50.ファンタジックに夢を詰め込む
仲間内で意見が真っ二つな時には、それぞれの望むものを羅列して整理するがよろし。
両立が可能か不可能か、はっきりするからね。
「ライハの希望が一番具体的よね」
「だな。おれは希望というほどのものはない」
セキュリティの万全と、多趣味故の広い作業場の確保。おおざっぱに言って、ライハの求めるものはこの二つだ。
「対して、わたしやリカムは外観重視かな?」
「南国の高級住宅街にて、リラックスタイムを満喫したいという希望だな」
うん、大体おんなじ感じ。そこに加えて、わたしはミーハー気分で青空を映す大きなプールが欲しい感じ。
ただし泳ぐだけなら、RFAには湖だってあるし海だってある。どっちもモブ魔物出るけど。まあ潰せばいいし。
それをわかっていながらプールを所望するのは、プールサイドでビーチベッドに寝そべりながら、カクテル(ノンアル)やら肴やらをつまみたいだけ。
「うむ、わかる」
リカム同志。
「ついでに同時利用中のお互いの目線を遮る工夫なぞがあれば、全面的にシュシュに同意するぞ」
自由闊達に見えて実はストレス溜める系女子、リカムである。
「双子は? 希望ないの?」
「楽しさ一番~」
「おもしろさ首位~」
特に希望はないらしい。
「まとめると。セキュリティ、作業場、プール、完全分離、か」
「楽しいのがいい~」
「おもしろいのがいい~」
それ、真面目に希望だったのか。
「セキュリティ+作業場ってことで、地下室を作ればいんじゃね?」
「この辺りは地下むり~」
「転移門ダンジョン~シークレットダンジョン~」
ダンジョンな不思議パワーのせいで、地下一階ほどであっても掘削が不可であるそうな。せいぜいが天井の低い物置程度とのこと。
「地上にしか自由にできる余地はないということだね…うーん」
ライハも首を捻って考えている。
ロープで囲まれた、仮契約の土地を眺める。これはこれで、縦にも横にも豪勢な邸宅を建てられるほどには広いと思うんだ。
ここに平屋ないしはロフト付きコテージレベルのヴィラを七つ、コの字型に敷いて、真ん中にプールというのが、わたしの初期案。
リカムの案だと、窓や扉がそれぞれ見合わせないようバラけさせて七軒立てる感じかな?
いずれにせよ、セキュリティ面は個別管理になるし、まとまった広い部屋も取りにくい。
あ、隣の土地との境界、目隠し的な柵なり塀なりはどうしようね。そこも今から考えておいた方がいいか。セキュリティ目的ならがっつり組みたいけど、南国の蒸し暑さを考えると風通しよくもしたいという相反性。
「それならファンタジーな力技で解決できると思うよ。…まだ試作段階だけどね」
ぽんっとライハがふところから取り出した、赤褐色の四角いブロック。
「『水』を透過する。その条件を付与した透過石を一定量混ぜた、このブロック石を使う」
その条件付けをした透過石を使ったブロック塀なら、風が吹くと中にいてもきちんと涼感を得られるそうな。
「透過石の量によっては、雨に濡れると思わぬ状態になったりもするんだよね」
なので今は配合を試行錯誤している段階、と。よくわかんないけどわかった、そこはライハに任せます。
塀の素材が決まっているのなら、元に戻って住宅のお話。
「家も風通しを良くするなら、そのブロックを使いたいよな」
「どーんと広いプールにこだわるなら、スペース的にコかL字の洋館がベストかなぁ」
「離れというか別館扱いで、| ̄|のような形もできるな」
別棟にこだわるなら、 ̄がセキュリティ&作業&キッチンで、|と|に各部屋ということもできるか。
「? なんでプール真ん中だけ~?」
「? なんでプールちじょーだけ~?」
双子が不思議顔でよくわからないことを。
「青空を映したいなら~空に近いところ~」
「お空にういた、下からみあげるお空のプール~」
兎耳の双子が、すっすっと何もない空を指さす。
そしてそこに、大きな水の塊があるかのように。
「空のプールの上に、も一個プールで飛び込み滝~」
「地上につなげて長距離スライダーもいいよ~」
「地上に転置陣刻んだ小さなプール~」
「ちっさいプールからしゅんっと戻れる~」
ライハを見る。ライハの目の中に手応えのある光を見つける。
ヒューを見る。双子の言葉を聞くたびにわくわくしているのが気配で知れる。
リカムを見る。チーズフォンデュのプールとつぶやいている。それはさすがにイヤだ。
「ゲームだし~」
「リアルにないものもいーよね~」
「ライハよ、実現できそうか?」
「空中に水のプールを作るのなら。チーズのプールなら俺は遠慮するよ」
ライハに同意するのはリカムを除いた全員である。
「リアルでも屋上プールくらいならあるけど、そうじゃないんだよね?」
「人と水を通さなくて~」
「光を通すプール~」
空中に浮かぶ、実質ガラス張りなプール。透過石のスペックが如何ほどかわからないけど、できるかもと期待を寄せる。
空中プールの下は吹き抜け。水紋ゆらめく日当たりのいい地上には、上に戻るための転置陣を刻んだ水場さえあればいい。
空いたスペースは建物にするなり庭にするなり、ご自由に。
ん? なんか頭の隅に引っかかるものが。
「あ。ほら、前の、あれ、トーナメント戦の会場!」
小イベントと称して、バトルロワってからのバトルトーナメントったやつ。上中下の三つのエリアに分かれてたやつ。上が海エリアだったやつ!
「あれが実は透過石利用フィールドだったつーことか?」
「『人と水を通さない』でひらめいた! 真ん中の天井触ったけど、通り抜けできなかったもん!」
人と水を通さない、透明な囲い。
その特徴は、あの海フィールドにも適応できるのよ。




