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彼方よりの。  作者: 秋生侑珂
第二章
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翳りの兆し・三

 破壊された町の一角には不穏な気配が満ち、緊張が場を支配している様だった。

 荒れ果てた路上で、誠は黒いもやの様な獣に囲まれながらその先に構えている狼男の姿をしたあやかしを睨んでいる。

 靄の様な獣達は、金属質な音混じりの低い唸り声を発しながらゆらゆらと動き、誠の動きを牽制するかの様に彼との距離を少しずつ縮めてきていた。同時に、彼を囲い込もうとしているのが明らかだった。

 靄の獣達が現れた様子と振る舞いから、狼男の妖の手下か分身である事が窺える。ソレらの数は全部で十三体だ。

 誠は自身の身体とその周囲に、木気もっきの力である電流を纏い迸らせ靄の妖へと狙いを付けた。

 手始めに彼は一番手前側の靄の妖に向けて電撃を放つ。

〈ギギッ〉

 唸り声を上げ、吠えながら靄の妖が散り散りになりながら誠の攻撃を避けようとする。ソレらの動きは、狼男の妖よりも単調であるものの、幾分か身体が小さい為俊敏さで劣ってはいない。

 誠の攻撃は、二体にほぼ直撃し他三体の身体の一部を掠めていた。

 直撃した個体は、薄く煙を上げながら憎しみの籠った鳴き声を発し、後ろへ後退した。

 身体の一部を掠めただけの個体は、敵意を増幅させ、しかし身体をぶるりと振っただけでそのまま誠へ向かってくる。

(親玉もこいつらも金気こんきか……。だが、相性が悪い、なんてのは言い訳にならねぇ……!)


 次々と飛び掛かってくる靄の妖を躱しながら、誠は反撃の機会を窺い、全身に『気』を漲らせて備えている。

 靄の妖達は、前後左右に素早く動くだけでなく、高く飛び上がり誠を翻弄する様に縦横無尽と云って良い動きで立体的に攻めてくる。

 ソレらをび出した、或いは生み出した狼男に似た妖は、今はその場から動かずこちらの様子を眺めるのに徹している様だった。その妖については、現状で判る事があまりにも少なく、靄の妖を直接操っているのか、この様な状況下では自身が動く事が出来ないのか、など、その殆どが不明だ。

 しかし、誠は直接襲ってくる靄の妖達から受ける手応えは、並の妖を上回るものだ。

 誠は、木気の力を籠めた攻撃はせず、純粋な『気』そのものの力を練り、次から次へと飛び掛かってくる妖を直接殴る様にして応戦していた。

 靄の妖達は、脇目も振らず誠だけを狙って動いていた。

 誠はソレらに囲まれ、その攻撃を躱していたが、並の妖よりも明らかに上手の十数体の妖達による四方八方からの攻撃を無傷のまま避け続けるのにも限界があった。その上妖達は、靄の様な見た目通り常にゆらゆらと身体を揺らめかせている為、敵の真芯を捉えて攻撃を加えるのが難しいのだった。

 一瞬、敵目掛けて拳を振り上げた誠の隙を突き、一体の妖が彼の背後に回り込み、その右前腕部に噛み付いた。

「――ッ!」

 食い付かれた瞬間に何か嫌な(・・)気配を感じた誠は、即座にその妖を引き剥がそうとする。

 他の個体にも注意を払いながら、腕にその黒い牙をがっちりと食い込ませたソレの、上顎を左手でしっかりと掴む。噛まれた右腕も上手く使って、妖の両顎を上下に思い切り引き裂いた。

 『闘身』の状態の誠の膂力りょりょくと握力に、『気』の力が上乗せされたその強引な引き剥がしは、充分効果的であった。

 妖は顎を越えて首から胴体に掛けてを大きく割かれた格好となり、一際大きな悲鳴を上げた。誠は腕から離れたソレを離さず、更に『気』をソレに流し込みながら、同時に既に半分割かれた状態のソレの身体をそのまま引ききった。

〈ぎあアァァッ――――!!〉

 妖は耳をつんざく様な断末魔の声を上げると、誠が手に握った部分から煙が消える様にして薄くなっていき、 すぐに跡形もなく消え去った。


 誠は噛み付かれた腕の様子を見たが、先に直感的に危惧した通り、右腕に痺れを伴う違和感を覚えた。傷自体も決して浅くはない。

〈……ほう。その毒では大した効果が得られない、か〉

 誠達から数十メートル離れた所で、狼男の妖が呟いていた。しかし、やはり自分自身が動こうとはしない。

 靄の妖達は仲間の一体が倒されても何の動揺もなく、一瞬動きが散漫になった誠の隙を突こうと続け様に飛び掛かってくる。

 誠は負傷した右腕を振って流れる血を払うと、一斉に掛かってくる妖達を一度後退させるべく、木気のわざを使い、自身の周囲に敵を押し返す電撃を放った。

 妖達の持っている属性である金気は、木気に対して強いと云う相性ではあるものの、誠の放つ電撃の威力を無効にする程ではないらしく、その圧に押し負けて大きく後退する。

 誠が改めて間合い取り直そうと構えた時、彼の背後から見知った気配が近付くのを感じた。と、思うと、誠の背後側にいた数体の妖が燃え上がり悲鳴を上げた。


「遅ぇぞ、賀茂橋かもはし!」

 誠が叫ぶと同時に、燃え上がった妖が殴り飛ばされ、『闘身』の姿の郁人いくとが現れた。

「悪かったな! 飛べるお前と違って俺は陸路を行くしかないんだよ!

