かって走る。
アザミが割って入り、弓技『シューティングスター』がアサシンに命中する。HPを失って分身の術で作られた見た目だけは同じの分身が消え去る。アザミが脱力して屈みこむと、『霧隠れ』で潜伏していたアサシンの剣が空振った。「気配察知」のある狩人系には「霧隠れ」の効果中でも輪郭だけは見えている。別のことに気を取られていれば見落とすこともあるが、注意していれば無問題。わかっていても他に手がないのがアサシンの悲しい点だ。
伸びあがるようにして繰り出したアッパーがアサシンの顎を捉えて、追撃の蹴りが距離を突き放す。アザミが「百発千中」によって十倍化した弓撃を放つ。アサシンが被弾して1000以上のダメージが入る。
「アザミさん!」
クスノキさんの元へも強盗系の上級職の女が迫ってくる。アザミは限界まで腕を逸らして後方に向けて狙撃。強盗女が十倍化した矢をある程度受けながらもクスノキさんに接近。アザミが応戦しようとしたところに、さきほどのアサシンが再度接近してくる。「にゃっ」アザミが格闘で応戦するが、クスノキさんの方にまでは手が割けない。
「『アイス・エンチャント』」
クイーンが杖を振るった。
クスノキさんに向けて突き出しかけていた短剣を持った手が、先輩の杖に叩かれて凍り付く。状態異常『凍結』の付与によって右手が使えなくなる。短剣からは毒液が滴っていた。どうやらそいつは強盗+狩人の上級職である「ポイズンハンター」だったらしい。状異常付与の特化職だ。
一拍遅れて放ったクスノキさんの『アクアブレイド』による水の刃がポイズンハンターを切り裂く。と、同時に先輩がなにもない場所に杖を振った。クスノキさんを狙った『心臓を狙う』が先輩の杖に弾かれて落ちる。
「シールドのある私と格闘が得意で常に動き回っているアザミは狙い辛い。『ダイヤモンドバックラー』があるバンドウは論外。なら狙うのはここで、タイミングは魔法を放った直後の硬直中、よね?」
挑発的なクイーンの声。
少し離れた場所で火竜が召喚された。巨体が太陽の光を遮り大きな影がアザミたちを包み込むが、すぐにそれ以上の光源が照らし出す。「バカ、おまえそれじゃねえ」仲間に向けて苛立ちを向けながらアサシンやポイズンハンターが退避する、と、同時にエレメンタルマスターの『アトミックフレア』が放たれた。
「『エリア・フォース・ブリザード』」
クイーンがスキル名を呟く。
フィールド付与型の特殊スキルによって、街の傍のありふれた平原が猛吹雪に包まれた。『双頭の究極龍』がドロップした「無限冷凍庫」によって取得できる特殊スキルだ。『アトミックフレア』が着弾するが、この吹雪の中では火炎系のスキル効果が著しく減じられる。以前は俺のHPを6000以上消し飛ばした最強の攻撃スキルは、クイーンのHPを600ほどだけ削って消滅する。
足下に雪が積もっていく。足場が悪いと強盗系は自慢の敏捷を発揮できない。
さらに迷彩服を纏って草にまぎれて隙を伺っていたもう一人のアサシンが白銀の世界の中で不自然な迷彩柄を浮き上がらせる。
HP減少効果が、氷属性への完全耐性を持っているクイーン以外の全員に起こる。
「イチミヤ、こっち振り返ってないでさっさとスナイパー仕留めにいけ」
「……はい!」
心配するまでもなかった。
ただでさえクイーンは無敵なのに今回は手駒が三つもあるのだ。




