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ゆーれー  作者: HERMES
6/7

6話

 女は、新妻を見つめていた。

 今、旦那の愛を一心に受け、血が繋がっていない息子のタクにも愛情をそそぐ、良妻賢母という言葉がよく似合う女。

 赤ん坊は今、ミルクを飲んで眠っていて、タクはどこかへ遊びに行った。

 旦那と新妻は二人、リビングでお茶を飲んでいた。


「……それにしても、お前が来てくれてからなにもかもがうまくいってる気がするよ」

「あなたも頑張ったでしょ? 今まで散々苦労してきたんだから」


 新妻は旦那の肩に頭を乗せてもたれかかり、甘える。

 旦那はそれを優しく受け止めて頭をなでた。


「まあな。タクもお前に懐いてるみたいだし、良かったよ、とにかく」

「タクちゃんはいい子よ。もうお母さんて呼んでくれるし、赤ちゃんも可愛がってくれてるみたいだしね」

「あぁ。……タクには前の嫁の時に、随分つらい目に遭わせたからな。どうなるか不安だったけど」

「……アザ、だいぶ消えたみたいね」

「あぁ……」


 旦那は昔を思い出していた。

 前の妻と結婚したのは5年前のことだった。当時は、美人で礼儀正しい彼女の本性を知らなかった。

 おかしいと感じ始めたのは、当時飼っていた犬が死んだときだ。

 あのとき家には彼女しかいなかった。

 彼女は、自分が犬を見に行った時には既に死んでいたので、病気だったのだろう、と言ったが、後で獣医に診せると、明らかに虐待の痕があったと言う。

 そして、決定的だったのは、タクが生まれてから。

 夜遅く帰ってくると、いつもどこかに怪我をしているタクの姿があった。

 どうしたのかと聞いても、転んだだのぶつけただのと言っていたが……。

 そして、そのことを妻に尋ねると……癇癪を起こして家中をめちゃくちゃにした。

 それから、ことあるごとにタクへの虐待と僕への暴言・暴力、癇癪はエスカレートしていった。



(僕もそれになんども怒り、時には手も出したが……止むことはなかった)

(そのころから、職場の同僚だった今の妻に相談を持ちかけ、そこから付き合いが始まったのだが……)


 結局、一年前に交通事故で妻が死ぬまで、それは続いた。


「タクには悪いことをしてしまった。父親だというのに、ろくに守ってやれなかったし……」

「悪いのは、前の奥さんでしょ? 自分を責めないで」


 そう言って、新妻が旦那の首に腕を回した。そして頭を抱える様に旦那の頭をなでた。


「あぁ…そうだったな。とにかく、やっと1年経って、前の嫁のことは忘れかけてきたんだ。この一年、盛り塩を欠かしたことはなかったしな」

「盛り塩って玄関の前の……あれってそう言う意味だったの?」

「そうそう。知り合いの坊さんに言われてやってたんだよ。それも、玄関の前だけじゃなく、16方位全部に。それで、悪霊の防げるんだってさ」

「悪霊ってw」

「悪霊だろ〜あいつが戻ってきたら、なんて考えたらぞっとするな」


 女はその会話を、ずっと聞いていた。

 女は反省した。

 自分では駄目だったと。母親としても、子どもになにもしてあげられなかった。

 そして愛する旦那に、こんな苦労をかけていたとは女は知らなかった。

 自分じゃ、この人にはふさわしくない。

 自分では……。


 そう思うと、全てを持った新妻が羨ましくて仕方がなかった。

 なぜ自分にはなくて、この新妻はあるのか。

 どうしてこの新妻が、旦那と子どもの側にいられるのか。

 この新妻じゃないと、家族とともにいられない。

 そして、結論は出た。計画通りだった。


 女は、旦那に甘える新妻にそっと近寄っていった。

 そして、壁を抜けるときと同じようにして新妻の体と自分を重ね合わせた。





 …………

 ………………


「おい、どうしたんだ?」


 夫が、急に眠ってしまった新妻を揺さぶる。

 そこで、新妻は目を覚ました。


「…………」


 新妻は旦那を見つめる。

 そして、いきなり抱きついた。


「なんだ?」

「愛してるわ」

「い、いきなりだな」


 夫は照れて笑う。そして


「俺も愛してるぞ」


 そう言った。

 新妻は、それに、この上ない笑みを浮かべ。


「そう。嬉しい……ふふふ」


 そしていったん、旦那から離れた。


「ん? どうしたんだ、一体。体調でも悪いのか?」

「えぇ、貧血みたい。ちょっと散歩してくるわ」

「貧血なら、横になってた方がいいんじゃないのか?」」

「いいのよ。歩いてたほうが楽だわ。それに、すぐ戻ってくるから……あ、ついでに買い物行ってくるわね」


 そう言って、新妻は出て行った。

 旦那にばれない様に、……と、レインコートを持ち出して。


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