10.電光石火に朗らか駆逐
かさりと乾燥し切った音が立て続けに鳴る。跳ね上がり、踏み砕かれる葉が地面を覆っていた。
光の射さない洞穴の横穴を駆けると、壁から暗闇に適化した虫や小動物の、リアルと比べて巨大化したモノが飛び出てくる。
または、時に地の底から、およそ地上では生きられないだろう形状をした、尾ひれや背びれ胸びれを持つモノ…すなわち、海の生物の骨格標本のような物体が、命を持って敵対してくる。
葉の海が、潮水あるいは淡水であるかのように。
「らいと~このあたりは~でぃふぇんすあっぷ~、ラドゥナラカがある頃は平地、もっと以前は水域だったんじゃないかって、そうるがーど~、言われてるんだって~のんこないず~」
長い一本道を駆ける一行。灯りがない道では、辺りを照らす光魔法:ライトが大活躍だ。
光に照らされ視認されたうぞうぞと襲い来るモブを、倒すというより払い除ける勢いでの進軍。先頭を行く我地鍛駆号はその高い防御力にバフを重ねられ、一切の傷を受けずに突き進む。
ちなみに不導体化(雷ダメージ軽減)を使ったのは、雷系の罠があったかららしい。ミナキ君が基幹を盾で殴りつけて動作不能にしたらしいが、その際に高圧電流が流れたんだと。
地面には燃えやすい枯れ葉、その他ところどころに大昔の植物の根の化石のようなものがチラホラしている。これらに引火したらさすがに大惨事だからか、接触からの人体通電な罠だったようです。
あ、一応説明しておくと、ディフェンスアップでVIT、ソウルガードでMNDアップですね。VITは単純な防御力上昇の他、身体的なデバフへの耐性の向上、MNDは精神的なデバフへの耐性の向上です。
「歌と魔法の重ね掛けで、ガチタンクのガチガチ固め」
「寝技風に言うな」
ところどころに分かれ道もある。「もふっとふみこみだんだんだっしゅ~らびっとふっとのあしうらじゃんぷ~」リィ曰くの幸運上昇の歌のもと、さくっと勘の多数決で選びます。
とにかく速さ重視。正誤による予期されうる結果のズレを、速度でカバー。正解ルートのヒントも何も見当たらないんだから、むしろそれが最適解でしょ。
「はいっマキ退いて、ソイツ切り刻むわよ!」
「うおっヤツメウナギ?? 水辺じゃないから違う??」
「待ってラウラ、ヤツメウナギ(?)なら美味しいかも!!」
でかくてにょろにょろした、目のような何かが連なるウナギっぽいモノが大口を開けていた。ライトに照らされぬらっと反射する吸盤。奥にびっしり生えた歯のような何か。
「ひゃっはー新鮮なウナギだせー!」
「ヤツメウナギはウナギじゃないぞ」
味は似ているのでOKです。
「そうなの? なら滅多切りはやめておくわ」
滅多切りとかしたら、たぶん硬い部分しかドロップしない。身はきれいに四散するだろうな、このゲームなら。
「ヤスデがいっぱいでてきた~」
枯れ葉だらけだからね、彼らには食い物だもんね、いてもおかしくないか。
「そのヤスデは触るな、手を出さなければ何もしてこない。なるべく踏むな、クラスによっては毒ガスを出す」
いえすさー総司令官殿!
よくある同じ系統の、色違いとかでマイナーチェンジした敵で、上位クラスになると厄介になるやつ。ちゃんと知ってないと、下位と侮ったら上位だった、で痛い目見るやつ。
好戦的でないなら、最初からスルーが吉。
「なんか踏んだヤベェと思ったら、イカだった件」
「あ、干物」
「なんでこんなもん設置した?」
元海だったよーという主張かしら。いや、ヤツメウナギがいたんだから、汽水域的な場所だったのかも? ファンタジーならなんでもアリな気もするが。
ところで洗浄みたいな魔法なかったっけ。炙りイカ…じゅるり。
「さすがに地面に落ちてた物はやめとけ」
はーい。
わいわいと統率の取れた七名です。
「あ、PKっぽい気配~」
きらーんと暗闇に光る二対の眼を幻視。もちろんラウラとマキのことだ。
「んっとね~後ろ~オレらが入るとこ見て、追ってきたっぽいいちかんけ~三人かな~? プレイヤーだけ、従魔はいなそ~出してないだけかもだけど~」
索敵だけでは、本職PKかまでは断言できないとのこと。オーラ色は対象を視認+目を凝らすことで見えるものだからねぇ。
ただ、動き方から推理できることはある。
「即かかってくるとかなさそ~。たぶんクリア横取りねらい~」
露払いさせておいてのいいとこ取り、ね。
「境界ダンジョンのクリア特典は…クリア要件にちなんだ称号や武器(魔法含む)だったか」
「どうする? 処す? 処す? 処したくない?」
「オレとしては、徒労よりPKKスキルが欲しいよねえ」
「同感ね。この先に開けたところがあったら、いいのだけど」
「開けてる必要なくね? どうせ待ち構えたらバレるだろ」
「私の槍の取り回し上の理由よ」
「狂戦士降臨!」
「PK、ここに眠る」
「早い早い」
斬って張って殴って踏んで、走破しながらサクサク相談。
「マーキングかなにかして、正確に追ってきてるんだろうな。幻属性なら撒けそうではあるが」
あー幻惑して明後日の方に誘導、みたいなね。妖精や植物系の一部にそういうのが得意なのがいたっけ。
「蛍がいれば、その辺は得意なんだが」
「得意なんだが。かっこやるとは言ってない、なぜなら戦闘脳だからとじかっこ」
「たしかにそうだが、今言いたいのはそれじゃねぇ」
存じております。
わたしには種族特性としての幻属性ならあるけど、これは幻属性との親和性が高いってだけで、幻属性を覚えているとイコールではない、つまり幻桜くらいしかまだ使えない、ゆえにPK撒くには力不足。
「そもそも倒し隊の方が多いのでは」
「うまく使えそーな罠あったらゆーりにできそ~」
「従魔は不明で三人か。最大で七になる予想もできなくはない」
「やっぱり広い所がいいわねぇ。広範囲斬撃は爽快よ」
「オレもフレンドリーファイヤ気にせずブッパ、が楽でいいなー」
「まあ、おれも飛び回れる方がそりゃいいさ」
敵がPKでないなら、境界ダンジョンのレッド付く付かない問題に対しての結論が出る。
敵がPKなら、PK滅殺報酬なスキル獲得への大きな一歩。そういや前にどっかでPKに遭遇して戦ったような。累積でゲットなるか?!
「…味方にも、そしておそらく敵にも未知のダンジョンだ。先行を譲られると言うなら、有利を取れる位置を確保して迎え撃つべき、か」
皆の意見を取り入れ、返り討ちを選択する総司令官殿。
地道にダンジョンを攻略しつつ、迎撃のタイミングを図ります!




