78.ジン氏は仕事、ミナキマキは相性悪しの辞退だそうです。
「大いなる風よ! わたしを攫いあの彼方まで連れて行って!!」
「あの彼方は出口じゃねぇ、振り出しだぞ」
マジか。
「つーかたしかに風強ぇすけど、しょっちゅう風向き変わるっすよココ」
「逆風の時がキツいわね。盾が要るのかしら?」
「タンクかぁ重いじゃん、遠慮なく墜落する未来しか見えないねぇ」
「このステージは雲を渡る仕様ですが、重量は関係ないのではないですか」
雲、の形をした何かかな。遠目に見た感じだけど、乗った時の雲の沈み具体に個人差はなさげだから、あくまで背景に合わせた小道具みたいよね。
「ここじゃないけど~盾役を使い捨てすると楽に進めるステージはあるよ~」
安定攻略法とは時に世知辛いものですね。
さて今夜の我々は、流速遊園に来ております。
夕飯をもりっと食べて元気いっぱい、パーティを組みつつ個々を存分に発揮して自由に動き回り、叫び合い、歓談(グループトークを交えて)しながら、現在は空中ステージ走破中。
七人フルパなわけですが、なかなか面白い組み合わせとなっております。
「なんという個人主義と書いて勝手気ままと読む集団」
「その第一人者が何か言ってんぞ」
「オレはハナからソロっすけど、お嬢も大概すから」
「サイガ君は野性のソロを名乗っていいと思う」
「そいつは他のソロ民に譲るっす」
「私には必ずお兄様がついているので、ソロではないです」
「蛍ぃ、ソロじゃなくても、個人主義の塊集団もいると思うよぉ?」
「それはシュシュさんたちのことですか」
なんやてクドォ。
「思えば私は、いつもミナキかマキが一緒にいるわね。今日はいないけど」
「非公式PvP覇者ラウラ女史とその重臣二名~」
「…あら? いつその呼称が耳に入ったのかしら? キッチリ口止めしたはずなのに、おかしいわね?」
わたし、ヒュー、サイガ君。そこに蛍さん、ニコ氏、ラウラ。そしてピン活動中のキィ。この七名であります。
「ピンって。リィが流速遊園で役立てると思う~?」
流速遊園=ハードアスレチック。
「無理ですね」
リィ=運動音痴。初手から脱落するビジョンしか見えん。
お久しぶりな名前があるから、ざっと説明すると。
サイガ君はソロ豹獣人で、マグロ社長の息子。
蛍さんは小白川家のお嬢様の雪花さんで戦闘狂、ニコ氏は小白川に仕える上時の陽月氏で補助専門。
ラウラは最初の洞窟攻略でご一緒したミナキ君、マキ君との幼なじみパテメンで狂戦士。
キィはうちの情報双子の兄の方。
「シュシュが紹介してくれたおかげで、蛍たちともよく組ませてもらってるわよ」
ラウラたち一行と小白川一行がいい感じに馴染んでるようでなによりです。
思えばどちらも女1対男2の逆ハ構成だなと気付いたりしたので、ラウラと蛍さんには何か似た要素があるのかもしれぬ。
うちのイツメンも女2男4構成で、女子が少ないのだが。
傍から見ると女3男3構成なんだよな。主にリカム(性別不詳の男寄り)と双子(ロリ寄り)のせいで。
今の流速遊園遊び倒しツアーの面々は女4男3の陽キャパテに見えるかな。主に双子兄のせいで実態と逆比率。
話をダンジョンに戻して。
夏のピーカン青空に入道雲を背景にした、空ステージである。
ふわふわと浮かぶ雲の一部が階段となり、上に昇って次ステージの入り口を目指す。そんな単純明快なミッションなのだが。
・雲の一部が階段なら、さらに一部はダミー。
・流速遊園はすべて強制スクロールのステージ。
・下を覗けばそこは奈落の底(闇に呑まれて見えない)。そして徐々に上部に拡大中。
