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彼方よりの。  作者: 秋生侑珂
第二章
27/34

涙と花を・四

前回からの続きです。

 山中の森に蒼白い閃光が幾度となく走る。

 泥の塊を捏ねた様な歪な形の人形ひとがたうごめき、あきらに向かう。

 彼は敵――あやかしの群れを、取りこぼしのないよう常に視界内に捉え続けながら迎え撃った。

(『ゴブリン』が小型、大型併せて八、『ガーゴイル』が三……数は違うが、『あの時(・・・)』と同じ様な構成か……。頭にくる連中だな……!)

 誠は内心で吐き捨て、敵に雷撃を浴びせる。

 自身が動き回ると紗慧さえを追おうとする個体ものを逃しかねない為、彼はその場に留まったまま攻撃している。

 誠達退治屋が『ゴブリン』と呼ぶ泥人形の様な妖の全てを、放った雷撃で薙ぎ払うと、その攻撃の中で辛うじて残った『ガーゴイル』達が背中の羽を使って空中へ逃れようとした。

「行かせるかよ!」

 彼はすぐさまそれを追って地面を蹴り、大きく跳んだ。

 妖の側に近い『闘身』となった身では、普通の人間ではあり得ない程の脚力で跳ぶ事が出来るが、誠はその上で翼を有している為、文字通り空を飛ぶ事まで可能だった。

 誠は間近に迫った一体の足首を掴んで強引に引き寄せながら、他の二体へ向けて電撃を放ち牽制を加える。と、同時に、引き寄せた妖を空いた方の拳で殴り、身体を捻って上から下へ向けて蹴り落とす。

 『木気(もっき)』の力を強く有する誠は、『金気(こんき)』に属する『ガーゴイル』とは本来相性が良くないが、彼の闘身が発揮する力と『気』そのものの出力は非常に大きく、『ガーゴイル』程度の相手であれば相性の不利を覆す事も容易だった。

 『気』の力が籠められた蹴りを受けた『ガーゴイル』は、身体の真ん中から二つに折れ曲がり、落下していく。

 それを視界の端で捉えて確認しつつ、彼はほかの二体も逃がさず追う。

 二体は逃げ惑う様に見せ掛け、左右に分かれた後誠を挟み撃ちにしようと各々折り返して向かってくる。

 誠は躊躇せずに左側の妖へ突進し、攻撃を受ける前にソレに殴り掛かった。そして、左手でその頭を掴み、右手で手刀を作り『気』を籠める。

 右側から迫った敵を手刀で思い切り横薙ぎにすると、ソレの胴体は真っ二つに裂け、その場で粉々の塵になって消え去った。

 誠は妖を掴んだ手を激しく放電させながら、そのまま眼下の地面にスピードを出して向かう。

 先に蹴落とした妖が倒れ込んでいるところへ、掴んだまま妖を力任せに叩き付け、いかづちを落とす。

 二体は真っ黒に焦げ付き、やはり塵と化して後には何も残らなかった。

「…………これで全部だな」

 誠は辺りの気配を探り、周辺に他に妖が潜んでいないか確かめてから息を吐いた。

 改めて周りを見回すと、誠の放った雷撃に巻き込まれた草地は所々焦げて荒れていた。

 上手く木々を避けた為、周囲で火が上がる事はなかったが、足許あしもとに眼を移すと、地面が抉れているのがはっきりと見て取れる。

「……………――――」

 誠は、再度強い憤りを覚える。

 二度同じ場所で妖を相手にし、その跡を残す事になってしまった。

 何より、この場所で命を落とした者がおり、その死を悼む為に来たというのにも拘わらず、その場所を荒らす結果になってしまった事に、彼はやるせなさを感じずにはいられなかった。

 出来る事なら、せめて静かな場所であり続けて欲しいと願っていた矢先でもあったのだ。それを台無しにしたのは現れた妖だったが、誠は自分自身が踏みにじった様に思えてしまう。

