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異世界転生者は悪魔に夢をみせるか?  作者: Nasuka
一章 夢見る女王と妖瞳の聖騎士
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#3 理から外れた者

 城塞都市マルテに滞在するようになってから三日が経ち、冒険者ギルドからセティに新たな依頼の話が舞い込んだ。ネージュからの依頼は今すぐに達成できるようなものではなく、手持ちの資金も少なくなっていたので、セティは朝早くから朝顔亭に赴いて依頼の詳細を聞くことになった。


「今回セティさんにやっていただきたい依頼は商人の護衛です。」


 朝顔亭の亭主兼看板娘のアネット・レスリーはカウンターで書類を片手に話す。朝顔亭の亭主だった亡き父親からこの店を引き継いで運営を一人で担っている彼女だが、冒険者への仕事の斡旋も彼女が行っている。

 セティはまだ眠そうな顔で髪を弄りながら質問をした。


「護衛か。どっか外へ行ったりする用事でもあるのか?」


「はい。西門からそのまま西へと進んだ先にフォンの森と呼ばれる場所があります。その森にある集落から来た方なんですが、盗賊の目撃情報があって帰れなくなってしまったみたいなんです。」


「なるほど、それで護衛か。」


 マルテは商業が盛んな分、商人を狙った盗賊が多い。彼らは警備が厚い城壁の内側ではなく、必ず城壁の外で活動する。都市を警備する兵士を護衛として雇うとなると高額な金が必要となってしまうため、そういった盗賊達から商人を護衛する仕事はもっぱら冒険者に任されやすい。


「だが、護衛を冒険者に成りたての俺一人に任せて大丈夫なのか。俺は別に構わないけど、依頼人が納得しないと思うんだが。」


「いえ、一人ではなく――」


 そうアネットが言おうとした瞬間に、タイミングを見計らったように朝顔亭の扉が開く。


「フォフォ、お待たせして申し訳ありませんな。」


 特徴的な笑い声とともに、いつもと変わらぬ様子のコンラッドがカウンターへとやってくる。それを見た二人は心底嫌そうな顔で彼を出迎えた。


「ということなんです。」


「ああ、理解した。だが、爺さんも冒険者なのか?」


「そうですぞ。お嬢様の付き人となる前は冒険者をやっておりましてな。」


 コンラッドはまるで手品のように小さなナイフを一瞬で取り出してセティに見せつける。ただの人間がどういう経緯で上位魔族の付き人になったのか気になっていたが、以前は冒険者だったという情報は胡散臭さが更に増しただけだ。変に勘ぐってもそんな情報がやたらと出てくるのだろう。


「とりあえず、依頼人の方は昼頃にこの酒場にいらっしゃるみたいですので、それまで準備をお願いいたします。」


 アネットがそう言った後、セティとコンラッドは了承して朝顔亭から出る。そろそろ商業区も賑やかになってくる時間帯となり、大通りを通る人々も数が多くなってきている。この人混みが何となく苦手なセティは後髪を掻きながら呟いた。


「準備と言ってもな。何を準備すればいいのかさっぱり分からん。」


『フォンの森はそう離れてはおらぬから、昼に出発すれば明日には帰って来れるじゃろう。水と食料を買っておくだけで良いのではないか?』


 セティが困っているみたいなので助言をした。セティも自分に助けを求めて呟いたのだろう。しかし、その場にいたもう一人の人物もセティに対してこう言った。


「セティ殿は装備などは整えなくてよろしいのですかな?」


 当然の疑問だった。セティの今の服装は冒険者としてはあまりにも軽装で、マントこそ羽織ってはいるが、マントの下は露出度の高いノースリーブの上着とショートパンツといった具合だ。また、武器などは一切携帯していない。


「俺は軽くて動きやすい服装のほうがいいからな。蹴りやすいし。」


「なるほど。では、魔術などはお使いになられるので?」


「魔術か。一応聞いてはいたんだけど、何かと難しいらしくてな。」


 魔術とは自らの身体に流れる魔力を扱い、世界の理を一時的に歪める術のことだ。小規模な火を起こすものから、自身の身体を強化するもの、天変地異並みの事象を起こすものまで様々で、使いこなすことができれば大きな力となる。

 ただし、大規模になればなるほど扱いが難しくなり、扱いを間違えれば世界の理を元に戻そうとする力に飲み込まれてしまう。無理に魔術を使おうとした者の末路は、魔力欠乏による死か世界の理を元に戻そうとする力に飲み込まれたことによる消滅かの二択となる。そういった危険性から、魔術が主に用いられるのは戦闘などに限定されている。逆に魔術を使えない時点で戦闘で不利になっていると言えるだろう。


『ふむ、セティの身体は少し厄介なことになっておってな。魔術の類が一切使えん。』


「どういうことですかな?」


『身体の一部がこの世界のもので構成されておらぬ。その弊害で世界の理から外れた存在となってしまっておってな。それ故に、世界の理と接続する魔術というものが使えないというわけじゃな。』


 前例がないとはいえ、これは想定されていない事象だった。たった一部分でも理から外れたもので構成されれば、理に干渉できなくなるというのはさすがに想定できなかったのだ。


『だが、理から外れておるということは魔術による干渉もできない――つまり、魔術が効かない体質となっておる。良くも悪くも、じゃがな。』


「事情は把握致しました。要らぬ気遣いだったようで申し訳ない。」


「そういえば、マルテから離れることになるけど、ネージュの傍に居なくて大丈夫なのか?」


「いえいえ、ご心配には及びません。むしろセティ殿に付いていけと言われたのですよ。聖騎士の動向も気になりますからな。」


 コンラッドは先ほどとは打って変わって真剣な面持ちでセティに告げる。神聖教団の精鋭である聖騎士がマルテに潜入しているという情報は、この三日の間に確証が得られるものになっていた。銀色の甲冑を着た騎士が領主館に出入りしている目撃情報があったからだ。


「実は彼らはマルテだけではなく、周辺でも目撃されているのですよ。」


「ふーん。まぁ、邪魔さえしなければ別に構わないけどな。」


『わらわの経験則じゃが、聖騎士が関わることにろくなことがあった試しがないのでな。油断しないほうがよかろう。』


「そこまで言うほどのものなのか?」


 聖騎士がわざわざ魔界に近いマルテに来ることなど早々ない。そして、各所で目撃されているということは、十中八九何かを企んでいると思われる。魔族にとって彼らは天敵だ。警戒するに越したことはない。


「さて、水と食料を買いにいくということでしたな。良い店を紹介致しますぞ。」


「ああ、頼む。どうもこの人混みは苦手でな、案内を頼めるか?」


「承知致しました。」


 コンラッドはセティに手を差し出し、セティはそれを握ると、二人は人混みの中へと入っていった。コンラッドは心なしか愉快そうで、セティは人に押されて少し嫌そうで、傍から見ればお爺さんとその孫娘に見えなくもない。そう思いながら、依頼人が来るまでの時間は過ぎていくのだった。

今回も世界設定の説明回となってしまいました。

次からはいよいよ依頼を受けて話が動いていきます。

次回は4/22(月)更新予定。


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