53.派手にぶっかま≒オールクリア
唸る轟音に、光るエフェクト。
大斧だの戦斧だの大剣だのの大技が、間断的に炸裂。木々は次々倒壊し、巻き込まれた背の高い草や藪も、粗方ざんばらに刈り取られ。
「バフマシで強すぎた破壊力に、うっかりふっ飛ばされた方は手前に出てきてどうぞー」
湖の端で範囲拡大ヒールを叫ぶ。死に戻りおよび死人はない。よし。
「…私、魔力が多いことは自覚していたのですが。援護魔法に魔力を込めすぎると、逆に危ういこともあるのですね…」
「STRやINTのような、攻撃スキルに直接作用するバフはそれが顕著であるな。いやしかしこれも経験。姫は実戦を通し、ひとつ成長したのだ」
オズ君、いいこと言ってる風だけど、怪我人は出てるからね。
メグ嬢の頭をなでこしながらイチャ空気を醸し出すオズ君たちロイヤルカップルに、軽く咎める視線を送っておく。
とまあ、そのような経緯を経まして。
「♪声が嗄れても歌い続ける~」
「♪そんな時には兎天使ちゃん印の声楽用のど飴~」
「♪なんと! 甘党さん用と辛党さん用の二種類ご用意~!」
「♪お買い求めはハンジェンツ国首都の販売契約店まで~」
「「♪順次、販路拡大中~」」
どさくさで宣伝すな。
完全に湖から全身を出したすっぽんズに、わたしは弓矢をビョンビョン背後を狙って射ってるし、上空からヒューの盾の脳天一撃が降り注いでいるし、オズ君の鋭い剣筋がすっぽんの特に柔らかい所に深い裂傷を増やしていっている。
なお兎たちは切り株に座って呑気に歌いながらCM中(魅了効果は継続してるっぽい)。
すっぽんズ最大の攻撃法である噛み付きについては、回避盾が近接オズ君を庇ってかすり、何気に大ダメージ入ったりも。顎力特化こわ。即ヒールを飛ばしたよ。
とにかくすっぽんを湖に戻さないよう退路を塞ぎ、なるべくオズ君の攻撃に頼る流れを作る。
(すっぽんの血って素材になりそうだけど、流血し放題でもドロップするの?)
(そこは問題ないんじゃないかな。造血細胞を根絶やしにしなければ)
骨髄を燃やし尽くさなければドロップ可能だろう理論とか新説だな。
ライハによれば問題ないようなので、オズ君による削り耐久戦を継続してもらおうと思います。
すっぽん、デカいだけあるのか体力が多いらしく、HPがやたら多いんよ。ヒューがタゲ取って回避しながら脳天打ちまくってるからか、スタンする頻度が高く、おかげでオズ君やメグ嬢に危険は及びにくそうなのが救い。
「端的に言って、消化試合」
「発見すれば勝ち確みたいなもんだったしな」
ぼそっと呟いた本音に、ひらりと近くに来ていたヒューが応える。まあ、そうやね。
適当な範囲の木の伐採作業を終えた護衛たちも、切り株に座ることこそしないが見守り体勢。メグ嬢の背後にずらっと並んでいる。
「決定打に欠けるのが面倒だな…ふむ、そこの兎たちよ。魅了を用いて、森の跡地にきゃつらを誘き寄せてくれ」
「「は~い」」
森の跡地とは、伐採しまくった跡ということだろう。
注意深く観察してやっとわかる獣道以外は、鬱蒼として見晴らしが悪かったその場所だが、今は森の中のぽっかりと空いた空間になっている。しかし地面に目を向ければ、倒れた木々や刈られた草が散乱したまま。
「足場の悪いそこで、転倒させよ!」
なるほど、ひっくり返して急所を晒してやろう、てことね。
(すっぽんだけでなく、亀相手でも使える手だよ)
(むしろ亀敵相手の常套にしたい手段)
行動封じ&硬い甲羅を避けられるとか亀用戦略とも言えるような。
「大きさはどうあれ、身体の仕組みを考えると頭部一閃あるいは心臓一突きが有効?」
「だな」
オズ君の剣により傷だらけになった手足で、前に進み続けるすっぽんズ。魅了の効果で誘導され、凸凹の地面に踏み入れたところに駆け付けるわたし。そして二体居並ぶすっぽんの間に、するりと入り込み。
「弓技ショット! の上位互換、インパクト!!」
ショットはあれだ、至近距離から放つことで、攻撃と同時にノックバック発生。インパクトは単純にその威力が上がった版で、もちろんノックバック効果も健在。
「っし!」
不安定な足場の中でも、ひっくり返すのに方向・角度共に有利な地形を迷わず選び、まずは一体。
「よくやった!」
逆さまになった方のすっぽんに飛び掛かり、力いっぱい剣を振り下ろすオズ君。ぶっとい首の一閃は難しいと思ったのか、突き刺す系の剣技で心臓一突きを狙う。
ひっくり返ったすっぽんはオズ君に任せ、インパクトの余波で魅了が解けかけたらしいもう一体に肉薄する。
「ショット!」
ぐわっと開きかけたお口の中に、まずは前座のショット。
「からの、立ち位置微調整してインパクト!」
ずどーんと転倒二体め、いっちょあがり~。
オズ君の方の首尾はと目を向けると、すっぽん1/2が天へと還る光に包まれていた。よーく見ると、ダメ押しの首切りまでしているような。
なんでだろうと一瞬思ったけど、もしかしてNPCはグロ度が最高値固定なのでは。光の粒子になる予兆が見えないから、止めに止めを重ねて、確実に安全を取る倣いでもあるのかな。
「転倒させるという判断はさすがですけど、出来る人がいなかったらどうしてたんです?」
二体めの止めを刺し終え、光り出したすっぽんの横で首を落とそうとしているオズ君に訊いてみる。
転倒させると聞いて、さっと前に出ちゃったけど。
わたし、オズ君の前で弓技とか、あんまり使ってなかった気がするのよね。
「基本はパーティで依頼を遂行する気ではあったが…埒が明かぬと、我も短気を起こしたようでな。護衛団の中に転倒を実行できる者が在り、無意識に頼ってしまっていた」
ああ、あの命令はわたしに言ったわけじゃなかったのね。
「しかし、よくぞ我の指示を的確に理解し、過不足なく実行してくれた。助かったぞ」
ご満足いただけたなら、何よりですわ。
ライハも上機嫌な意味でニコニコしている。すっぽんの討伐依頼クリア、オズ君による見せ場クリア、冒険者という立場縛りクリア、メグ嬢も実戦の予測不可能さを知るという新鮮な経験を積めたということで、すべてがまるっと結果オーライかな。
怪我人(は出たがNPCは護衛団のみ、かつほぼフレンドリーファイヤだし、治療済)や危機一髪も概ねなかった。うん、完全試合ってことにしちゃっていいんじゃないでしょうか!




