35.史上稀によく見る私情
さて。
冒険者風の恰好をして、玉座前で居丈高としていたエルフ混じりのネムペルス王。今は使い込んだ冒険者な装いを改め、ギリギリ威厳を保てる程度の、ものすごく動きやすそうな軍服っぽい衣装をお召しになっている。
先程の謁見の間での恰好は、彼個人の事情によるものだったとか。
が、ひとまず彼個人の事情は事情として。
ネムペルスの真の王様は、代々冒険者業との二束草鞋が伝統だとか。表向きの王らしい王と、血統としての真王がいる、などなど、まずはネムペルス国自体の事情を。
かつての大陸、七島名物八大死霊の生前には、ヒューマン族以外の種族は迫害対象でありました。エルフも然り。しかしその頃にはすでにエルフの血を入れておりましたネムペルス王家。
当時新進気鋭のルアル=リーハ教。
これこそが人外排斥の要。
当時はエピレルス女帝国。隣国でありながら、そこにほぼ同化したり分離したりでのらりくらりのネムペルス。
ルアル=リーハ教の台頭、そしてエピレルスのルアル=リーハ国教化は、エルフの一派を取り込んだネムペルスにとって大事件。
王の血統を純ヒューマンに戻せと当然のように外圧がかかる。
そこでネムペルスすらっと逃げた。
見た目純ヒューマンの王を掲げ、エルフ排斥完遂を示した。
真王を裏に立て護り、保護したエルフ族の血を適度に継ぎ足しながら。
「森の麗番人との混血が如何様に作用したか、真王の血には外向きの探求心が溶け込んでいる。現代に冒険者ギルドと呼ばれる組織、真王の血がその黎明の裏に在った」
本拠地不明の冒険者ギルド、まさかのネムペルス発祥と判明。
大勢に知らしめる目的の『謁見』を終え、気楽な場に招かれてお茶なぞいただきつつ、真王様のお話を伺っている現在です。
気楽言うても、普通に豪華な調度品まみれの応接室? だけどな。
あ、メイドさんが美しい所作で入れてくれたお茶、めっちゃ高級~て味がする。
「ネムペルス真王は、ギルド長…ギルマスを兼ねていると理解しても?」
「王の仕事は表がいる。裏があまりに手持ち無沙汰ゆえ、暇つぶしに組織し長に納まったと言うが正しい」
ライハの質問は話が飛躍しすぎじゃん? と思ったら、そうでもなかった件。
「我は見た目がこうだ。長を自称するより、冒険者をしている方が不自然がないだろう?」
パッと見は十代の少年~青年だもんなオウサマ。
「……マジスオール(大陸最南端国)で見知ったNPC冒険者が、ネムペルスの真の王だった…上に、冒険者ギルドのギルマス兼任…」
呆然と呟くのは、いつぞやのテイマーおねーさん。こないだ陰陽姫をご利用いただいたパーティの方です。
そう、リーフレイテの内側で動いていた異界人とは、彼女たちのPTだったのだ。
この場には真の王様とわたしたちイツメンPTの他に、テイマーおねーさんのPTもいるのです。
あ、あとネムペルスの王宮の護衛さんやらメイドさんやらもだな。そっちはみんな無言で後ろに控えている。
「リーフレイテと三帝国への入国許可証を貰えた時点で、すごいNPCかもとは思ってたけど…」
知らずネムペルス真王のクエストを進行していたと。
「え、待って。オズ君、リーフレイテの王女様と身分違いの恋をしてたんじゃ」
「身分は釣り合わんこともない。立場が難しいとは言った。彼女は次期女王と目されているからな。女王にかかる呪の適性の問題もあり、現状のままでは我が国に迎え入れることは叶わん」
「え? え? 障害を取り除くことは可能って言ってたよね?? 奮起して手柄を立てて、王女の降嫁を目指すとかそういう話かと」
「エピレルスさえ潰せれば、リーフレイテとネムペルスが縁を結ぶことは悪い話でもない」
「推測していたより壮絶にヤバい案件だった!」
なるほど。会話の流れから察するに、ネムペルス真王=オズ君、マジスオールでテイマーおねーさんPTと遭遇、からのクエスト発生。
おねーさんの中では、オズ君とリーフレイテ王女の秘密の恋を大団円に持っていけばクリア、という認識だった。
蓋を開けたら、オズ君はネムペルス真王兼冒険者ギルドのギルマスで、エピレルスを倒して呪いを解いて、王女様をゲットする算段だったと。
「そっかー王様も手を回していたから、コーヤ君たちがすごくスムーズにモノを運べたんだねぇ」
リーフレイテからアーハイリー経由エピレルスへのお届け物byコーヤ氏のことか。『首長竜の攪乱』のきっかけになったやつ。
「混乱を招くに適した動きがあったゆえ、乗らせてもらった。貴様の策か」
「俺はエピレルスとコーヤ君を間接的に繋げただけですよ。何かの起爆剤になりうると思って」
「よく言う。エピレルスで用意されていた素材に、しれっと魔物誘引剤を混ぜただろう。わかる者にも気づかれないよう巧妙に」
「ふふ。エピレルスについては以前から俺も思うところがあったし、追い風となる動きをしてくれましたからね。繋げたら目指す方向が王様と一致したんですよ。望んでいましたよね、壊すことを?」
「ふ。貴様は我が国の暗部に、どこまで侵入しているんだ」
「王様がギルマスを兼ねているとは知らなかった程度ですよ」
「真の王には辿り付いていた、か。侮ってかかれない男だ」
「貴方は『拒絶の音』を求めていましたからね。そこから程なく見えてきましたよ?」
笑顔でバッチバチしてるライハと王様こわい。
「偶然にも、貴方と俺の利害は合致。ここは協力をしませんか?」
「偶然、か。我の持ち物を利用するために、合致させたのではないか? …いいだろう。しかし貴様の情報も寄越してもらうぞ」
「俺も思うところはあったと言いましたよね? 調査とすり合わせがなかったとは言いませんけど。まあ、…Win‐Winになりそうでよかったですよねぇ」
ライハ楽しそうだけど、王様の後ろの護衛さんやメイドさんたちの圧がすごいよ? 真王様、すごく慕われてるんだね! 今は見逃さざるを得ないが、それ以上付け上がりやがったら即殺すぞオラってオーラをひしひしと感じるよ!
「オズ君…一人称が我だしあの微妙に尊大な口調だから、何かあるとは思ってたけど」
「アホ貴族の放蕩息子かと思ってた」
「金銭感覚おかしかったし」
「剣を新調したいって話したら、武器商人呼びつけようとしてたもんね」
真王様、冒険者のふりしてるわりには世間知らなくない?
こそこそ後ろで内緒話のおねーさんPT。護衛さんたちの圧をものともしていないのは、NPCのRPとして受け取っているからなんだろうか。呑気だ。
「我が冒険者の形をしている時は、あの娘の元に通うためであることがほとんどだった。ギルドの依頼を受けたことは、片手で数えるほどしかない」
聞こえてた。そして恋に一途な世間知らずだった。王様、何歳なんだよ。
「が、冒険者の感覚も知識としてはあったぞ。あれは迂闊にも、冒険者を始めた頃の記憶が先立ったせいだ」
セルフフォロー…になってるのかな、これ。
冒険者始めます、だから家に商人呼びます! て冒険者、普通にいないと思うんだ。つまり最初からおかしい。王様、過保護されてんじゃね?




