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2.ヒエラルキー・クイーン



で、次にログインして街から一歩外に出たらキルされた。

もしかしたらやべーかな? と思ってアイテムも金もほとんど持たずに出たのがまだ幸いだった。他のネトゲでは経験値系のペナルティがあるらしいけど、そういうのがなくて本当によかったと思う。まあボス戦の難易度的にそれがあったら誰も挑戦しなさそうだけど。

しかし。

「どうするかなぁ……?」

 街の中でも出来ることはある。闘技場は楽しい。が、DDの本領は高レベルモンスターを相手にしたパーティ戦闘や、様々なイベントをこなすことだ。「街から外に出られない」のはすげーつまんない。

 やられてみるとわかるけど、誰かの悪意が自分に向いてるのって、すっげー疲れるな。

 ハイドの方は『悪党同盟』の人たちと徒党を組んでどうにかしているみたいだし、ハチノスやクスノキさんには悪意の矛先が向いていないからそれはよかったけれど。ギルドに入っていない俺にはハイドみたいにこういう時に頼れるプレイヤーがいない。「ソロの俺、かっこいい!」とか思ってどこにも所属しなかった過去がいまさら悔やまれた。なにやってんだか。

 ログアウトしてネトゲ酔いを冷ましながら退屈しのぎにアザミvsバンドウさんの動画を開く。

 半裸のネコミミたゆんたゆんのアザミと、筋骨隆々の大男のバンドウさんが向かい合っている。バンドウさんは特殊防具である『ダイヤモンドバックラー』を装備していなかった。バンドウさんが二位にいるのは、攻撃力と敏捷に優れたバトルマスターでありながら、この特殊防具によって聖騎士以上の耐久力を誇っているからだ。その利点を手放して、さらに鎧ではなく道着系の防御力は低いが軽量の防具を身に着けている。敏捷に特化した装備。

 試合が始まる。

 百発千中を発動したアザミの弓をバンドウさんが『ジャストガード』して間合いを詰める。十倍化したアザミの攻撃を掻い潜りながら意味不明な手の動きで叩き落す。『ジャストガード』は成功すればノックバックとヒットストップを無視できる効果がある。とはいえダメージを減殺しても攻撃がヒットしたことには違いなく、「ブラッディレイン」の定数ダメージは受けていた。HPがやや削れながらもそのまま間合いを詰めたバンドウさんが右拳を引く。『正拳突き』を放つ。バンドウさんの装備しているナックルダスター系の装備は攻撃力が著しく低いが、その分攻撃後硬直が少なく連撃を得意とし、ヒット&アウェイを主体とする職業で好まれている。攻撃力が低いと言っても、「まともな防具を装備できない」狂戦士系であるアザミによって、バンドウさんの拳は十分な脅威だ。連撃を叩きこもうとしたバンドウさんの拳を、「ヒットストップの影響を受けない」狂戦士が強引に逃れて間合いを外す。拳が空振るがすぐに立て直して追撃を放、とうとしたバンドウさんの顎を、アザミの『サマーソルトキック』が蹴り上げた。バンドウさんの頭が跳ね上がる。空中を縦に一回転したアザミが着地と同時に地面を蹴る。バンドウさんの横っ面にアザミの右拳が突き刺さる。さらに前蹴りを繰り出してバンドウさんを突き放す。アザミが唇を舐めて笑みを見せた。

 勿論いくら狂戦士の素の攻撃力が高いとはいえ、武器(弓)の補正が乗っていない素手で殴ったところでダメージはたかが知れている。

 だからアザミは蹴りで間合いを突き放すのと同時にバックステップして距離を取り、ブラッディレインを構える。十倍化した弓撃がバンドウさんに襲い掛かる。さすがのバンドウさんでも体勢が崩れているとジャストガードできずにどうにか横っ飛びに逃げる。何本かはかわしたが、何本かはぶちあたってHPが削れる。

