4話
男はまた、家の前まで来ていた。
「ここですよね」
「はい、あぁ……懐かしい」
女はさも嬉しそうに家を見上げる。
「それじゃあ、会ってきますね。しばらくの間、家の中で夫と息子を眺めていますから、あなたもどこかで時間を潰しててください」
「そうですか。じゃあ1時間ぐらいで。どうぞごゆっくり」
そう言って男は歩き出した。方角からして、近所のデパートにでも行くのだろう。
女はそれを見届け、家の中に入っていった。
もちろん、女は幽霊なので、男以外の人間にその姿は見えないし壁もすり抜けられる。
庭から壁をすり抜けて中にはいると、リビングだ。
中では女の家族……いや、それに旦那の新しい妻と赤ん坊がくつろいでいる姿が見えた。
「おぎゃーおぎゃー」
「お〜よしよし。いい子でちゅね」
新妻が赤ん坊にミルクをあげていた。それを優しそうに見つめる旦那。
「だいぶ飲むようになったなぁ……また大きくなったんじゃないか?」
「この間体重はかったら、また重くなってたのよ」
赤ん坊は新妻の腕の中で毛布にくるまり、ほ乳瓶を吸っていた。
「お義母さん、僕もミルクあげたい!」
子どもは赤ん坊に興味津々のようで、ずっと見上げていた。
「はいはい、それじゃタクちゃんもあげてみて。優しくね」
新妻がそう言ってほ乳瓶を渡し、子どもは椅子にのって慎重に赤ん坊にミルクをあげていた。少し緊張している様な、嬉しそうな顔。
「うわ、すごい勢いで飲んでる」
「元気な証拠だな。タクもお兄ちゃんになるんだから、ちゃんと面倒みるんだぞ」
旦那は嬉しそうに、そんな家族の様子を見つめている。
幸せな家庭の姿がそこにあった。
そして、それを部屋の天井近くから見下ろしている女。
その目は鋭く細められ、信じられないほど冷たく、憎悪に満ちていた。