・肝心の階段雲は、時間経過で現れては消える仕様。
「はっしまったダミー踏んだっす!」
「シールドスローっ」
「弟の兄貴あざーす!」
弟で兄貴とは一体。
「ヒューがライハの弟で、かつ頼り甲斐あるから兄貴と呼んだという脳内経路はわかるのだが。この相反する性質をまとめちゃうサイガ君クオリティの妙よ」
ダミーの足場からすり抜けたサイガ君にヒューが盾を投げ、急遽足場を作ってやって別の雲に飛び乗らせた形。
シールドスロー(盾スキル)で投げた盾は、自動で回収される機能付き。ゆえに無くさずフォローに回せるとあって、ここにきて大活躍。
「AGIガン振りでもダミーに騙されちゃって役立たずとか。ざぁこざぁこ(ハート)」
「なんで急にメスガキってんすか」
「気分です」
ちなみにコレをライハにやると、マジでお仕置きされるのでやめた方がいいです。冗談だったと供述しても許されません。腹黒鬼畜笑顔氏こわい。あの時のリカムに合掌。
ともあれ上部にあるらしき次ステージへの入り口を目指し、一同ぴょんぴょんと雲を登ります。
「あら」
次は蛍さんがダミーの餌食に。しかし彼女にはアレがある。
「蓮華座」
消えたダミー雲の代わりのように、蛍さんの足元で綺麗な蓮の花が咲く。
「このまま移動ができるなら、皆様をお乗せできましたが」
蛍さんの固有スキル:蓮華座は移動不可。なので専ら、彼女が足を踏み外した時の足場としてしか使えていない。かろうじて蛍さんのすぐ近くを陣取るニコ氏にも応用できる程度か。
補助専門でも、ニコ氏は蛍さんの護衛役だからね、常に傍に居るの。
「小さいってほどじゃねーけど、七人は乗れなくね?」
ひらりと翼をはためかせ、パテメン間を巡回するヒュー。
羽ある人である鳥獣人なヒューにとって、ココはボーナスステージ。強風に巧く乗り、自由自在に飛び回っている。
ゆえに奈落に呑み込まれさえしなければ上も下も行き放題、加えて前述のシールドスローもあるので遠距離フォローもばっちりという便利屋さん化。
「蛍がクラスアップすればワンチャンあるぅ?」
「…戦略の幅が広がることを思うと、花が大きくなるより移動できるようになる方が望ましいです」
蛍さんめっちゃ真顔な気がする。遠くてよく見えないけど。
「さすが戦闘狂。協力プレイより個人戦力アップ」
「まあ、どっちかと言われたら、おれだってそっち取りたいかな」
そんな個人を取りたいヒューが一人で先に行っちゃわないのは、ステージによっては羽があっても必ずしも有利を取れるわけじゃないから。
別ステージでは、攻略の為に別スキルの協力が必要なこともあるのよ、ここまで来た経験上。抜け駆けすると、速攻一人で脱落しかねないのだ。
「姫さんが花で移動できたら、弟の兄貴みたいにフォローができるようになるってことっすし、それもアリすよね」
そうね。ただ、蓮華座って防御機構でもあるのよね。どちらかというと守衛方面の進化をする気がしないでもない。打って出たい派の蛍さんには黙っとこ。
「つーか。お嬢、一回もダミー踏んでなくないっすか?」
わたし? うん、踏んでないや。
「なんとなく勘で避けれてる、ね」
言われると不思議になるな。自分事なのに。
「シュシュちゃんてば、リアル第六感スキルぅ?」
「シュシュさんは、いつも感覚で動いているように見えます」
「猫獣人の私より身軽で直感が利いてるのなら…そうよね…」
「野生の本能~」
「さすがっす!」
「常に本能寄りではあるよな…」
失礼な。本能と理性のハイブリッドが常態ですよ。たぶん。
「何気に否定し切ってない」
…さすがに否定し切れるとは思ってない、自分でも(内省)。




