93.馬肉は桜と呼ばれますれば
「言いたいこと…釈明できることは、ありますか?」
「食材が武器すぎた」
マイホームにて。イツメン+小白川組でヒューを囲んで…はいないが、歓談中。気持ち的には糾弾です。
ヒュー、口を開いて曰く。噂通りに特殊バフ料理で☆5レベルになったらしきステータス+様々な食材を駆使しての多彩な攻撃・防御方法に敗れた、とのことである。
「この大舞台でヒューと戦うためにがんばってきたのに! ひどい! ぽっと出の料理人に下されるなんて!!」
「いや、ぽっと出じゃねぇだろ、明らか圧倒的戦力で勝ち上がって来てただろ」
はい、ヒューの奴がわたしに当たる前に砕け散りました。お相手はちょくちょく耳に入っていた、バフ料理を開発したという料理人@ハラドゥ主であります。
以前に述べた今後の試合予定の中で、さすがにないだろうとヒューvsバフ料理人対決を省いてたら、このザマだよ。
「ハラドゥの天然美少女フェイスにヤラれた説」
「会場の後方にはいたが。飯食ってメシ顔してただけだろ」
試合を観戦してたから知ってる。言ってみたかっただけ。
「ダークホース~」
「バフ料理と食材のりよー」
「シナジー生んで火力スキルの威力アップ~」
「シナジー生んでぼーぎょスキルの効果アップ~」
ステとスキルの入れ替えOKルールが、とんでもない化物を生み出したようだ。
有名どころだと小麦粉なんかを使った粉塵爆発。攻撃に攪乱に煙幕にと大活躍。あれはたぶん、料理や食品を使うと威力アップ的な補正パッシブを持ってるな。
「まともに戦り合うのは、わたしでもナシかな」
「捕縛術をサラダ油で抜けられるとは思わなかった」
渾身の捕縛が、ぬるっと抜けられてたね。
「そこはせめてオリーブ油にして、とは思ってた。なんか高級感で有用性を補完して欲しかった的な」
使用法の本質は変わらんのだがな。
「玉ねぎのせいで目測を定め損ねたのも痛かったな」
「わざと砥いでない包丁を用意しておくとか、逆に料理のプロすぎててヤバい」
「目の前でみじん切りし出した時は何かと思ったが」
「玉ねぎの硫化アリルはVIT値で抵抗~」
「物理じょーたいいじょー扱い~」
なるほどVIT値で抵抗可能と。だから料理人本人に影響がなかったのか。メモメモ。
「ハラドゥちゃんが『粗みじんの玉ねぎもおいしい~』とか言ってて飯テロだった」
「あの切れ味の悪い包丁を使って、戦闘中にささっと美味しいチャーハン作れるとかマジ料理人」
炊飯済みのお米はフリーザーバッグから出てきてました。戦闘力が53万ありそうです。
他、焼豚やニンジンピーマンに卵などが入ったご家庭的な炒飯でした。食べたい。
『ハラドゥは…久方ぶりに目にしたところ、横に成長している気がするのだが…』
「健康体になってていいんじゃねぇのか? 死霊だが」
「幸せ太り、というものでしょうか」
「元がやせ過ぎだっただけだと思うよぉ? 敗走の中で死んだんでしょぉ」
そういやそう。八大死霊の過去はわりと悲惨だった。
試合で見たハラドゥちゃん、ふっくらツヤツヤで美少女感マシマシだったと思う。元の方はモデル体型かそれより細いかもくらいだったが。今はむしろ、オトコノコが好きな類のふくよかさになったと思われ。むっちり太腿とか、ちまっと摘まめる柔らか腹肉とか好きだろ? キミら。
「ふぅむ…死霊の姿を決定するメカニズムは、それぞれの個に左右される、ということなのか?」
「リアルで言うなら、そうだね。基本的には多方面の怨みを買った者が、死んで肉体を失うことで、肉体周りで澱んでいた怨みの念を、魂に直接浴びて悪霊化するから。ほとんどの場合は、容姿なんて自由に決められないよ」
もらった怨みの種類で変わるとこもあるし、それに悪霊本人の気質でも変わってくるからね。肉体という、檻であり鎧でもあるそれを脱いだ先の実体は、はてさてどのような悪臭を放つものか、と。
「八大死霊も、怨みを買ってたのね」
最初は悪霊ボスとして出てきたもんね。
『七島を訪れる前。大陸においてのことであろうな。悪漢どもに従いし愚昧なる大陸民を払い、身を守る必要があった。其れを以て、此の身を庇う心算はないがな』
あー大昔の大陸では、ヒューマン族以外は迫害されてたもんね。でも、迫害してきた相手にも親類縁者はいる。迫害からの逃亡のためであっても、誰かの家族を傷つければ恨まれもする。しかし元を糺せば、信じて仕えた相手が悪かったやーつ。ま、だからって『愚昧なる大陸民(当時)』に同情する気はないやね。
「その頃に負った怨みや本人たちの無念。それが悪霊形態の時の、あの醜悪さだったわけね」
『余は今とさほど変わらぬであったろう。ラドゥナラカ王家の直系であり、また己の矜持を保っていた故でもある』
うーんどうだっけ。よく覚えてマセン。
こちらで悪霊話をして一段落すれば、あちらでのトーナメント戦雑感へと、なんとはなしに戻っていく。
「前回大会の優勝者が料理人に負けるとはな。大荒れしてるぞ」
「今回も運営ちゃん公認の賭博はあるからね」
ざわざわの中に響き渡る、悲喜交々の悲鳴であった。
「俺はヒューにも賭けてたんだけどねぇ」
心底残念そうなライハに、ヒューが眉が八の字になったわけだが。
「ライハ。てめぇ、料理人の奴にも賭けて儲けてただろ」
「うん。ロワイヤルは全試合見てたから、彼はイケると思ったんだよね」
当然のように新進気鋭の優勝候補に目を付けてやがった。
もちろんシュシュにも賭けてるよ! と追加で言われたところで、発奮する材料にはならんぞ、おい。
「次の試合は、その料理人氏とわたしの対戦になるんですが」
「シュシュの方が倍率が低いからね。シュシュの方に多く賭けているよ」
そりゃどーも、なのだろうか。
「両建てしてるだけだろ、兄貴」
「ですよねー」
どっちが勝とうとも損が出ない賭け方をしてるんだろう。万馬券当てて大儲け! ではなく、堅実に勝ちを積み重ねてくヤツ。
「まあ、当然わたしもそうしてますが」
「自分の敵にも賭けてるのかよ」
そりゃそう。勝負と実利は別でありますぞ?