 アザミは『サウザンドストーム』で一気に試合を決めようと弓を天に向けかけたが、敏捷に優れたバンドウさんはスキルの予備動作の間にアザミに張り付く。俗に「スーパーアーマー」と呼ばれている狂戦士のヒットストップ耐性だが決して無敵ではなく「二秒間の間に10ヒット以上」で体勢が崩れる。そして間合いさえ詰めてしまえば連撃を得意とするナックルダスターの『爆裂拳』のスキルは、2秒間で10発なんてのは楽勝でこなせる。50発近い拳が腹に叩きこまれて、アザミが体をくの字に折り曲げる。追撃の『正拳突き』が捻じ込まれてアザミのHPが半分を割る。

 殴り合いにはバンドウさんに一日の長があるように見えた。

 バンドウさんはアザミの戦い方を研究して、解析して装備を選んできている。

 それでもアザミは笑っている。

“んふふ、たっのしー”

 声の入っていない動画の中から、そんなつぶやきが聞こえた気がした。

 多分いまがチャンピオンへの挑戦のかかる大事な試合だってことさえを忘れている。

 アザミは“ゲームをして”いる。楽しんでいる。

「……がんばれ」

 と、俺は既に決着がついている決闘を映した動画に向けて呟いた。

 大技を諦めたアザミが格闘戦に付き合う。

 試合は格闘の専門職であるバンドウさんが優位に進めていた。

 アザミのHPが三割を切る。バンドウさんのHPはまだ五割と少しを維持している。


 ——けれど狂戦士系統が恐ろしいのはここからだ。


 アザミが『月下咆哮』のスキルを使う。『月下咆哮』は残HPが三割を切った時にだけ使える狂戦士の最強のスキルで、その効果は“HPが急速に減少していく代わりに、すべてのステータスが二倍になる”というもの。放っておくと約五分でHPが1になって効果が途切れる。スキル発動中は回復の効果を一切受けなくなる、アザミの切り札だ。

 バックステップで間合いを外すと、バンドウさんの拳が空振る。バンドウさんは弓撃を『ジャストガード』しようと備えたが、アザミは後ろ脚を地面に叩きつけてブレーキをかけると、弓を斜め上方に放り投げて踏み出した。バンドウさんに飛び掛かる。電光石火の左ジャブからの右ストレートがバンドウさんの顔面を叩く。続けて前蹴りを腹に叩きこむ。武器補正がないといっても、二倍化したステータスによる暴力がバンドウさんのHPを削っていき、ついにバンドウさんのHPも三割を切る。これを耐えれば勝ち、とバンドウさんが防御のために身を固める。実際、バンドウさんのHPが削れる速度と、『月下咆哮』によってアザミのHPが削れていく速度は大差ない。時間経過によってスキル効果が切れてHPがゼロになったところへなにか軽い攻撃を差し込めば、それで決着がつく。


 だけど勝利の女神はそんな消極的な考えの元には微笑まなかった。


 ガードを固めた瞬間に、アザミが飛びずさる。反応が早すぎる。勘がいいのだ。

 その手元に先ほど放り投げたブラッディレインが落ちてくる。

 アザミが弓を天に向ける。

 バンドウさんがスキル攻撃を阻止しようと疾走するけど、かすかに間に合わなかった。

『サウザンドストーム』による千本の矢の雨がコロシアムに降り注いだ。

 百発千中が切れているため、定数ダメージの嵐の中をバンドウさんはどうにか生き残ったけれど、矢に覆われた視界の中でスキルの切れ目に跳躍したアザミを見逃してしまう。アザミの左回し蹴りがバンドウの肩を蹴り飛ばして、さらなる弓の追撃を加えた。

 バンドウさんのHPがゼロになり、闘技場の中には『月下咆哮』の切れたHP1のアザミが立っていた。


 俺は小さく拍手する。

 バンドウさんの敗因は『月下咆哮』中のアザミの動きを分析しきれていなかったことだろうか。残HPが三割を切るところまでアザミを追い詰めることができたやつは少ない。俺とやるときは『ミサイラント』が蹂躙するだけで、スキルを繰り出す間もないし。

 なので、闘技場でアザミが『月下咆哮』を使ったのは片手で数えるほどだったはずだ。

「……DDやりてーな」

 と、俺はぼやく。

 いまさら腹が立ってきた。



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