13.輝石、その活用法
冒険者ギルドで覗いた掲示板には、採取チュートリアルのための依頼の他に、戦闘チュートリアルでゲットした天使の輝石、悪魔の輝石を求める依頼があった。
以下である。
[求 天使の輝石
[報酬 1つ5アール(500円)
[備考 現在数が不足しているため、
[ なるべく多くお取引願います
[受取 ルケの街 聖母教会
[求 悪魔の輝石
[報酬 1つ5アール(500円)
[備考 天使の輝石もセットであれば
[ 悪魔と天使2つに12アール出します
[受取 ルケの街 商業区3番街2の101
「悪魔の輝石の方に全部出した方が高いんじゃねぇ?」
「一見そう見えるね」
「なんかこう、ひっかけかもって疑念が~」
「この場合、2通りに意味が取れるな」
リカムがゲームメニューからメモ帳を取り出した。手元のスクリーンに映し出し、図にして解説する。
○←天使の輝石
●←悪魔の輝石
「手持ちが一人各10ずつだな」
解釈1つ目「悪魔と天使、の2つ」
●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○→12×10=120
解釈2つ目「悪魔と、天使2つ」
●○○●○○●○○●○○●○○+●●●●●→12×5+5×5=85
「すべてバラで引き渡すとこうなる」
○○○○○○○○○○●●●●●●●●●●→(5×10)×2=100
「うぬ…20の得と15の損か」
唸るヒューを横目に、うーんと考える。
「2000円の得か、1500円の損か、かぁ。悪魔の方と交渉したら得を取れる的な?」
住民とのコミュ力を見られる的な?
「そうかもしれないけど、2000円を取ると教会の方に1つも渡らなくなるのが気になるかな」
ライハの言うことも尤もだね。あっちは不足してるって言ってるし。
「選択肢はもう一つあるぞ。どっちも無視をして採取チュートリアルだけをするか、だ」
「これゲーム開始して持ってても意味あるのかな?」
「普通に考えてチュートリアル用だろ。たぶん意味なくなるんじゃねぇかな」
「二束三文にしかならないとかね。『現在数が不足している』だし」
「逆に、さらに高く売れるという可能性もあるな」
この輝石がこの世界でどういう位置付けなのか、わからないしなぁ。
受付のお姉さんに訊いても、「天使の輝石も悪魔の輝石も、ある種の魔道具に用います」としか教えてくれないし。
講習の時にもらった街の地図を取り出して睨んでみる。
「ここから聖母教会の方が近いみたいね。天使の輝石がどうして必要なのかを訊いてみて、緊急性に乏しかったら悪魔の方に高値で売り払うってのもアリかも」
おそらくこの輝石売りクエスト、ゲームの初期資金にプラスされるんじゃないかな。
店売りポーション1つが2アール50エフ≒250円らしいから、2000円多ければ8本分得を、1500円少なければ6本分損をすることになる。
MPポーションなら、1つ5アール≒500円。2000円多いと4本得、1500円少ないと3本損。
ポーションだけじゃなく、装備も買わないといけないから、資金は多ければ多い方がいい。武器は戦闘チュートリアルで使ったものをもらえるけど、性能はお察し+防具は自分で買え、だからね。
採取チュートリアルのみを受注し、まずはと聖母教会へぞろぞろ向かう。
「こんにちは~天使の輝石の依頼を見たんですがー」
兄弟は家が金持っているせいか、若干金銭感覚が怪しいし、リカムはやるとなればとことん値切ってしまうorふっかけてしまう系の女人なので、ここはわたしが出よう。
「どんな用途で使うのか、訊いてもいいですか?」
教会の扉を開いた中にいた、神父さん? に訊いてみる。天使の輝石を持っているとも持っていないとも言わないのは、依頼を受注する・しないをまだ決めていないためだ。
「異界人の冒険者の方ですか。ええお答えしますよ。
天使の輝石は、簡易の守りの魔道具に使われます。
その細工の下処理をこの教会に併設している孤児院の子どもたちに任せ、その後私たち教会の者が魔道具に加工します。
そうして売って、そこから幾ばくかの収入を得ているのです」
「なるほどー。悪魔の輝石というものもあるらしいですが、そっちは何に使うのかご存じですか?」
「悪魔の輝石は、敵を滅する力を微量増加させる魔道具に使われるはずです。
加工前の悪魔の輝石に手を加えようとすると、わずかにですが抵抗を受けるため、子どもたちには使わせない素材です」
「よくわかりました、ありがとうございます」
孤児院の経営の足しになるなら、そっちの方が心情的にいい気はする、かな。神父さん?も、物語なんかでまれによくいるピンハネ悪徳聖職者じゃないっぽい感じがするし。勘。
「ここで決めようと思う人~」
「おれは悪魔の輝石の方の話も訊いてからかな」
「俺も」
「急ぐ必要はないな」
教会を出て道の端で井戸端会議。いやぱっと見て井戸なんて見当たらないけど。もっと路地裏の方に入ればありそうな雰囲気だね。今は特に探さないけど。




