107.森の中の木の上から見渡す鳥
『ヤバい。欝々過ぎて無理』
ため息しか出ないし、時空を曲げてその場その時に飛び込んで、最悪な奴ら全員叩きのめしたい。
幼児・児童の虐待。いわゆるそういうの。
その具体例については人数の分だけ多岐にわたるし、詳細を思い返すのもイヤだから、各自で気になれば調べてくださいな。検索に引っかかったものも引っかかっていないものも、およそすべてを網羅したものが今回の件に関連あり、とでも思っていただければ正解だろう。
RFA‐WAがゲーム内にまとめてぶっこんできたのが、その被害者たる子どもたちだったわけだ。正確に言えば、そうして命を断ち切られた魂の、天へと招かれる道筋を見失った寄る辺ない一片たち。
『どうどうどう』
『様々なやり方で実刑を免れた奴らにも、ちゃんと天誅は下したよ』
下された、ではなく、下したと言うあたり。
『具体的には?』
『とある専用の『街』にご案内。事情をすべて把握した職員だけで構成された職場が用意され、同じくそれらの人々とご近所づきあいをして生活』
『目には目を歯には歯を、陰湿には陰湿を。身の周り全部が監視員』
公然の秘密で、本人も他人もわかっていながら誰も何も言わない言えない収容所にinってこと?
例えば笑顔ながらにぎこちない挨拶。おしゃべりをしていても、誰もが犯罪者を見る目で見てくる。罵倒も私刑もない代わりに、同情や信用など得られるはずもなく。うわ居心地悪そう。
『すでに発狂からの通報・逮捕でめでたく法の裁きにあっていたりも』
『衆目の中での現行犯なら、言い逃れも買収もできないからな』
むしろそれが目的か。
『しかしそれ、一介のゲーム会社の社員にできること?』
『その辺りはノーコメント』
『一つ言えるのは、このゲームはエンタメのためだけに作られたわけじゃない、てこと』
北瀬(比悠たちの家)まで関係してるもんね。魔祓い的な事情のために作られた、ということはすでに明らかになっている。…他にも何かあるのかな? どう考えても、お上的な匂いがする。ノーコメント=触れるな。くわばらくわばら。
話を戻すと、マナカが言われたという『元は魔物だった霊』という説明、その実態は『元から霊体だった者』というわけだ。
虐待され、死した子どもの霊。
『実を言えば、さ。未だにそんなにあるなんて、って感想』
何世紀も前に、家庭内暴力等に関してはがっつりこってり法とセーフティネットが制定され、件数としては格段に減っているらしい。それでも現代に残ってしまっていることは、本当に嘆かわしい。
『マナカはそっちだけど、加害者は親・親類縁者ばかりじゃないからね…』
『我が身・我が子以外は家畜、そういう思想が消えたわけじゃないからな』
ああ、そっち。なるほど潜りがちなやつ。わかったわ。
『昔の事件記事で見つけた、実子や連れ子殺しってやつ?』
『うん、マナカ君はそれってことよね。加えて他のパターンもあり、って感じ? もっと深い闇の何かのナニカがあってね…』
誘拐とか脅迫とか云々とか。ディープ過ぎるからこれ以上は黙秘するわ。一応裏歴史的には学んでいて、大昔に根絶やしになったことだと思ってたんだけどな。
『一人で会話してんのウケる』
『ヒュー君とシュシュちゃん、どっちの発言か表情ですぐわかるね』
放っとけや。
つまり、RFAに取り込むにあたり、そういった傷ついた魂を集めた、と。
『いや逆。そういうのの処分に困って、放り込んだ形』
『浮遊しているだけの、さまよえる儚い霊のままで固定されるわけじゃないからねぇ』
何かのきっかけで強大な悪霊となる、もしくは別の悪霊に取り込まれる可能性はある。そういうことか。
ある意味で人助けの処置なわけね。
『この実験で上手くいけば、罪なき迷い御魂にはココで自由に過ごしてもらえることになるでしょ』
『そんで満足したら、円満成仏だな』
円満退社みたいに言うなし。
『ただ、どうしても魄と離れた魂は記憶とかが曖昧になるみたいでな~』
魄は死した後に地上に遺る部分だね。この場合はイコール身体って解釈で概ねいいと思う。
『比較的はっきり存在感が残っていたマナカ君の魂でも、きっかけがないと思い出せなくなっていたくらいだし』
『いわんや他の魂をや、てな』
『存在が希薄過ぎたから、『マナカ』と紐づけてようやく扱えたってとこ』
我々のあずかり知らぬところで苦労をしているらしい。お疲れ様です。
『つまり『マナカ』を核にして、RFA内に存在を留めさせていた…ってことか』
ヒューの解釈は正しいようだ。RFA‐WAがうんうん頷いている。
『マナカ霊のオーラの色だけ黄から橙、赤で移ろって視えていた? そうか、『核』の役割もあって目立っていたんだね。他も同じ仕様のはずだけど、意志が弱くて見た目にわからなかったんだろうな』
『こっちはどれがどれかわかってたからな…そこはもっと、わかりやすいように調整しておく』
敵にも味方にもなれる自由さ。オーラの表記揺れはその表れと。
今後もそういう個体が居れば、輸入霊と即判断してよさそうね。調整されてわかりやすくなるなら、情報班以外からも耳に入り易くなりそう。
そしてその赤いオーラの霊、マナカ君、だったものと言うべきか? は相変わらず氷柩の中でゴンゴンと硬そうなSEを奏でています。氷の内から立ち上る赤い色は、鮮やかなまま。
『彼を逆上させたもの。紐解いて落ち着かせられるかな?』
『これもバイトの一環だ。鎮魂なら、北瀬の弟が得意だったな。浄化系のスキルは…取得してないのか』
『補正なしでやることになるけど、リアルと一緒だと思えばいいかな』
捜索パート終了からの慰霊パート開始ってか。
『最悪、悪霊分岐からの討伐ルートもありだぞ』
非常に個人的にですが、それはやりたくないですね。




