1話
僕ですか? ただの一般人ですよ。
え? 霊能者? ああ……昔の話です。今はもうやってませんよ。
何で止めたのか……そうですねぇ。まぁちょっと昔の話なんですが
男は霊能力を持っていた。幽霊を見るだけでなく、話したり触ったりもできた。
そんな能力を、男は世の中のために役立てようと、事務所を開いた。
男はその能力で除霊や占い、また、成仏できなくなった幽霊を成仏させる、などの仕事をしていた。
ある日のこと……男の元に、一人の女が現れた。
「あのー」
「はい、すいませんが今日はもう閉店です。……いや、幽霊さんでしたか」
一見すると普通の人間だが、男にはすぐに分かった。人間とは違い、薄く透けて見えたから。
「あなた、やっぱり私が見えるんですね?」
「はい、いちおう霊能力者ですから」
霊能力者とは、人間と幽霊をつなぐ案内人のようなものだと男は考えている。
そんなわけで、男のところに来るのは人間ばかりはなく、幽霊が訪ねてくるというのも珍しいことではなかった。
「実は、相談があって来たんです」
「なんでしょう、成仏ですか? だったら、すぐにでも始められますが……」
「いえ違うんです」
女は慌ててそれを否定した。
「私、一年ほど前にいきなり交通事故で死んでしまって。夫と子どもがいたんですが……それ以来、家族の顔を見に行ってないんです。だから、一目会いたくて」
「なるほど。ご自分の家は覚えてますか?」
女はうつむき、悲しそうな表情で
「それが……分からなくなってしまって」
未練を残して死ぬと幽霊は成仏できない。だが、その未練が何なのかすらを忘れてしまうということもたまにある。
そうなると厄介で、そのまま成仏できずにこの世をさまようことになってしまう。
男は納得して
「なるほど……それでは、あなたの家を探せばいいのですね?」
「はい、お願いします」
そう言い残し、消えていった。
話はさくさく進んでいきますんで気楽にどうぞ^^