代わりにお前が苦手な行政関係の通達は全部しておいてやったんだから文句言うなよ!」

 真っ赤な炎を身に纏った郁人は、近くにいる妖から拳を叩き込み、蹴りを入れている。

 誠が先に全体的にダメージを与えていた事もあり、金気に対して有利な火気かきの力による攻撃を行える郁人の加勢で、数的な不利を覆し始めていた。

 郁人も誠と同じ様に、町の建造物や道路などに気を付けながら、敵の至近距離で炎を操っている。

 今しがた到着した郁人にも、誠から離れた所に一際大きな妖が待機しているのが見えていたが、現状で動く様子のないソレよりもまず黒い靄の様な妖を一掃するのが先決と即座に判断していた。

「……高砂たかさご、腕、大丈夫なのか?」

 弱った個体を焼き払いながら、郁人は誠に訊く。出血や傷の大きさ以上に、彼の右腕の動きは見るからに鈍っていた。

「お前に心配される様な怪我じゃねぇ」

 舌打ち混じりに返す誠に、郁人は「そうかよ」とだけ小さく呟く。

 誠が紗慧さえと出会った時に闘った『ガーゴイル』の毒針程度であれば全く問題ではなかったが、靄の妖の牙から受けた毒は比較的強いらしく、患部は他の傷口ごと腫れ上がっており、先程からじりじりと焼ける様な痛みと共に、平時と比べて二割程握力と膂力が落ちている実感が、誠にもあった。

 しかし、こちらも体感であるもののこの毒がそのまま死に至る毒であるとは、彼には感じられない。自身の自然治癒力を信じる、と云うより、任せて、誠は目の前の敵に集中していた。

 最初に十三体程いた靄の妖あ今では五体にまで減っていた。

 その妖達は、相変わらず唸ったり吠えるばかりで、個別の独立した自我がある様には見えない。

 やはり大元を叩かねば、と、誠は改めて思い直し、今も尚靄の妖を相手にしている郁人にそちらを任せるつもりで、数十メートル先に待ち構えている狼男の妖へ意識を向けた。

 誠は、一瞬だけ腰を深く落として力をぐっと溜めると、脚力と膝のバネを存分に使い、大きく跳び上がった。

「!? 高砂ッ」

 何の合図も寄越さず行動に出た誠に、郁人は思わず声を上げる。

 誠は構わず、跳んだ後翼を羽ばたかせ空中での姿勢を整えながら、狼男の妖の許へ一息に距離を詰めた。

 瞬時に間合いを詰められたにも拘わらず、狼男の妖に動揺は見られなかった。

 誠は、着地せず空中から『気』を充分に漲らせて、敵に蹴りを浴びせる。

 妖は、直ぐ様防御姿勢を取り、誠の一撃腕で防いだ。

 敵が防御するのを見越していた誠は、やはり滞空したままソレの防御を崩そうと蹴りを繰り出し続けた。


 妖の守りは堅かったが、それなり以上の重さと威力を持つ誠の蹴りを頭上から受け続けるのは不利と判断したらしく、タイミングを合わせて誠の脚を払うと、反対側の足首を掴んだ。

 妖は、そのまま誠を引き摺り落とそうと、掴んだ誠の脚を強引に引いたが、誠は相手の力を利用する様に瞬間的にわざと引っ張られたと思うと、次の瞬間には身体を捻りソレの体勢を崩した。

 敵の防御体勢が弛くなると、誠は、掴まれていない方の左脚で妖の鳩尾辺りに膝蹴りを叩き込んだ。

〈――っぬぅ……ッ〉

 妖はその衝撃に思わず呻き声を発し、誠の脚を掴む力が大幅に弛む。

 誠はその隙を逃さず、右脚から手を振り払うと、その勢いのまま妖の頭部に踵落としを直撃させた。

 踵落としがが命中すると共に、妖の体勢がぐらりと傾く。が、倒れた訳ではなかった。

 誠は敵が立て直す前に、と、間を置かずに攻め続ける。

「……あいつ、本当にお構いなしかよ……!」

 一方的に靄の妖達の相手を任された郁人は、最後の一体を炎で燃やしながら舌打ちしていた。

 誠の態度に対しての不満はあっても、いくら文句を言っても始まらない、と、郁人も割り切ると、自身も狼男の妖と闘う為にそちらへ向かう。


 誠は『気』を籠めた体術で攻めながら、その手応えに妙な不自然さを感じていたが、かと云って他に手段がある訳でもなく、慎重に様子を見つつ攻撃を続けるしかなかった。

 途中から郁人が加勢するが、誠はそれを気に留める事もせず、まるで独りで闘っているかの様に続ける。

 妖は、誠に打たれてばかりでは勿論なく、その見た目以上の俊敏さで誠の攻撃を避け、いなしながら、更に途中から加わった郁人への警戒も疎かにしてはいなかった。

〈二人掛かりでもそんなものか? その程度で退治屋とはな〉

 妖はあからさまな挑発も仕掛けてくる。だが、それだけの余裕がある事も事実であった。

 敵の属性である金気に対しては郁人の火気が有効ではあるが、郁人もやはり町への損害を気にしており、思うように攻勢に出られていない。

 誠は、あまり効果的ではないと理解しつつ、敵への牽制として、電撃による攻撃も仕掛けていた。しかし、どの攻撃も半端な手応えしか感じられず、彼も内心で焦っていた。

 一方で、郁人も自身の火気の力を活かした攻撃に出られず、苛立っている。敵を前に、せめて誠が連携を意識して闘ってくれれば、と、彼の、単独行動でいるかの様な闘い方を恨めしく思った。

 誠と郁人は各々別に、状況を打破する方法を考えているのだった。

読んでいただきまして、どうもありがとうございます。

今後も不定期的に更新していく予定です。

のんびりとお付き合いいただけましたら幸いです。

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