25.ゲーム⊆リアル
「んぁコーヤね、アイツか」
「彼かぁ。時悠とね、相性いいかもね」
いつもの薄緑のサングラスを外して胸ポケットにしまったアラカイ氏と、長い前髪をクリップで止めたアマカミ氏。
どちらも黒髪黒目の擬態バージョン。本来はクローン側の壱玲と同じような金髪に、金青の虹彩異色というミステリアス容貌なお方たちだ。
「二人の反応からすると、ノーマークです?」
「おれはあんたらが兄貴に薦めたのかと思ったぜ」
「ゲーム内での交友関係には、というかRFA内に関しては基本ノータッチだよ」
「下手にゲーム関係でコンタクトなんか取ったら、こっちの言質取ってシナリオ看破しかねねーだろ時悠とか」
たしかに。
「その辺については、双子も徹底的に警戒してるし」
「こっちだってシナリオやイベントに関してのプレイヤーの動きは、どんなに意に沿わなくても邪魔立て禁止としてあるんだよ」
もし万が一、RFA運営側の横暴、または運営構成員とプレイヤーに癒着があると認められれば、片や懲戒解雇、片やRFAのみならず協力関係にあるすべての企業のVRゲームへの参加権利を剥奪となっている。
後者はRFAを始めるにあたってのプレイヤーへの注意事項にあったね、覚えてるよ。
さて現在、我々は並んでラーメンを啜っている。
アラアマにわたしと比悠の四名ですね。ユニーク種族ラーメン氏のリアル店舗にお邪魔中なのです。
意外というべきか、わりと近所に出店してたのよ。なんでもマグロ専門チェーン店運営の、通称マグロ社長と交友があり、店舗や仕入れルート等、色々支援をもらえたらしい。気に入るとガンガン世話してくれるタイプなんだな、マグロ社長。
「コーヤ君ねぇ、融合に回せる素質はあるんだけどさ」
「融合相手候補が多すぎてなーこれからも増えそうだしなー」
「人員を見極めてらんないって」
「人数固定なら、多くてもヴィシュヌ神のアヴァターラ(化身)で回せる気はするんだが…システム組むのは面倒だけどよ」
「ハーレム員を平等に戦力分散とかキツい」
「増えるし」
「増えてもいいようにって言ったら、もう百鬼夜行で誤魔化すしかないかなって」
「百鬼夜行ならメンツが次々増えても問題無いしな」
問題ありありだわ。苦戦してた死霊ボスが、カモン依頼で続々とやってくる百鬼夜行にもみくちゃにされて断末魔とか、…異様すぎて一回は見てみたいですね。
「絵面がどう考えても悲惨だから諦めたよ」
「ぶっちゃけ災害みたいなモンだしな、百鬼夜行は」
まあ神話の神の定義なんて、一部は災害に意味をつけたのが始まりなとこもあるから。方向性は間違ってないかもしれん。
「そういえば。なんで時悠は融合不適格なんです?」
「そりゃ雷人、じゃねぇ、あーとマキと似た理由だな」
「アラカイってば…またうっかりお漏らししてるし」
雷人ってマキのリアル名かしら。スルーしてあげましょう。
「兄貴、霊は喰う(?)けど、引き寄せるわけじゃないよな?」
「せっかく許可を取って引き入れた霊が、時悠に消されたら困るじゃない」
「お前らのスキル大気咀嚼の霊体特異版みたいなもんだぞ、あれ」
陰陽姫の大気咀嚼。敵味方問わずHP/MP吸収か。
「なんで吸収して寝るんです?」
「吸収されたことで急激に増強した霊力が、身体機能をシャットダウンするんだよ」
「花粉症による眠気に似てるかね? 増えた霊力の壁で遮断されるみてーな」
「花粉症は粘膜が炎症を起こした結果、酸素の通り道が塞がり、酸素不足に陥って眠くなるよね」
「霊力の肥大化がシナプスの動きを阻害するっつーかな」
「眠っても生命への異常が出にくいのもそのせい」
「一時的に莫大になった霊力で、身体の状態はほぼ膠着する。いわゆる仮死状態みたいなもんだ」
へー知らんかったわ。
「兄貴は子守熊じゃなくて花粉症だったのか…」
解毒のための睡眠ではなく、伝達物質遮断による仮死だったとは。花粉症ならぬ過霊症ってとこです?
