80.味方のふりした敵、怖いよね
「つまり、PK群に潜入したPKK?」
「異界人の皆様の安全が、私の任務ですので」
捕縛したPKと似た外套を纏っていたその人は、さらりとそれを脱ぎ、どこぞの王宮士官的装備を晒す。
「私の所属に関しては、どうぞお見逃しください」
濃いめの金髪に水色の目。乙女ゲームの攻略対象っぽい(感想)。
なんでもNPCと懇意にしている系プレイヤーからの口コミで、大陸の某国(濁された)の王様がPKを問題視、出現場所や傾向を精査しての掃除作戦を、極秘裏に行っているのだとか。
王様とつながりのあるプレイヤーパーティ、約一組なら知ってるな…お障り霊の時の依頼人(おねーさんテイマーとショタロリたちPT)のことよ。後にネムペルス王と仲良いと知ったやつ。
とまれそんなわけで、この流速遊園を張っていたと。
「と、これで解決じゃー面白くないので、回想を」
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動くと効果が切れる、PKの透明化スキル。気配と姿が明瞭になると同時に、眼下では、十人ほどの影が一斉に飛び上がる。ステージのギミックである、円柱が増えることを見越して、そしてその通りに増えた円柱を使い、昇ってくる。
不意打ちがパーになった時点で、逃亡を図ればいいのに。
おもしろそーだから逃がす手はないけど。
「ヒュー! 遊べそうだから捕縛禁止ねー」
「はいよ。氷像もやめておくか」
「影縛りもやめとく~」
拘束系スキルはヒューの捕縛術と氷像、キィの影縛りとやらか。自主規制さんきゅ。わたしも麻痺毒塗った矢はナイナイしよう。
「ニコ氏~バフお願いしまーす」
「いいよぉ」
実はこれまでの道中、ニコ氏以外は誰もバフがかかっていなかったという。まだ浅い層だからね、ヤバくなってからでいいよということになってたの。
ニコ氏については補助職なせいかステータスがそう高くなく、ゆえに自己バフをしていたようだ。
他は戦闘職なので(デバフ役のはずのキィはデバフする以上に鞭をよく振るっている)、身体系ステータスの伸びは良い。
「バフ要るかしら?」
「生かさず殺さずを楽しみながらステージの攻略もしたいので☆」
「PKをいたぶるのですか。わかりました」
「あっさり了承しちゃう蛍さんマジ戦闘好き」
意図を汲んだニコ氏とヒューが、AGIとDEXに偏った強化魔法を全員にかける。そうだね、STRは要らないかな。殺りすぎちゃう。
「デバフやめた方がいい~?」
「楽しくなるならOK」
「りょーかい~ニコさん、オレと組もう~」
バフかけたりデバフかけたりで感覚狂わせて遊ぶ気だな。よき。
「桜吹雪、ざっくりそこらに飛ばすから~ヒューと蛍さんは適当に使ってー」
触れると消える桜吹雪(固有スキル)。触れるということは消えるまでは質量があるわけで、触れてから消えるまでのタイムラグを利用できる運動神経の持ち主なら、足場にできるのである。
「おー便利だな」
今は羽出し禁止だもんね、ヒュー。
「蓮華座より早く移動できます」
蛍さん、そういや翅より蓮華座連続使用で空中移動する人だったね。今は桜吹雪も使ってやって。
とまあ、こちらがこちらで体勢を整えておれば、PKも当然なにがしかをやってくるわけで。
「蜘蛛の巣的網がきたー」
「操糸」
蛍さんがあやとりで作った蜘蛛の巣で相殺。
「魔法攻撃かと思ったのに何もないわね…デバフだったのかしら?」
敵の魔法を敵を肉盾にして避ける系PvP覇者。
なおヒューのリフレクシールド(魔法反射)も度々発動。
「シュシュ姉が自主規制した麻痺だ~」
「麻痺って落ちるキィを捕縛術で回収」
「そして聖弓士が回復」
状態異常が通常攻撃っぽい輩もいるな。弓術:松葉でも飛ばしとこ。
「あっやべ、殴って飛ばしすぎたっス! 自己強化しない方がよかったすかねー」
「大丈夫大丈夫、まだまだ虚無は遠いから、海の底から戻って来てくれるって!」
ドンマイ!
ここが下部から消えるんでなく、周囲から縮まってくるステージでよかったな。HPさえ削り切らなければ、PKは何度でも甦ってこれるわね。メンタルブレイクしない限りだけど。
ゲームではいつぞやのハーヴェストイベントのロワイヤル、リアルではこの春にあった修行合宿ぶりの対多数戦だわ~。
久々過ぎてめっちゃ楽しい。PKたちよ、ありがとう!
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「つーかなんで襲って来たんだろうな」
楽しい時ってあっという間よね。
ステージの虚無る速度と迎撃のタイミングを図り噛み合わせ、滑り込んで次のステージを走り抜けながら、海ステージでのことを総括する。
解説はこの方、PKKを自認するNPC氏。
「私が誘導したこともありますが、変化獣を得て思い上がっていたことも原因かと」
彼はPK集団に紛れつつも我々とは上手く距離を取り、さらっとこっちに追従してきたのだ。敵意がないからいっかなーって放置してたわ。
話を詳しく聞くと。
そのPK群が我々に目を付けたのは、雲ステージでのことだったらしい。強風の空を自由に飛び回るヒューを見て、この海ステージ(実質飛翔禁止)を襲撃の舞台にしようと企んだ、ということだ。
雲ステージと海ステージの間にあった隘路ステージでは、変化獣を使い隠密行動。
その変化獣の形態の一つがタコのような、某宇宙から来た支配者? 的なような、な外見の生き物で。そこそこの広さのテント程の大きさ。それがタコ的擬態能力によるステルスを発揮していたそうな。
海ステージでその擬態を発揮していなかったのは、変化獣を使う前にこっちが牽制をしかけたから、らしい。
さすがにステージ入ってすぐには完全擬態できず、ステージのスタート地点では、例のPK経験者専用スキルが活躍していたと。
「タコの他の形態は、宮殿とご老人でしたね」
半円球の屋根がついた宮殿と眼光鋭い仕込み杖のご老人を想像中。
宮殿はともかく、海ステージに出てこなかったあたり、ご老人はこの想像と違い戦闘タイプではないのかもしれんが。
「奴ら、捕縛しないでよかったのか?」
死に戻りさせちゃったよね。
「あの変化獣との契約により、PK行為で返討ちに遭った場合は――」
溜めるね。
なんだろ。
悪夢でも見させられるのかな。SAN値直葬的な。
「美味しくて新しいタコ料理を提供し、変化獣を満足させなければならないそうです」
グルメな共食いタコだった。
「口に合わないと暴れ出します。味覚が人間のそれと違います。満足させられるまでPK業などできないでしょうし、もはやあのPK集団は崩壊すると予測します」
PK集団に引導を渡した潜入捜査員PKK殿は、そう言ってにこやかに笑んだのであった。走りながら。
…ライハ系の人種だわ、この人。
水曜(29日)、金曜(1日)、月曜(4日)の投稿をお休みします。
再開は10月6日(水)の予定ですが、無理そうなら活動報告にてお知らせします。