 しかし彼は自身の感傷は一先ず置いておき、思考を切り替える。

 以前にも連続して妖が現れた例もあった事から、警戒はするべきだと改めて気を張り直し、彼は紗慧の気配を辿ってそちらへ向かった。



 ――紗慧は逃げた先で息を潜める様にして闘いが終わるのを待ち、誠の無事を祈っていた。

 彼女は彼が強い事をよく分かっていたが、それでも『この場所』では無性に不安を掻き立てられる。

 頭では彼が負ける事はないだろうと確信してはいるが、半年前に焼き付いた『死』のイメージは簡単に拭い去る事は出来ず、動悸が治まらなかった。

 時折聞こえる轟音や瞬間的な光を意識していた彼女は、それ等が止んで静まったと思えても彼の姿を見るまでは安心する事が出来なかった。

 やがて、気配と共に草葉の擦れ合う音がして、闘身のままの誠が現れた。

「……誠君」

「……無事だな」

 彼女を上から下までざっと見て、彼は小さく言った。

 闘身で発する声は生身の声とは異なっており、彼の場合、普段よりしゃがれた様な声になるものの不思議と響く声であり、小声であっても一定の圧を伴っている。

「うん、大丈夫。誠君は……怪我は……?」

 紗慧は僅かに掠れた声で尋ねる。

「……別に」

 いつもと同じ様にぶっきらぼうに答える彼に、紗慧は無理矢理にでも笑みを作ろうとした。だが、まだ強張りが解けず上手くいかない。

 誠は紗慧の表情にもそれ程頓着せずに周囲の様子を窺い、

「……もう大丈夫そうだな。常世とこよが開く気配はない」

と、独り言の様に呟く。

 そして、闘身を解いて生身に戻った。

 紗慧は、身体を支える様に手をついていた木から離れようとして、不意にふらついた。

「――――っ!」

 誠は反射的に彼女の腕を掴まえ、転ぶのを防ごうとしていた。

「ご、ごめんなさい。気が抜けちゃったのかな……?」

 強い力で引っ張られ、そちらへ倒れないように慌てて踏ん張りながら、紗慧は謝りつつ顔を上げる。

「……至近距離で常世が開いた所為もあるんだろう。部分的に『向こう』と繋がる瞬間だからな。それだけじゃなく、妖が単体で纏っている以上の『瘴気』がその場に漏れてくる。人間にとっては基本的に悪影響しかない。直後に走れたなら深刻な状態じゃないだろうが……」

 言いながら、誠は紗慧の『気』の状態を見、様子を窺う。

「大丈夫。だと、思う。ちょっとふらついただけ。さっきは凄く気持ち悪かったけど、その程度で済んだのは誠君が庇ってくれたからだよね? ありがとう」

 紗慧はようやく浮かべられるようになった笑みを、感謝の気持ちと共に彼へと向けた。

「…………平気なら、それで良い。変に強がられると困るが。俺は『普通(・・)』の人間じゃないからな。その辺の影響の受け方に関しては、他人のそれは自分の感覚で測れない」

 彼は掴んでいた腕を離し、顔を彼女から逸らす様にして言った。

「本当に大丈夫」

「……もし、帰った後で調子がおかしくなったりする様なら、隆司りゅうじさんに連絡しろ。能力は『調整師』程じゃないにしても、他人の『気』の状態や身体を、ある程度()られる退治屋もいるらしい」

「分かった。少しの間は気を付けてみるね」

 紗慧が頷いて返すと、誠は来た道の方へ振り返った。

「動けるなら戻るぞ」

 言うと同時に歩き出している彼を、彼女も追う。

 まだ半裸のままの彼の背中を見、紗慧はつい先程までそこ(・・)に翼があったのだと思い出した。

 彼が闘身になった際に飛べるのは翼があるからだと、紗慧も理解していたが、先の様に、それを使って他者を『瘴気』から守る事も出来るとは思いもしなかった。

 ただ妖と闘えるというだけでも、紗慧から見れば途轍もない事だったが、彼は自身の身体の機能を駆使して彼の言うところの『普通の人間』を守っているのだと、彼女は改めて実感する。

