29.赤く輝く手榴弾の語源
ハンジェンツ国の港から西、若干北西よりに進路を取り、現状では最速の部類だろう魔力を動力とする船での直線進行でも、およそ6時間(RFA時間)。テサテス国とハンシ国、二つの島国をつなぐ橋がかかった海峡が見えてくる。
海から直接そびえ立つ両島の高い崖と崖とを行き来できる、巨大な海上橋だ。北側がテサテス国、南側がハンシ国となる。
「いかにもこう、一つの島が割れました的な」
「むしろ中央の山が左右に割れたような」
「その割れた山のカルデラの中で人々は暮らしているそうだ」
「元はカルデラ湖であったらしき半円形の大きな湖もあるみたいだよ」
『おさかな、とれる?』
「砂浜というより砂丘が広がり、島の少ない平地の大部分を占めるとある」
「主な特産品は、リアル地中海の丘陵地のものに類似しているようです」
「オリーブとかぶどうとかトマトとかぁ?」
「島民はどちらの島も空中都市のような場所で暮らしてるそうだな!」
「旅行スレによると、巨大な一つの空中都市に居住区と畑が点在しているようね」
「酸素薄いから? 滞在するだけでレベルに関係なくVITステが上がりやすいんじゃないかって噂があるっすね!」
「空中都市ってなんか面白い名前のヤツだよねー、まちゅちゅちゅ?」
「ピマチューじゃなかったかしら?」
「それを言うならマチュピチュだな。というかどこかの電気鼠が混ざってないか?」
「海上橋の中央で半分に切断した人体を、それぞれの島の祭壇に捧げるらしい」
「左右なのか上下なのか…」
「たい焼き、頭と尻尾どっちから食べる? みたいな」
「食うな食うな」
「それに関しては人体ではなく、テサテスとハンシの特産品であるララロの実のことですね。熟して赤く厚い皮を割り、中の宝石のような赤い実を種ごと食します」
「ララロ、イコール、ザクロ~」
「鬼子母神が人肉の代わりに食べたヤツ~」
「グラナデンシロップを使ったミッドナイト・サンも好きよ」
「おねーちゃんお酒好きだよね」
「ビールが何より最高って言ってなかった?」
「しっビール好きよりカクテル好きな方が可愛らしく見えるのよ」
「仕事明けはビール、おしゃれバーではカクテル。鉄板よ」
『めーもお酒のむー』
『メウシュヒには甘くて美味しい、そふとどりんくがよかろう』
なんか途中から脱線してるけど、テサテスとハンシの前情報でした。
やや乱雑にまとめると、一つの大きな火山帯が島となり二つに割れて、ザクロ、ではなくてララロ、とその他を栽培する空中都市になったと。
「七島のように、果物の『特産品』があるんだよね」
「もしキィが言うように、受容か解放の何かが隠されているのなら…」
「ラドゥナラカを構成する何某かであるのかもしれんな」
「兄貴が言ってたβ碑文の『八つ』か」
海峡の先のレイド級モブ(?)がいるという海域のどこかに、最初の洞窟かシークレットダンジョン、またはそれと同等の何かがあるのかもしれない。しかもそれは、ひょっとしたら七島の連結通路と繋がっているとか? 距離ありすぎるかな?
「八と言えば。忘れてたけど『八』大死霊、もいたわね」
『む?』
「お前は何か感じるものはないのか? シゥ」
『この地についてであれば、何も感じるものはないのだが…ふむ、ララロの実には覚えがある。あれは余らの族への供物であった。心の臓に似たあれを日頃から食すことで、身近に控える民を喰わぬことが叶うと言われておったようだ』
王家な黒竜の一族が人食いだった説。
『おそらくだが、竜化すれば何者をも寄せ付けぬ種族であるがゆえ、容易に食せる他種族の身代わりの実として伝わったのであろう。もっとも、事実は別であるが』
「事実?」
『王者に相応しい神格を授けるものとして、儀式を経て身の内に取り込んでいたのよ』
詳しく聞くと、どうやら黒竜族用のバフアイテムだったようだ。
『でなくば、迫害されし折りの、ララロが容易に口に入らぬ時期においては、余らが族が無差別に他種族を襲うこととなっていたであろう?』
ザクロ食べないと暴走する説が本当だったら、当然そうなるわな。逆に供給を断たれてたから、レイドボスなのに復興できないところまで弱体化してた説が浮上する。
『ララロを自由に口にできる時代に在るサハウィーナを見よ。余としては口惜しくもあるが、あれの戦闘能力は肉体ありし日の余の比ではないぞ』
肯定されました。
「そうなのですね。楽しみです」
まだサハウィーナ嬢と戦うことを諦めてないのか蛍さんは。
「蛍はともかくぅ、それってぇ、七島の果物が各ステに絡んでるとすると、ララロは全ステに関係してる可能性、あるぅ?」
レイドボスしてたシゥがめっちゃ強いと太鼓判を押すサハウィーナ。それがララロバフによる全ステアップに起因という可能性は、あり得る気もする。
「ライハ。君はこの二島について、何か情報を得ていないのか?」
「物理的な距離に加えて、大陸のどの国、どの集団とも繋がりを持っていないと結果が出て以来、後回しにしていたねぇ」
暗躍大好きライハを以てしても、解像度が低い国なのね。
「双子は?」
「東ちょーさちゅうしん~」
「西はハンジェンツでのアイ活でしか来てない~」
アイ○ツ言うなや。
つまるところは。
「訪れてみるしかない!」
「目的を忘れるな、まずはレベリング、それからレイドモブな」
そうだった。
いやでも、掲示板でもほとんど触れられない、厭世的という噂すらないのに、なぜか誰も行かない国だよ? それが、ラドゥナラカの王家に関する何かを実は担っていたとか、そういう可能性が浮上してるんだよ?
「うん、テサテスとハンシにも調査人員を割く必要があるね」
ライハの中でも重要事項に割り振られたようだ。ならば後日、日を改めてイツメンで調査でも…。
「えーオレ、すぐ行きたいっす! 話の流れからすると、最初の洞窟があるかもしれねーんすよね、発見の称号がゲットできるかもってことっすよね!」
……すでに見つかってて、秘匿という可能性も。
「ここにも植物園があるなら、ミヤコさん経由で情報もらえるかも~?」
「なんせmimic、伝達のーりょくピカイチ~」
すでにプレイヤーがあらかた調べ尽くしているかもしれないし、していないかもしれない、そのことについても、ラドゥナラカの地方領主にして全土治安に従事していたmimic族から聞き出せるのなら。
「ここにお集まりの皆様は、海上レイド戦を想定してご参加くださったわけですが…さて。あるかも不明な新発見と新称号。どうなさいますか?」
トビウオ大量乱獲によるレベリング(+幻属性および想像魔法行使資格)&レアモブレイドか、未知の領域に賭けての捜索隊か。
釣り人も手を止め会話に注目していた船上。28×2の目が交差し沈黙して。やがて思いを一つにして、頷き合った。




