4.休日の共同作業
『次にRFAにinするのは、こっちが連絡してからで』
ひらり部屋の中を舞った紙切れ。
RFA天国でのオリジナル観賞会と比悠救出作戦の相談を終え、適当にレベリングなぞして深夜前にログアウト、そしてリアルに戻った途端に、目の前に現れた。
「試しにログインし直そうとしたら、エラー出たわ」
「そこで試しに反抗するなよ」
ソファに並んで座って、ホットチョコを飲む。わたしのはマシュマロ入り、比悠のはスパイス入り。一口もらってどっちもウマー。
「兄貴は同じ文言と共に、強制ログアウトくらったってさ。カナさんはログインできるらしい」
「時悠がいなくて、カナさんにRFAやる意味はあるのかしら」
「ーっと。カナさんにNPCたちへの指示の伝言を頼んで、…カナさん、今はRFAチーズ工房の見学ツアーに行ってる、て」
カナさんからチーズという彼女独自の必須栄養素を落としてはいけなかったな。疑ってすまんかった。
メールでやり取り兄弟から、お互いの状況を把握。
カナさんに何の制限もかからないのは、どうも『来栖叶都が時悠と恋人の世界線』はココが初であるから、らしい。
「壱玲に加えてカナさんまで初、か」
「壱玲という、完全新規要素がどっかで作用してんじゃねぇか、て言ってたな」
つーかココが奴らにとっては最新の実験場なのね。
「上手くいってるから、新規開拓するよりこっちに注力してんだろうな」
そやね。
そんな尽力中の黒幕組のおかげで、一時的とはいえ自由にRFAできないことに。
「まあどうせ、この時間じゃ寝るだけですけど」
「寝るだけなのか?」
「結果的には寝ますね、経緯は問わない」
「どんな経緯をお望みだ?」
「わかってるくせにぃ」
寝室行っていちゃらぶ就寝。明日は明日の風が吹く。
というわけで、ちょいと強めの風で目覚めた翌朝です。お互いツヤっとスッキリ。RFAはまだログインできなかったので、休日だしと比悠が持ってた新作ギャルゲーを一緒に楽しむなぞする。
「ギャルゲの女の子って、なんていうか、イエスマン好きよね」
「乙女ゲーでも同じじゃね?」
「いや、あっちは立ててあげる必要が…同じことか」
どっちもあんまりやったことないから、浅い知識だけの感想です。
まあ肯定されたいという欲求に、性別とか関係ないか。道程が多少違うだけで。
「このコめっちゃ可愛いんだけど」
「それ、双子の弟の方」
「マジか」
「よく見てると、会話の癖とかで姉との区別がつく」
さすがギャルゲーマー比悠。
昼になり外食か出前かで意見が割れたので、間を取って一緒にご飯を作ることに。
メニューは冷蔵庫にあったものを具材として、ピザに。ピザ生地はなかったので、物質転送で最速購入。もちもちもサクサクも好きだから両方。
「ところで比悠」
ゆで卵を流水にさらしながら。
「ん」
トマトソースを煮詰める手から目を離す比悠。
「本気で比悠ハーレムになったらどうする? わたしが、どう比悠を区別したら、比悠だけがわたしの比悠だと納得できる?」
冷静に考えると。わたしから比悠への愛が分散される恐れがある。そこをスルーして可哀想問題を解決と考えてしまってはいけない。
「別のゆいたちも引っ張ってくんだろ?」
「後はお若い三人で、で放置できるってんなら、それで解決だけども」
どういう形態になるか、不透明じゃん?
特に、比悠と時悠が不仲で、間に入るゆいちゃんの図とか。場合によったら、こっちの介入が不可避かもしれん。
「おれもそっくり同じ質問を返せるんだが。ゆいハーレムになったらどうするよ」
ゆで卵が冷えるのを待つ間にと、ピーマンを刻む。手にした包丁をすっと上げて。
「そいつら放っておいて、わたしを見なさい」
「キッパリ返しやがった」
比悠がトマトソースの粘度を確認して火を止める。そして常温に戻し中の鶏ももの温度を触れて確かめている。
「比悠も同じってことでいい?」
「あー…ん、まあ、そりゃ、な」
照り焼き用の調味料を用意するそぶりで目を反らしているが、肯定ってことだよね。比悠かわいい好き。隙あらば惚気語り、略して隙惚語。
「もし。わたしじゃないわたしが、わたしの比悠に寄って行ったら…この包丁の錆にしてやるから、気を付けておいてね」
「あっち肉体なくね?」
「そこじゃなーい!」
たとえ! 不幸な身の上のわたしだとしても、比悠は譲りませんからっっっていう意志の表明!!
「徹底抗戦の構えです」
「仮想敵が自分つーのは、おれも同じだっての」
ぶっきらぼうに言い捨て、コーン缶をぷしっと開けている。
「コーン乗せるの?」
「コンポタ。…好きだろ」
好きだが。
「んふふ。それじゃ玉ねぎも刻むね~」
「ピザにも乗せたいよな、多めに頼む」
らじゃー。
刻んだ玉ねぎの半量を鍋に入れて渡すと、開けたコーンと一緒にバターで炒めてくれる。水や調味料を入れる手つきを眺め、頃合いを見てハンドブレンダーを手渡し、どろどろに潰してもらう。
その間にこっちは鶏の照り焼きを仕上げて。
そして一緒にピザに具材を乗せる。あとは予熱したオーブンで焼く、と。
「薄生地サクサク照り焼きピザともちもち生地でトマトソースにベーコンピーマンキノコ他色々乗っけピザ~そしてコーンポタージュ!」
「ん。旨い」
照り焼きに刻み海苔欲しいな、転送注文、よしゲット。
「早くビールを飲める年齢になりたいです」
「炭酸水で我慢しろ」
宥めながらグラスに炭酸を注いでくれる比悠ありがとう好き。
「そうね。わたしと比悠の間に亀裂の影が見えたら、ちゃんと指摘し合おう。そんで、らぶいちゃしてラブラブに戻ろう!」
「おう。遠慮なく言うぞ」
「本当に遠慮なく言ってね?」
わたしが抜けてて気づかないとか、普通にあり得るからさ。
などと確認し合って、そして夕方。
「悪いな、時間かかっちまったわ」
「生身からRFAへの変換とか、新システム構築させられたよー」
なんやて?
「一定数、元の世界に未練ない比悠がいてな」
「後々の処理を考えたら、まるっと持ってきた方が楽だなって」
その辺はよくわからないから、アラアマの判断に任せますけど。
「えっと、比悠ハーレム計画発動?」
生身ってことは、複数比悠の乱立?
「いや、それは無理だから。つか無謀だから」
「RFA内アバターに、全員統合したよ」
だからログインを停止してもらってた、と言われたわけだが。
「どういう、ことになったんだ? 結局」
それな。
比悠の疑問に、全力で乗っかるわよ。