 守られる側の人間には何が出来るのだろう――紗慧は彼の後ろを歩きながら、胸に不安の名残を抱え考えていた。



 『その場所』に戻ってくると、先までの闘いが嘘の様に辺りは静かだった。

 木の根元近くに供えた花は、全てではないが多くが吹き飛ばされてしまっていた。

 それでも何輪かは、その場に無事なまま残っていた。

 紗慧は周辺に花が散っていないか探して確かめる。

 誠はそんな彼女を横目に、脱ぎ捨てた衣類と靴を回収して身に付け直した。

 紗慧が残ったカーネーションを整えていると、横へやってきた誠が、しゃがんでいた彼女に手を差し出した。

 彼の手には数輪のカーネーションが握られていてた。

「……向こうに落ちてた。これ以外は見つからなかった」

 彼も服を拾うついでに探していたのだと察し、紗慧はそれを受け取って微笑んだ。

「ありがとう」

「………………」

 誠は少し黙った後、小さな声で言った。

「……悪かったと思ってる。俺も、出来ればここで闘いたくはなかった」

 紗慧は花を握ったまま首を横に振った。

「誠君の所為じゃないもの」

「…………ああ」

 彼女の言葉に、彼は短く応えて頷く。

 紗慧は残った花を揃えて供え直すと、立ち上がって誠に向き直った。

さっきは上手く言えなくて……取り乱しちゃってごめんね。でも、ちゃんと伝えておきたいの」

 誠は何も言わずに彼女を見返す。

「――ここに来たいって我が儘言って連れてきて貰って。それでこんな事になっちゃって、私の方こそ申し訳なく思ってる。それでも、嬉しい気持ちもあるの。ここまで一緒に来てくれた事。誠君もお花を一緒に買ってくれた事。私、それが凄く嬉しかった」

「………………」

「まだ、辛いし、『ここ』にいると思い出し過ぎるけど……。だけど、誠君の優しさで、私は少し救われた気持ちになれたの」

 一言ずつ自分を確かめる様に紗慧はゆっくり話し、そこで声を詰まらせた。瞳からは涙が溢れていた。

「…………死なれたくない人間に死なれる気持ちがどんなだか、俺も知っている」

「え……?」

 誠は紗慧と目が合うと、すぐに視線を逸らす。

「……多分、どんなに救いがあったとしても、どれだけ時間が経ったとしても、『その気持ち(それ)』はなくならない。あんたがそれを反芻する為に『ここ』に来たいと言ったのなら、止めてたし連れてこなかった。……正直、『墓参り』っていうものが、何の為にするものなのか、俺にはよく分からない。でも、あんたが『ここ』へ来た事を、『良かった』と思うならそれで良いんだろう」

 彼は迷いながら、それでも静かにあくまで淡々と言った。

「…………うん」

 頷く紗慧の涙はすぐには止まらなかったが、胸のつかえが僅かに軽くなるのを感じていた。

 ――彼の言葉から、彼も大事な誰かを亡くした事があるのだと彼女は理解した。

 よくよく考えてみると、それは至極当然の事の様にも思える。

 紗慧は彼が何故退治屋になったのかを知らないが、もしかすると彼も妖絡みの出来事で親しい人間を失った経験があり、それが理由である可能性もあると、不意に思い至った。

 本当にそうであるかは今の彼女には分からない。しかし、少なくとも彼は大事に思う人間を亡くす痛みを知っている。彼の言う通り、その痛みが全て消える事はないとしても、彼が前へと進んだ事を『良かった』と思えていると良いと、紗慧は強く願っていた。


 紗慧が落ち着いた後、二人は旅館へ帰る用意を始めた。

 誠は面倒がりながらも、旅館で待機中の郁人いくとへ妖の件をメールで報告していた。すぐに返信が来ていた様だが、彼はそれを確認しただけで返事を返している様子はない。

 紗慧は、供えたカーネーションを纏めるとリュックサックへ仕舞う。道路で花を供えた時もそうしていた。

「――それ、持って帰るのか」

 後ろから誠が言うと、彼女は振り返って応える。

「うん。置いたままにして迷惑になるといけないから。道路もそうだけど、こういう自然の山も、土に影響があったり植生に障りがあると困るって聞いたし」

「…………」

「お供え物はお供えした時点で届くから、その後は無駄にならないように生きている人の為に使って良いんだって。食べ物や飲み物なんかは特に。だから、このお花も私の部屋で生けておこうと思ってる」

