0.イチとゼロの世界であそぶ
よろしくお願いします。
碧玉、瑪瑙、琥珀、血石、針水晶。羽織る唐衣は虹色錦に数多の玉と金の刺繍。幼い顔に紅を指し、真珠の扇でふわりと覆う。
ちらりと流し見た先を、扇の一振りより生じた不可視の矢で射貫く。
おぉぉおぉと唸る不定形の黒靄が散る。
暗雲をさらに一瞥。扇を持たぬ手を軽く振り、雨雲を退かせた。
ふっと和らげた翠の眼。目の端に薄紅色の爬虫類の鱗。豪奢に結い上げられた真白にも見える桃髪を傾げ、背中の一対の白き羽を大きく揺らす。一度、二度。
『わらわの てを、わずらわせないでおくれよ』
拡声の魔法便利ぃ!
距離を取らせておいた、悪霊型ボスに全滅させられそうだったプレイヤーのパーティに釘を刺す。ゲームの管理AI的には倒せそうと踏んだものの、外部的要因によりヒーラーが落ちてしまったのだ。ボスにメイン回復なしで挑むとか無理ゲーすぎる。
ログアウトした理由までは知らないよ?
しかしこのクエストを受けた時に、『万全を期して挑んで欲しい』とかなんとか説明を受けたはずだ。トイレとかの生理的欲求だったら準備不足ですよ。しょうがないことではあるんだけどね。
「陰陽姫…」
「陰陽姫?! プレイヤー名見えない!」
「戦ってるところ初めて見た」
「手強いレイス系と戦ってると稀に出くわすっていう?」
「ロリだぁ」
「事前に依頼をすると手伝ってくれるらしいぞ。悪霊限定で」
まーこういう時に出動するのがわたしたちの仕事になっちゃってるし、その都度の臨時召喚手当が出るからいいんだけど~そういう意味ではウェルカムだけど~。自分の冒険時間が削られるぅ。
って、特別な術とか使ってないからね? みんなと同じ、プレイヤー用の技や魔法しか使ってないから。創造魔法で派手めの演出をする時はあるけど。
というか悪霊系統専門のお助け業やってるからって、その呼び方はないと思うの。エクソシスト…神父…あれ、陰陽のがマシに思えてきた? 退魔師、祓魔師とか! うん、そっちの方がかっこいい!(主観)
今の姿が本体よりロリってるのは、うん。まぁ、趣味だ。たぶん誰かの。
(おれの趣味じゃねーよ)
(あなたのじゃなきゃなんだってのか。わたしにロリ趣味はないのですよ。ショタならともかく)
(ショタ趣味ならあるのかよ!)
融合してると思考がダダ漏れなのよね~隠せばいいんだけど、まぁいいかで漏れさせてるから。
(思考で弄るのはやめてくれ…で、この場はこれでいいだろ)
(手配書は…うん、ヤバめ悪霊調伏のお願い…任務完了かなっ)
『そのほうらの てだすけは、これきりに ねがいたいものぞ…せいぜい、しょうじん せよ』
謎めいた、神秘的な和ロリRPアバターなプレイヤーが今の役どころ。言葉遣いもほーら完璧☆
「ツンロリだ」
「ツンロリだな」
「ツンロリ和製女神」
なんやて?
(どうどう。ログアウトすればうちの兄貴特製のバスクチーズケーキが待ってるぞ)
(OKハニー、チーズケーキはわたしのものだ)
(ダーリンと呼べ。そんで、ケーキはおれも食う)
では、さらばじゃ~と消えたいが、そんな便利な魔法はまだ習得していない。RFAに存在するのかも知らない。ばっさーと羽を翻して上空へと飛び去るのみ。がんばれ羽担当!
(羽担当…)
(矢面担当はわたしだからね)
RP考案も衣装デザインもわたしであるぞ。わたしの本体なら獣形態があるから、どっちも要らないものだったんだけどな~。羽担当がね、獣形態持ってないからね。たぶんそのせいで人型な人外で固定されているのではないかとか。
(せっかく今の種族が羽毛ある蛇になってるのに、ロリアバのせいでそう思われたことがないっていう)
大抵の人の初遭遇では種族不明扱いですよー。
別にいいけどさ。
「あれってプレイヤーだよな? パーティ組んでないのに報酬がこっちにも来てるぞ」
「お前ここまで来て知らないの? 倒せなくてもボスならHP削った分の通常報酬はもらえるんだぞこのゲーム。初撃破とかレアとかの特別なものは倒さないともらえないけど」
「てことは初撃破報酬を持っていかれたのか!? クエスト条件満たしたのは俺たちだぞ!!」
「いや、陰陽姫に限っては、なぜかスライドするんだよ、次に。だからクエストクリアをキャンセルして再挑戦すればいいってこと」
「は? 運営側?」
「知らね。噂はある」
「先に言っておくけど、フレの伝手なんかで辿れないから、接触しようと思ったらギルド使って依頼するしかないぞ」
「掲示板にファンスレあってさー情報提供すると謝礼くれるって」
「指名手配犯か」
「ファンの追っかけだろ…」
謎めいた、神秘的な美幼女戦士なんだよ、わたし(たち)は!!
決して指名手配なんかされてなーい!
どちらかと言えば、英雄視されるのを目指す感じだと思うのだ。要求されている『陰陽姫』像からすると。
変身して戦うヒーロー的な?
普段はごくふつうにゲーム大好き女子高生と男子高生。ゲームの中でもごくふつうに冒険を楽しむ1プレイヤー×2。
しかしてその実態は!
…実態もプレイヤーだな。ただちょーっと人助けすることがあるかなーって感じの。そういう『お仕事』を任されちゃっただけなんだよ。
遊びの場所が時々職場。
そんな日常になっちゃったお話。
次から数話キャラクリ編。
読んでもらえると嬉しいです。