…コアラの方が可愛いから、今後も呼び方はコアラにしとこ。
「話を戻して。んなわけで、マキと似た特殊処理をしてあるんだよ」
「例えば神月君の無意識木気吸収は、RFAではスキルで制限できるからいいんだけど。時悠のは概ね常態で高吸収能だからねー」
なるほど。常態で無差別霊媒体質のマキと、同じような処理になると言うことか。
「おれは?」
「比悠の逆比は常態発動じゃないでしょ」
「ジンと同じくスキルで調整可能な部類だ」
アクティブとパッシブの違いと言われると理解が進むわ。
「素質あっても都合がつかないこと多しと。となると、やっぱりバイト民なかなか増えないんですねぇ」
「最近マジで依頼多いんだよな」
「変化獣のせい、ある」
「妥協点探るのとか、撥ねられねぇの」
純粋な輸入霊討伐の方が少ないまである。というか、そっちなら小白川組なトリグラフで賄えるし。
「一応は、肉体言語で妥協成功とかあるんだけどな小白川」
「依頼段階で怖がられて避けられがちなんだよね」
「まー後は口コミで徐々に、てとこか」
「陰陽姫が変化獣にかまけている間に、トリグラフにはプレイヤーと馴染んでもらえれば、かな」
そういう住み分けもありっちゃありか。しかし。
「じゃあ、せめて変化獣絡みの依頼にボーダーつけてくれません?」
「そうだな。それくらいまるっと呑めよって条件のヤツとか、放っておいていいだろ」
わりとたまにあるんだよ。野菜の値切り交渉みたいな刻むやつが。あんなん自分でやれと。
「おっとそれはすまんな。ギルドAIに学習させて弾かせるわ」
「そういう甘ちゃんも発生するのかぁ。気を付けるね」
わかってもらえてよかったわ。このまま増え続けたら、個人で遊ぶのに支障が出るんじゃないかと、少々心配になってきたのでなー。
「ところで。なんで急にラーメンに誘ったんです?」
唐突に誘われたんですよ。
自然と話題が途切れず、普通に会話してたけどさ。
「自分んとこのゲームがきっかけで、ここの店主は脱サラとか思い切ったことしたんだぞ、気になるじゃねぇか」
「あと、味や評判も確認したくてさ。RFAは慈善業じゃないんだよ? 提携したのにいい加減な商売されたら、こっちに火の粉がかかるじゃない」
敵情視察、違うな、なんだろ。覆面調査的な?
「誘った意味」
「住所が近かったから、ついでだ」
「キミらを一般代表として、意見を聞きたかったし」
RFAと提携を続けるに相応しいかの見極め要員に勝手にされてた。
「RFAで食べたのと少し違う気はしますけど、味はいいと思いますよ」
「そりゃ出汁が違うから、味は違うだろ」
「アンモナイトとかね。リアルじゃ再現難しいでしょ」
当たり前のように突っ込むな。
「接客態度も悪かないんじゃね。店も清潔だし」
「あ、ひとついいです? 従業員の中に、ちょっと見たことあるような人がいるんですけど」
たしかアレは…八大死霊の一人、リャーニの契約者さん、に似ているような。
「ああ。ココの店主と付き合ってんだよ」
「RFAで出会ってゴールイン! の、第一号になるかもしれないね」
マジか!!
RFAで知り合い付き合い始め、マグロ社長(リャーニの契約者のリアル雇用主)との縁もあり、マグロ社長の店からの応援という形で派遣されているそうな。
「この店、すげぇ安泰要素だらけじゃね?」
RFAでリピーター獲得済、RFAと提携済、マグロ社長のお墨付き。
うん、不安要素があるとしたら、店主のラーメン愛が陰るかどうかくらいしかないような気がしてきたわ。