「…………ふん」

 誠は小さく鼻を鳴らす様にして肩を竦めただけだったが、紗慧も特に気にしなかった。

「私も詳しい訳じゃなくて聞きかじりだけど。多分宗教によっても違うんだろうし、どういうやり方が正しいとか、そういうのはないんだと思う。だから、誰も迷惑したり困ったりしないやり方で良いかなって」

「……………………」

 やはり何も言わず、しかし彼は何かを考えている様だった。

 最後に紗慧はもう一度、眼を閉じてのぼるの事を想い、それから誠と共にこの場を後にした。



 二人が道路脇に停めてあるバイクのもとまで戻って来た時、紗慧はふと携帯電話スマートフォンを確認してみた。

 すると、郁人からのメールが届いており、彼女は返信する為に誠に一旦待っていて貰う事にする。

 誠は待つ間に、道の外側に停めたバイクを押して道路へ戻す。

 郁人からのメールは、誠と彼がやり取りした後には届いていたらしく、紗慧は返信が遅れた事を謝りつつ、自分も無事である旨を書いたメールを手早く送って返した。

 そしてその拍子に、彼から出発前に貰ったものがあった事を思い出す。

(キャラメル……――)

 その時、待っている誠が彼女に声を掛けた。

「この後は真っ直ぐ旅館へ帰って良いんだろ? それとも町で何か食うのか?」

 紗慧は、彼が町に寄る事を望んでいないと分かっている為、首を横に振った。彼女自身、どこかで食事をしていく気分ではないという事も大きい。

「ううん。中原なかはらさんも、帰りが多少遅くなっても食べられる様にお昼ご飯を用意しておくって言って下さったし、真っ直ぐ帰ろう」

「それなら、乗る前に何か飲むなりしておけよ。行きと同じだけ掛かるからな。また休憩は入れるつもりだが」

 先の事もあってか、彼は紗慧の体調を気遣ってそう告げた。

「うん。ありがとう」

 彼女は頷いてから、鞄に入れていた水筒を取り出す。

(――そうだ)

 今しがた思い出したキャラメルを、彼女は一緒に出した。

 そして、郁人の『甘いものを一口食べるだけでも気持ちが違うよ』という言葉が、初めから彼女の疲弊を見越してのものなのではと、気が付いた。

 彼が妖の件まで予測していたとは思わないが、少なくとも、『この場所』へ来る事で彼女が心身共に消耗すると分かっていたからこそ、甘い菓子を差し入れたのではないか、と。

 本当にそうなのかは、本人に訊かなければ分からない。だが、彼女は、彼が落ち込んだ自分を励まそうとしてくれていたと、そう素直に思う事が出来た。

 そして、温かいもので胸が一杯になるのを感じる。

(……ありがとう、郁人さん)

 紗慧は胸の内で彼に感謝しながら、箱の封を切ってキャラメルを二粒取り出した。

「誠君。キャラメル、良かったら食べない?」

 彼女は一粒を誠の方へ差し出した。

 彼は眉根を寄せて、ふいと顔を逸らす。

「必要ない」

「そうかもしれないけど、良ければ」

 彼の無愛想な返事にも動じず、彼女はキャラメルの粒を差し出した手を引っ込める事なくじっと待った。

「………………」

 少しの間二人はそのまま動かなかったが、やがて誠が折れた様に溜め息を吐いた。

「何なんだよ」

 言いながら、彼は彼女の手からキャラメルを取り、包みを雑に剥いて中身を口に放り込んだ。

 紗慧はそれを見て軽く微笑むと、自身も包みから出したもう一粒を口に含む。

 誠は、妙な顔で口の中のものを数度噛み、ぼそっと一言漏らした。

「……あめぇ……」

 その声に顔を上げた紗慧は、

「誠君、甘いもの嫌い? 押し付けちゃったかな……」

と、首を傾げて訊いた。

「………別に。好きでも嫌いでもない。自分から食おうとは思わないが」

 彼は彼女を見なかったが、それでも返答だけは小さく返す。

「そっか。――じゃあ、好きなものは? 旅館のご飯で好きなメニューとか、ある?」

「………………」

 続けて質問する紗慧を横目でちらりと見やり、彼は面倒そうな顔をした。

「特にない」

「そう。旅館のご飯は何でも美味しいし、私もどれが特別って決められないかも」

 会話を広げる気がなさそうな誠の態度に構わず、彼女は続ける。

「郁人さんも、どの料理も美味しいって言ってたけど、『ふろふき大根と揚げ出し豆腐が特に好き』って。あと、お漬け物も好きみたい。『いつも種類の違う漬け物が付いてて嬉しい』って言ってた」

「…………どうでもいい」

 その言葉通り心底興味のなさそうな彼に、紗慧は思わず苦笑する。

「……そんな事より、さっさと飲んで乗る準備しろよ」

 彼は半ば呆れた様に言って、自身はグローブを手に嵌め、ヘルメットの用意をしている。

「あ、うん。ちょっと待って」

 紗慧は水筒に入った温かいほうじ茶を何口か飲んだ後、手早くそれを仕舞った。

 紗慧がヘルメットも被り準備を終えると、誠は先にシートに跨がりバイクのエンジンをスタートさせる。

「具合が悪くなったり、掴まる手に力が入らなくなったらすぐに言えよ。何も言わずに落ちたりされたら厄介だからな」

 後ろに乗り込んだ彼女に、彼は声を掛けた。

「うん」

 その広い背中越しに返事を返し、彼女も足腰に力を入れて備えた。

「出すぞ」

 ――帰路に着いても、彼の運転は行きと同じく穏やかだった。

 落ち着いた速度で傾斜を下る中、紗慧は半年前に初めて旅館へ向かう道すがら見た景色をぼんやりと思い出していた。

 あの時は夕陽に空が染まって幻想的なグラデーションを作っていた――その記憶を辿ると、また涙がこぼれそうになる。何事もなければ、昇とその美しい光景を眺める事が出来た筈だった、と。

 今は午後になって間もない時間帯で、太陽は陰る事なく相変わらず明るい。

 恐らくは誠が闘う間もそうだったのだろう。

 彼の『木』の力はその時の天候に関係なく雷を呼ぶ事が出来るが、空もまた彼の力を受け流し、或いは受けれて、あるがままを保っている。

 昇達は、その途方もないものの一部となったのだと紗慧は思った。そして、いつかは自分もそこへ辿り着く、と。

 それまで出来る限りの力で精一杯生きなければ――紗慧は改めて自分に言い聞かせる。

 誠もきっと同じなのだろうと彼女は感じていた。

 紗慧は未だに彼の個人的な事を殆ど知らない。

 いつか、知る事が出来れば良いと思うが、それは強要する様な事ではなく、でない事も確かだった。

 そして、仮に彼が心を開いたとしても、他者に知られたくない事も踏み込まれたくない領域も当然あるだろう。

 だが、今日自分が支えられた様に、彼にとって何かの支えになれる日が来れば、と、彼女は願わずにはいられなかった。

 誠だけではない。

 泰倫や郁人、旅館の人々にも、支えられている分を返せるよう、もっと自分に出来る事を増やしていきたい――紗慧はそう強く思っていた。

 ――眼下に広がる町は、晩秋に差しかった日の暖かい陽射しを受け、明るく照らされていた。

読んでいただきまして、ありがとうございます。

このエピソードはこれで終わりになります。

次回の更新はまた少し先になってしまうと思いますが、読んでくださっている方がいらっしゃいましたら、お待ちいただけますと幸いです。

いつも更新が遅くなってしまい申し訳ありません。

なるべく早く投稿出来るよう頑張ります。

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